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邪神さんの街への買い出し20

「ねぇ、フィルさん」

「うん?」

次の買い物の目的地である魔法屋へと向かう途中、

手を繋いで隣を歩くフラウがフィルに尋ねた。


今日は一日、武器屋に道具屋に服屋にと色々な店を巡ったフラウだが

装着者の耐久力を向上させる魔法のブーツのおかげもあってか

未だ疲れ知らずで次の店はどんなだろうと

すっかりショップングを心から楽しんでいる。

疲れ知らずという意味ではリラ達四人も同様で

こちらはマジックアイテムの恩恵も無いのに

疲れた様子どころか先程から楽しそうにお喋りを続けていて、

荷物を持たされたり待たされたりして

疲れ顔を頑張って抑え込んでいる男三人とは全く対照的だった。



「魔法屋さんってどんなのが売っているんです?」

「んー、店によっても違うけど魔法で使う道具全般だね。スクロールとその素になる羊皮紙とか、呪文の構成要素とか、エンチャントの触媒とか、焦点具とかかな? 他にも魔法関連の本とかワンドやアミュレットみたいなマジックアイテムも売ってると思うけど、この辺は店によって売ってたり売ってなかったり色々だね。とりあえずスクロールと構成要素はどこも扱ってるんじゃないかな?」

「わぁー……」

「想像がつかない?」

「はいです! えへへ~」

そう言って照れ笑いを浮かべるフラウ。

「あ、大釜とかほうきとか、水晶玉とかは売っているんです?」

「あー、箒と言うと空飛ぶ箒とかかな? 気になる?」

「えへへー。空を自由に飛べるのって凄いです!」

おとぎ話に登場する魔女を想像しているのだろう。

一般人が想像する魔法使いと言うと、確かに一番想像し易いイメージなのかもしれない。


「そうだなぁ。残念だけど箒や大鍋を売ってる魔法屋は少ないんじゃないかな? 魔女が使う大鍋って大抵は魔法の掛かってない普通の物が使われるみたいだし、空飛ぶ箒はかなり高価なアイテムだから扱ってる店は結構少ないんだよ」

「そうなんです……?」

「うん。ちなみに空飛ぶ魔法の箒、ブルーム・オヴ・フライングって言うんだけど、お店で買おうとすると金貨一万七千枚するんだ。これだけ高価なアイテムだと余程成功している魔女じゃないと買えないだろうし寧ろ持っている方が珍しい位だね」

「わぁ……そんなにするんです?」


ブルーム・オヴ・フライングは確かに便利なマジックアイテムであったが

それだけに非常に高価な代物で、

実際、フィル達が討伐したハグの中に空飛ぶ箒を持ったのはなかったし

フィルが知るウィッチの知り合いにも魔法の箒を持っている者はいなかった。

エンチャントして自前で作れば半額のコストで済むとはいえそれでも金貨一万弱は必要になる事と、

もう一つのウィッチ特有の理由を考えれば

余程の憧れでもない限り彼女達が無理して持とうとしないのも頷ける。


ちなみに、魔法の掛かってない大鍋は金貨一枚で買える。

魔法の掛かった特別製の大鍋もあるらしいが

大抵のウィッチは街や村で売っている普通の大鍋でポーション作成や錬金術を行う。

何の変哲もない鍋を使ってる事に肩透かしを食らう者もいるが

むしろあんな普通の大鍋一つでポーションや錬金術薬を作ってしまうのだから

魔女の技というのはある意味凄いものだと思う。


「なんだか残念です……」

物語では有名な魔女と箒の組み合わせの現実と

空飛ぶ箒のお値段を聞いて残念そうなフラウ。

なんだか夢を壊してしまったみたいで申し訳なくなってくる。

「なんか夢の無い話になっちゃったけど、僕も魔法の箒を持ってるハグやウィッチを見た事は今まで無いんだよね」

勿論フィルの出会っていないだけで、この世界には高位のウィッチやハグは沢山いるし

その中には魔法の箒を持つ者もいるだろう。

もしかしたらフィルが出会ったウィッチも

高価なアイテムなので人前では見せないだけだったのかもしれない。

だが、少なくともハグを討伐した時の戦利品にはそれらしいマジックアイテムは無かったし、

知り合いのウィッチがわざわざ魔法の箒に乗ってやって来た所をフィルは見た事が無かった。


「ウィッチ、ハグ?」

フィルの言葉にフラウは不思議そうに尋ねる。

「ああ、魔女にはウィッチとハグっていうのがいてね、簡単に言うと、見た目からして化け物なのがハグで、見た目は普通の人とあまり変わらないのがウィッチかな? 性格はハグはほぼ確実に悪の化け物で旅人を騙して殺す事を喜びとしているけど、ウィッチは人それぞれで善人もいれば悪人も居いるって感じだね」

中には明らかに怪しげな見た目で相手が怖がるのを楽しむウィッチも居たりするのだが

それはもう人それぞれなのだと言う他無い。


「なるほどですー?」

「まぁ、実際はハグも美女に化けて獲物を騙したりするから見た目だけで判断するのも危ないんだけどね」

「そうなんです? じゃあハグは物語の悪い魔女って感じで、ウィッチは良い魔女なんです?」

「ハグの方はあってるけど。ウィッチの方は、そうだなぁファイターやウィザード、クレリックにも善人と悪人がいるように、ウィッチにも善悪両方いるんだよ。それとこれはウィッチに限った事じゃないけど、ある人が見たら英雄でも別の人から見たら悪漢という事もある。だからどんな人でもすぐに善人とか悪人とか決める前に自分で見てから判断する方が良いかな?」

「えーっと……はい、です?」

最後の方は些か説教めいた話になってしまった。

少し戸惑っているフラウの気を紛らわそうとフィルは話題を戻す事にした。


「ああそうそう、ちなみに経験を積んだウィッチは箒が無くても飛べるんだよ。飛んでいられるのは数分程度とあまり長くないけどね。それに長距離の移動にはテレポートだってある。普段から空を飛んでいる必要がある訳じゃ無いし、これで十分っていうウィッチは結構いるみたいだね」

「そうなんです? それじゃあ魔法の箒って本当に必要ないんです?」

「長距離を移動するのには確かに凄く便利なんだけど、いかんせん個人用のアイテムだからね。そこまでしてお金を払う余裕と理由があるかどうか次第なんじゃないかな?」


最大でもせいぜい二人までしか乗れない空飛ぶ箒は

冒険者でもソロならともかくパーティの様なグループ行動には不向きであり、

さらに言うと長時間の移動で箒に跨り続けるのは結構大変な為

もっぱら複数人が乗れて快適な空飛ぶ絨毯の方が好まれ

空飛ぶ箒はますます趣味の品としてニッチな物となっていく。

気の向くまま大空を自由に飛び回るというのは確かに気持ち良い事なのだろうが

それにしてはかかるコストが大きすぎるのだ。


「そうなんですねー。あ、じゃあ水晶はどうなんです? 前に村に来た占い師の人も水晶玉で占ってたって村長さん達が言ってました!」

「ああ……水晶球かぁ」

そう言えばこの村で最初に騒動に巻き込まれた時

村長がそんな事を説明していた。

あの時の占い師は結局何が目的だったのだろう……?


「他の水晶球はともかく、占いに使うクリスタルボールは空飛ぶ箒以上に滅多に売ってないんじゃないかな? あれは凄く高価な品で、さっき話した魔法の箒の倍以上の価値が有るからね」

「そんなにするんです!?」

「うん、一番安い奴でもとても高いんだよ。たしか金貨四万二千枚だったかな」


念視=スクライング呪文と同様の効果を発揮する、

遠見の水晶球とも言われるクリスタル・ボールは店で買おうとすると非常に高価な代物だった。

一番安い物でもこの値段で、追加される効果次第で価格は更に上がっていき、

トゥルー・シーイング付きともなれば金貨八万枚という値段になる。

はっきり言って普通の人が占い師をしたいから欲しいといっても買えるような代物ではない。


「なんだか想像つかないお値段です……でも、よく占い師の人とか水晶玉を持ってたりするんじゃないんです?」

「ああ云うのは大抵インチキな事が多いんだよ。大抵は魔法の込められてない唯の水晶玉な事が殆どだね」

俗に言う託宣者や占い師と呼ばれる連中はこの種のアイテムと同様の外見の、

しかし魔力はまったくない模造品で商売をしている事が殆どだ。

だが、村に現れたという占い師は、

フィルの正体を見越したような発言をしていたという。

この辺も気にはなるのだが、いかんせん今は証拠が何も無い。


「マジックアイテムのクリスタル・ボールを使わずにスクライングの呪文を行おうとするなら、魔法の掛かってない水晶球を使うんじゃなくて銀の鏡を焦点具として使うんだ。これも金貨千枚はするアイテムだけど、それでもクリスタル・ボールと比べれば安い物だからね」

「金貨千枚でもすっごく高いです。フィルさんは占い出来るんです?」

「そうだねー。ウィザードの占術系の呪文っていうなら、色々あるよ? スクライングも出来るし、物品のある方向を感知するとか、離れた場所のできごとを見たりだとかもあるね」

「わぁ~。未来を占ったりも出来るんです?」

「未来かぁ。ウィザードの呪文には漠然と未来を視るっていう魔法は無いかなぁ。クリスタルボールやスクライングの呪文も現在の離れた場所を観察する魔法だし」

一応フォアサイトという第六感が身に迫った危険を警告するという呪文もあるが

これは多分フラウの思い浮かべる未来視とは違うだろうし

なによりメテオ・スウォームやタイム・ストップと同列の第九段階呪文であり

この呪文を使えると公言する事は憚られた。


「そうなんです?」

「うん。ウィザードの占術は現在や過去を調査するという目的の方が多いんだよ。過去や現在からヒントを得て問題解決をしていくんだ」

「でも未来の答えを知りたくなったりしません?」

「そうだねぇ。でもウィザードの魔法には未来を視る呪文ってあまり無いんだよね。クレリックの魔法だと神様から神託を得ることが出来るオーギュリイやディヴィネーションやプログノスティケーションといった呪文があるのだけどね」

「そっちだと未来を占えるんです?」

「うん。オーギュリイは直近の吉凶占い、ディヴィネーションは1週間以内に起きるできごとの助言、プログノスティケーションは1年と1日先までの未来を見ることができるんだ。ただ、遠い未来を視ても不確定要素が多くてまるで暗号みたいになっちゃうんだけどね」

「そんなに未来を占うって大変なんです?」

「そうだね。そもそも不確定要素が多いからね。神様をもってしても予想するのは難しいんだと思うよ」

「なるほどですー」

「そう言う訳で、安易に未来を語る占い師もどきに出会った時は関わらないか彼らの目的が何かを推測して動く事が大事なんだ。しつこく言い寄って来る様だと大抵は禄でもない事を企んでたりするからね」

「フィルさんもそう言う人に会った事あるんです?」

「ああ、僕らの時はただの詐欺師だったけどね。ホントあの手の輩は面の皮が厚いというか図々しいというか……」

「わぁ~……」


そんな取り留めも無い会話をしている内に魔法屋らしき建物が一行の目に入って来た。


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