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邪神さんの街への買い出し12

店員が用意した金貨の数を確かめたフィルは、

自分のバッグから小さな革袋を二つ取り出すと

金貨の山から冒険者の報酬と村人達の分を取り分け袋に入れた。

「金貨は等分の百二十五枚でいいね?」

「はい! ダリウもそれでいいよね?」

「ああ、それで問題無い」

二人が了承したのを確認して、

フィルは取り分けた金貨を革の小袋に入れると

冒険者と村人それぞれの代表であるリラとダリウに手渡す。


「たしかに……って、これ結構重いですね……!」

フィルから渡された革袋の意外な重さに少し驚くリラ。

もの珍しそうに袋を上下して重さを確認している。

確かに同じ体積ならば金は銀や銅の倍近く重いので

集められた金貨というのは見た目以上に重たい。

特に冒険者になって初めて纏まった金貨を手にした時は良くある事で

自分も駆け出しの頃、まったく同じような感想を持ったものだった。


「結構な金額になったろう? こうやって戦利品をきちんと集めればゴブリン退治でも結構な額に……」

「ねっ、ねっ、リラ、私にも持たせて下さいよー」

「いいわよ。はい」

「……おおう! やっぱり金貨はずっしり来ますねー!」

フィルが説明している傍で金貨の詰まった革袋を持ってはしゃぐサリア。

勿論フィルの説明を聞いている様には見えない。

まぁ……自分たちも初めて報酬を手にした時は似たような物だったので

良く分かるといえば良く分かるのだが……。


「あ、私も持っていい? ホントだ。すごく重く感じるね」

「確か、金って鉄や銀の倍ぐらい重いのよね……本当に重く感じるわねー」

そしてサリアが楽しそうにしていると、

アニタとトリスが興味を持ってサリアの所に集まってきて

革袋を持ち上げては、その重さに楽しそうにはしゃいでいる。 

此方もフィルの説明を聞いている様には見えない。

拳大より一回りほど大きな革袋を上下に振っては

普段持ち慣れないその重さにきゃっきゃと騒ぐ少女達。

フラウも呼ばれて加わって、やはり袋の重さに無邪気に驚いたり喜んだりしている。

フラウが楽しそうにしているのは大変喜ばしい事ではある……と、フィルは諦めた。


少女達の様子にこれ以上の説明は無駄と悟ったフィルが

やれやれと溜息を一つ吐くとダリウが声をかけてきた。

「なぁ、フィル。悪いがこの金はそこの金貨と一緒に預かってもらえるか?」

「うん? それは別に構わないけど、良いのかい? これから買い物に行くのに」

楽しげな少女達とは対照的に男二人の方の表情はあまり明るいものではなかった。

金貨の入った革袋を受け取ったダリウだが

一度は手に取ったものの、その重さを確認した後は難しい顔をしている。

「ああ、これから買い物に付き合って街の中を回るにこんな大金をずっと持ち歩くのかと思うと心臓に悪すぎる。今日一日持っててもらえるか?」

表情にあまり変化は見られないが

苦笑いを浮かべたダリウは手にした革袋を再びフィルに渡す。

普通の農民が普段手にする事が無い様な大金を

それも村の食料や家畜を購入する為の言わば村の命綱とも言える大切な金を持って

街中を歩き回るのだから躊躇うのも無理はない。


「そう言う事ならこれは預かっておくけど。今日の買い物はいいのかい?」

「ああ、今日行く場所に必要な物は無いし、少しぐらいなら手持ちで何とかするさ」

「僕もそれでいいと思うよ」

ダリウの言葉にラスティも頷く。

どうやらラスティも大量の金貨を持ち歩くつもりは無いらしい。

「余程欲しい物があった場合は金を出して貰うかもしれないけど、明日も買えそうならその時買えばいいし、それより大切なお金を落としたり失くしたりする方が問題だからね」

「なるほど、それじゃあ金貨は預かっておくよ」

ラスティの言葉にフィルはダリウから金貨の入った袋を受け取ると、

ロングソードを売った金貨と共に自分のバッグの中に仕舞い込んだ。


「これでここでの用事は済んだけど、皆は何かまだ買い残したものはある?」

「んー、とりあえず矢とボルトを補充しておきたいですけど、それ以外は特には無いかな? 今は武器より防具を優先させたいですし」

「うんうん。実際、百GPじゃ無駄遣い殆ど出来ませんからねー」

ファイターでありパーティのリーダーでもあるリラにサリアが同意する。

確かにサリアの言う通り、彼女達パーティの所持金は金貨百枚ちょっと、

これでは魔法の掛かってない普通の武器を買うか矢やボルトの補充をするのが精々だ。


幸い、遠距離用の武器についてはゴブリン狩りの戦利品であるショートボウを

リラとサリアが自分用に確保してあるので

クロスボウをフィルから借りているアニタと合わせて

現在のパーティには遠距離武器の所持者が三人と、なかなかに充実している。

出来る事なら残るトリスにもクロスボウを買い与え

全員が遠距離攻撃できるようにしたい所だが、

ライト・クロスボウで金貨三十五枚、

ヘヴィ・クロスボウでは金貨五十枚する事を考えると

今は先に防具を確認した方が良いだろう。

結局、幾らかの矢弾を補充した一行は

武器屋での用事を一旦済ませ、次の用事先である防具屋へと向かった。



武器屋の店員から教えてもらった防具屋は

フィル達が今居るこの場所からほど近い場所にあった。

武器屋の店員が言うには互いの店舗は協力関係にあり

職人を融通し合って効率化を図ったり

武器と防具を求めに来た客に互いの店を紹介したりしているのだという。


防具屋は大きな一品一品が大きい為か

武器屋の数倍近く広い店内には

様々なデザインの金属鎧や革鎧が見栄えよく飾り台に着せられ陳列された区画と

棚が並びブレーサーやヘルムといった部位防具が陳列された区画に分かれていて

道具屋の様な雰囲気だった武器屋とは異なり

店内は何かの展示場といった雰囲気になっていた。


「わぁ~鎧がいっぱいですー」

フィルの手を握って店内に入ったフラウが

店内に陳列されている鎧を見つけ興味深げに眺める。

「へぇー。品揃えの種類は結構良いみたいね」

「確かに、これだけの鎧を揃えてるのはさすが専門店だね」

様々な鎧が並ぶ店内を見回し感心するリラにフィルも同意する。

武器と比べて鎧というのは何かと嵩張るもので

革鎧ならまだしもで、金属鎧の、それも重装鎧ともなると

分解して纏めたとしても一領持ち運ぶのも一苦労だ。

そんな鎧を見栄え良く一つ一つ装備時の形態で展示した物がずらりと並んでいるのだから

店内はなかなかに壮観な眺めだった。

そんな鎧は大きさだけでなくお値段も相当で

リラは目の前のチェインメイルの名札を見ては

「やっぱ高いなぁ~」

と、諦めのため息を付いている。


ちなみに今リラが見ていたチェインメイルのお値段は金貨百五十枚。

これは金属鎧の中では比較的安い部類なのだが、

それでも今のリラ達には予算オーバーだった。

これより安い鎧となると、今リラが着ている物と同じスケイルメイルか

軽装鎧に分類されるチェインシャツぐらいしか無く、

それだとどちらもわざわざ買い換えるメリットは無い。


「うーん、鎧って高いですからねぇ。中古なら少しは安いかもしれませんけど」

「うーん、それでも結構するのよね……。あと、出来れば新品がいいな……」

パーティの懐事情を考えれば贅沢を言ってはいられないのだが

それでも命を懸ける防具は自分が納得できる物が良い。

単なる我儘かもしれないが、その気持ちはフィルにも良く分かる。

「ふふふっ。そうねぇ。やっぱり初めて自分で買うものですもんね。せめて盾だけでも買っておくのが良いんじゃないかしら?」

難しい顔のリラにそう言って、妹を宥める様に提案するトリス。

パーティのお姉さんの言葉は偉大で、全員が素直に頷く。


盾売り場は鎧が陳列されているフロアの壁側にあり、

そこには様々な種類の盾が壁一面に掛けられていた。

トリスが持っているカイトシールドと同型の盾も様々なデザインの物が陳列されており、

リラはそれらの一つを手にとって大きさや持ちやすさを確かめる。

「木だと金貨七枚、鋼鉄製は金貨二十枚だって」

「鎧見た後だと、なんか安く感じちゃいますね」

一通りの値札を確認したリラにサリアがそんな素直な感想を漏らす。

どうやら新品は大きさのカテゴリ分けと材質で金額が違うのみで

例えばヘビーシールドに分類される盾の場合は

カイト、ヒーター、ラウンドと……デザインに違いはあっても一律同じ金額らしい。

「まぁ、造りも鎧程複雑じゃないしね。んー……形はやっぱ使い慣れたカイトで……材料はとりあえず木でいいかな?」

「いいんじゃないですか? 鋼鉄は重くて旅で持ち歩くのに大変そうですし、壊れたらその時にどうするか考えるでいいと思いますよ? フィルさんはどう思います?」

サリアに尋ねられて、フィルもふむと盾を見てみる。

実際、素材の違いやデザインの多少の違いは戦闘に大きな影響が無い。

木製は炎で燃えるとか、鋼鉄製はラストモンスターに喰われるだとかはあるが

かといってファイアボールを喰らったぐらいで盾が燃える事は無いし、

ラストモンスターに出会う確率なんて稀に良くある程度だ。

それならサリアが言う様に取り回しと普段の使い勝手を重視した方が良いだろう。

なにより慣れない旅で荷物は軽いというのは

荷物の重量に悩まされがちな駆け出しには大きなポイントだ。


「まぁ、木の盾でもそう簡単に壊れないし性能にも違いは無いから、取り回しや移動の事を考えて木製を選ぶのは悪くないと思うよ」

「なるほどー。じゃあこれにしますね。すみませーん」

サリアとフィルの言葉に購入を決めたリラは

手近な木製のカイトシールドを手に店員を呼んだ。



リラが店員を呼んで精算と盾の調整をしている間、

他の面々は空いた時間で店内の鎧や防具を見て回っていた。

「あ、フィルさんフィルさん。これって女の人ようなんです?」

フィルと手を繋いでもの珍しそうに店内を見ていたフラウが

新しい鎧を見つけフィルの手を引っ張る。

「これは女性用のブレストプレートですねー。戦士の人が着れる鎧ですよ」

「へー。えへへ。かっこいいです!」

二人に一緒に店内を見て回っていたサリアの説明に、フラウが嬉しそうに言う。

フラウが見つけたのは女性用のブレストプレートだった。

一般的な鎧と比べて若干細身に作られたその鎧は

優美な胸の曲線や絞られた腰のシルエットの所々に刻まれた華やかな意匠や

女性らしさを演出する腰回りを包むスカート、

動き易さと線の細さを際立たせる、二の腕や太ももを覆うきめの細かいチェイン等

機能はもとより見た目も重視された、まさに女性向けに作られた鎧だった。


「冒険者の女の子には結構こういう鎧を着てる子も多いんですよ?」

「そうなんです? フィルさんはこういう鎧は持ってるんです?」

「いや、僕は持ってないね。こういう女性向けの防具はオーダーメイドで造る場合が殆どで戦利品で手に入る事は殆ど無いんだよ」

「オーダーメイドです?」

「うん。欲しい人がお店に注文して自分用に造ってもらうんだよ。その人専用の一品鎧という事だね。女性用鎧はそうやって造られるのが殆どだから数自体がかなり少ないんだ」


女性用の鎧というのは世に出回る数がかなり少ない。

そもそも鎧は男女共用というか男性用に造られる場合が圧倒的に多い。

それは、戦闘という行為をする者は男性が多いという事もあるし、

戦闘という行為にファッション性を求める女性が少ないという事もある。

何より男女共用、というか男性用で鎧を作っておけば男でも女でも装着出来るのだから、

一部の経済的に余裕のある組織や階級は例外として

軍隊や衛兵の様な大量の鎧が必要な組織では、

リソースの観点からも鎧は男女共用が採用される場合が殆どだった。


そんな採用される機会の少ない女性用の鎧だが

例外的に一部の金に余裕のある冒険者や貴族の子弟には、

多少余分にお金を積んででもオーダーメイドで制作される位に人気が高かった。

人気がある理由は様々なのだが、

彼女達にとって防具は、ただ戦闘で命を護るだけの物、という訳では無いという事なのだろう。

既製品を自分の体型に合わせてあれこれ弄る位であれば

初めから自分の体型に合った鎧を自分好みのデザインで造ってもらおうという事らしい。

この様な成り立ち故に女性用鎧は冒険者などの利用者は多い一方で

世に出回る数がかなり限られていた。


「それに、手に入ったとしても僕らじゃ使えないからすぐに売り払っちゃうんだよね」

「えーそうなんです?」

フィルの残念な答えに、残念そうフィルを見上げるフラウ。

敵の拠点に置かれていた女性用鎧……、

他の武具も多かれ少なかれ同じ様な物だが

その経緯と持ち主の末路を考ると正直あまり持ち続けたい物ではない。

勿論そう言う理由を抜きにしても

それがどんなに高性能な鎧だったとしても、

魔法でサイズが調整されて着れる鎧だとしても、

女性用の鎧を中年男が着るのは絶対勘弁願いたいものである。


「流石に僕らがスカート付きの鎧で戦うのは変だからね」

「それはそうですけどー。うー」

それ以上の説明は避けようと、わざとおどけて言うフィルに

フラウは残念そうに唇をとがらせる。

どうやらフラウはああいう鎧を随分気に入ったらしい。

「ふふふっ、フラウちゃんもどうせ着るなら可愛い方が良いですよねー」

「はいです!」

サリアと一緒にですねーと盛り上がるフラウ。

そうなるとフィルの手持ちの鎧達は皆対象外になってしまう。

実際、フラウがフィルの鎧を着る事、それ自体が無いとはいえ

なぜだかとても非常に残念な事ではある。


「私も次にお金が貯まったらもう少しかわいい鎧がいいんですよねー」

「サリアが着ている鎧も女性用だよね? あれも可愛い鎧だと思うけど」

今は普段着だが、冒険や訓練の時にサリアが身につけている鎧は

細身の女性用のレザーアーマーだった。

短めのスカートや線の細い腰回りなどは

少女の魅力を十分に引き立てているように見える。

「レザーアーマーは女性用も普通に売ってますからね。買えるには買えるんですけど、どうせならもう少しかわいい鎧が欲しいじゃないですか」

サリアの言い分を聞いてぽかんとするフィル。

鎧なんて必要な性能さえ満たせばそれで良いと思っていたフィルには

今一つ良く分からないのだが、そういう物なのだろうか?

いや、まぁそういうものなのだろう。

「オーダーメイドだと体の線とかすっごくかわいいんですよ! 変なだぶつきとか全然ないですし! 肩もすっごく可愛く出来るんですよ!」

理解出来ずにぽかんとしているフィルに力説するサリア。

サイズが問題という事であれば

サイズ調整機能をもった魔法の鎧を手に居れば良いのではと思ったが

どうやらそう言う問題とは違うらしい。

何とも、女性とはかくも難しいものである。


なおも続くサリアの説明をフラウが楽しそうに、

フィルが理解できずに聞いている所で

会計と調整を済ませたリラが皆の所に戻ってきた。

「鎧は買わなくていいのか?」

会計を済ませたリラにダリウが尋ねるがリラは苦笑い交じりに首を振る。

「私が欲しい鎧で一番安いチェインメイルでも金貨百五十枚、本命のブレストプレートだと金貨二百枚、今の私達じゃ全然買えないのよね……」

「はあ……あれだけ武器を売っても買えないのか……」

「オーダーメイドでも値段は殆ど変わらないらしいけど、どっちにしても手が届かないから意味ないですしねー」

値段に呆れるダリウに、サリアが補足してくれるが

結局今の予算で購入出来ない事には変わりない。

まぁ盾を持つだけでも防御は大分変わるし、急ぐ必要は無いだろう。

「そう言えばサリアは盾は良いのかい? ライトシールドかバックラーでも」

「うーん、楽器を使う事を考えるとあんまり気が進まないんですよねー。それにライトシールドって、魔法の盾でも無いとあまり効果が無いですし」

確かにライトシールドやバックラーは手軽に持ち運べる事は利点だが

その分防御できる範囲が狭く扱うのはなかなか難しい。

フィルが貸したような魔法の盾なら別だが、

普通のライトシールドをバードのサリアが使っても

確かにあまり効果が無いのかもしれない。


「それじゃあ、ここでの用事も終わった事だし、次はマーケットへ行きましょうか? あ、フィルさん、盾を持ってもらって良いですか? あと、さっき買った矢も」

「うん? まぁ、良いけど」

「ありがとうございます! じゃあこれ!」

笑顔のリラからカイトシールドと矢とボルトを押し付けられ

呆れ交じりの溜息を吐きながらバッグの中に収納するフィル。

「それじゃあ、買い物に行きましょうか!」

「「「「おー!」」」」

リラの掛け声に少女四人の声が揃う。

どうやら、彼女達の本命は此方の様で

先程とは全然違うテンションにフィルはやれやれと溜息を吐いた。


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