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邪神さんの街への買い出し8

「せっかくですし明日の予定を決めちゃいませんか?」

注文した料理が全て運ばれ、皆で食事を始めてから暫くして、

サリアがそう話題を切り出してきた。


「明日は色々な所に買い物しに行くんですし、ここで皆の行きたい場所を決めておいた方が良いと思うんですよね」

そう言ってから自分の前に山と盛られた揚げジャガイモをつまんで食べるサリア。

あのポテトフライ達はフラウがフィルさんどうですかって頼んでくれた物なのだが

結局、今は女性陣のテーブルの真ん中で大活躍している。

ああした手軽に摘まめる料理は女の子達にも好評の様で

おそらく一通り料理を食べ終えた後も、

あの場所に残り、話のお供として活躍し続けるのだろう。

遠く離れてしまったのは少し残念だが、

フィルの手元にはフラウが小皿にこんもりと取り分けてくれてあるので

食べるには不自由しないし、その位は我慢すべきなのだろう。


「まぁ、そうだな。俺達は食料の買い出しをしたら畑に植える野菜や果物の種と、あとは家畜を見に行こうと思う」

そう言うダリウの前には揚げた鶏肉が、

こちらもたっぷりと大皿に盛られている。

大勢で食べ易いよう程良い大きさに切り分けられた鶏肉は

しっかり味の付いた衣で揚げられていて

食べ応えがあって尚且味も申し分ないと

男性だけでなく性別年齢問わずに好評なメニューなのだという。

ダリウの向かいの席に座っているフィルとしても

隣に座るフラウが喜んで食べる姿が見れたのは大変喜ばしい事だった。


「あ、僕はそれと本を売ってる店があったら行きたいかな? 野菜や家畜の育て方についての本があれば欲しいんだよ」

そう言うラスティの前、テーブルの中央には

ローストされた羊肉が綺麗に切り分けられて大皿に並んでいる。

香草や調味料と共に漬けた羊肉にじっくり熱を通したそれは、

手の込んだソースと一緒に食べると存分に肉の旨味が味わえると評判で

この店自慢の一品なのだという。


これら大皿の一品料理に追加して

定食である鶏のシチューとパン、茹でたニンジン、

さらにはそれぞれ好みのエールやワインや果実水が各人の前には置かれており、

夕食はちょっとした宴会の様相を呈していた。

この人数でこれだけ注文しても全部で金貨三枚で済むのだから

この店が賑わうのも十分納得できる。


「私達は武器を売ったらそのまま鎧と盾を見たいかな? 鎧は値段的に無理そうでも盾は買っておきたいのよね。あっと、旅の道具を買い揃えるのも忘れないと」

そう言ってひょいと羊肉を大皿から自分の小皿にとるリラ。

その小皿には確保した唐揚げも積まれていて非常に肉肉しいが、

定期的に隣に座るトリスから野菜も食べなさいとジャガイモが投入されている。

「あとは服が買いたいな。せっかく街に来たんだし……」

「ふふふっ。そうね。皆で一緒に買いに行きましょう? あ、私は小物とかも見に行きたいです」

少し恥ずかしそうに提案するアニタに、トリスが笑顔で同意する。

ウィザードと言えども女の子は女の子なのだろう。

変わり者が多いという印象を持たれがちなウィザードだが

一部の変人が善きにつけ悪しきにつけ目立ちすぎているだけで

その多くは普通の感覚を持ったごく普通な人々だ。

彼女にはこうして普通の女の子でいてもらいたいと思うのは

フィルの身勝手な老婆心なのかもしれないが。


「そうですねー。市場を色々見てから専門のお店を探してみるのも良いかもですねー。それでフィルさんはどうするんですか?」

「うん? 僕はダリウ達と一緒に食料や作物の種を見に行こうと思うよ?」

サリアに尋ねられてエールをのんびりと飲んでいたフィルはジョッキを置いた。


今回買い出し予定の村で食べる食料は

資金に余裕が出来た事もあって前回の買い出しより大量で、

とても数人程度の人の手で運べる量では無かった。


一応、今回の買い出しでは荷車とロバを買う予定ではいたが

それはあくまで家畜や作物の種や苗木といった

バッグ・オヴ・ホールディングで運べない「生きた物」を運ぶ為であり、

生死に気を付ける必要の無い野菜や塩といった物に関しては

バッグ・オヴ・ホールディングを持つフィルがダリウ達に同行して

買った品をその場でバッグに入れて運搬する手はずになっている。


「武器屋に行った後は君達は色々街を見て回るといいよ。食料とか村の事はその間に僕らでやっておくからね」

ダリウとラスティの男二人も勿論そのつもりで、女の子達は遊んできなさいと頷いて見せる。

男衆としては女性に気兼ねなく楽しんでこれるよう配慮したつもりだったのだが、

「え~~」

という残念そうな声は、想定しない場所……すぐ隣から聞こえてきた。


「フィルさん、一緒にお買い物しないんです……?」

そう言って残念そうに見上げるフラウに

フィルはどうしたものかと困った笑顔を浮かべる。

「そうだね。村のお使いには僕も一緒に行った方が良いからね」

荷物運びの事もそうだが、万が一トラブルになった時は、

フィルが居た方が力にしろ金にしろ何かと解決は早いだろう。

そういう理由なのであって、決して女の子の買い物に付き合わされるのが面倒とかいう訳じゃない。

けど、おそらく女の子達は買い物には時間が掛かるだろうし

そうなっては市場や店で食べ物や作物を見て回る時間が無くなってしまう。

だが決して女の子の買い物に付き合わされるのが面倒とかいう訳じゃない。


「お互い色々なお店をじっくり見て回るとなると時間も掛かるだろうし、別々に行動した方が良いと思うんだ」

「でも……それじゃフィルさんと一緒におかいもの出来ないです……」

フィルの袖をひいて訴えるフラウ。

フラウは勿論、お姉さん達と一緒に服や小物を見て回るつもりだったようだが

自分と一緒にお買い物をする事を楽しみにもしていたようだった。

それが一緒に出来無いとなったのでは、がっかりするのも当然なのかもしれない。

「それじゃあ……私はフィルさんと一緒にいくことにします……」

しょんぼりと悲壮な決意をするフラウ。

そこまで悲しそうな顔をされてしまうと、

流石にフィルも悪い事をしたなと思えてくる。


「ほーらっ、フィルさんフラウちゃんを悲しませちゃダメですよー?」

「そうは言うけどね……」

姉が弟を窘めるような口調で窘めるサリアにフィルは反論するが

さりとて良い良い案は出てこない。

市場で作物や家畜を見て回るのも、服や小物を見て回るのも

どちらも街の様々な場所を巡る事になり、それなりに時間が掛かる。

「多分どちらも一日時間をかけてゆっくりやった方が良い事だろうしなぁ……」

「それなら明日はどちらか一つを皆でやって、次の日にもう一方をやるのはどうです?」

そう言って笑顔で提案するサリアだがそれにも幾つか問題があった。


まず一つは旅費の問題。

とはいっても街での宿代や食費といった滞在費はフィルの所持金から支払ってあり

元冒険者のフィルの財産からすると多少出費が増えた所で微々たるものだった。

という訳でこちらは大した問題とは言えない。

もう一つはダリウ達の畑の問題。

一応、他の村人に畑の世話をお願いしているが

世話をする期間が延びてしまっても大丈夫なのだろうか?


「うーん、街での滞在費は問題無いとしても、ダリウ達の畑の方は大丈夫?」

「あー。まぁ、大丈夫だとは思う。一応迷惑かけた礼に土産を買っていくつもりだが」

そう言うダリウにラスティもそれで良いと思うと頷く。

「わかった。お土産を買う時は僕からもお金を出させてもらうよ」

「そうか? そんな高い物を買うつもりは無いし、気を使わなくてもいいぞ?」

「そうそう。それに食料とかを沢山買って帰れば皆も納得してくれるとは思うよ」

そう言って気を使ってくれる二人だったが

フィルとしては迷惑をかけるのは心苦しいものがある。

ダリウもラスティも一応、僅かとは言え銅貨や銀貨を持っているし

村を出発する際には雑貨屋の主人から餞別も貰っていた。

とはいえ、経済的に孤立していた村の村人の資産というのはなかなかに厳しく。

実際にはフィルが給金という名目でフラウに持たせてある小遣いと大差なかったりする。

流石にそこから金を出させるのはフィルとしては忍びなかった。

「たしかにこの辺は気持ちだからね。だからこそ次もお願いする可能性を考えて、多少値が張っても良いから喜んでもらえるようなのを贈りたいんだよ。そうすれば次にお願いする時もお願いしやすいだろうからね」

「そういうことなら……実際俺達、殆ど金持ってないしなぁ」

「あははは……たしかに」

そう言って苦笑いを浮かべるダリウとラスティ。

二人が納得した事で、二泊三日の予定だった買い出し旅行は

正式に三泊四日の日程へと変更される事になったのだった。



「それじゃあ、明日はどちらかの買い物を皆でするとして……明日は、リラ達の用事を先に済ませようと思うのだけど、いいかな?」

「あれ? 良いんですか? 私達の方で」

「ああ。種とか苗木とかって生きているからバッグ・オヴ・ホールディングに入れる事が出来ないんだけど、そうなると結構な荷物になる可能性があるからね。後の方が良いと思うんだよ」

ついでに言うと、置くとしたら確実に二人部屋の方になるのだが

そうなると男三人で狭い部屋がさらに狭くなってしまう。


「なるほど……そう言う事なら。みんなも良いかな?」

尋ねるリラに少女達が頷いて見せる。

「いいと思いますよ? これで一緒にお買い物出来ますね」

「はいです!」

そう言ってサリアが隣に座る妹分の少女にニッコリと笑いかけると

フラウも嬉しそうにサリアに笑いかけて

それから明日の予定を立てる少女達の輪に加わっていった。


……これだけ嬉しそうにして貰えたのなら、

日程を伸ばした価値はあったのだろう。

リラ達に以前フィルと行った市場で服やアクセサリーを買った事を

楽しそうに説明するフラウを眺めながら

フィルは手元のジャガイモを口に放り込んで、そんな事を考えていた。


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