表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/276

邪神さんの街への買い出し5

それから街までは特に何事も無く、

途中休憩をしたり、トリスの魔法で水を補給したりしながら

風景を眺めて他愛ないお喋りをしながら歩く平穏な道中だった。

じきに山道は下り終えて荒野に、それから暫く歩くと街道に出る。

それからは人の領域である事を主張するかのように

周囲の景色は牧草地へと移り、次第に麦畑へと変化していく。


「わー。おっきな畑だよねー。この辺はもう街の領地なの?」

「多分そうだと思いますよ? 特に街の周辺は比較的治安も良いですからこうして牧草地や農地ができやすいんですよ。出来た作物を運ぶのも便利ですしね」

実が熟し一面美しい黄金色に染まった広大な麦畑を物珍しそうに眺めるリラの質問に

すぐ横を歩くサリアが答える。


街の周辺には大抵の場合、大小様々な道が走っており、

その周囲を農地や牧草地で隙間無く埋めるのが一般的だった。

目的はもちろん街の住民が食べるための食料を生産する為だが、

食料を安定して生産する為の努力として

街では定期的に兵士を派遣し巡回させるなどして治安の維持に努めている。

その意味で言えば畑や牧草地はその国の領地と言っても差し支え無いのだろう。


「へぇ~。それにしても大きな畑だよねー。いいなぁー」

サリアの説明になるほどーと相槌を打ちながら、

リラは目の前に広がる金色の麦帆の海を眺めていた。

村でも麦を栽培しているが、山間の小さな土地では栽培できる量などたかが知れている。

ドラゴンやオークが居なくなり村の食料事情が大幅に改善した今でもその点は変わらず、

村人全員が毎日パンを食べたり、

日常で飲めるぐらいのエールを造ったりといった事はまだまだ夢の話だ。


「まぁ、昔は山で採れた山菜や獣の肉や革を街で売れば、麦や必要な品を買うのに十分な儲けになっていたようだし、荷馬車が用意出来て以前のように街で売り買いできるようになれば麦も買えるようになるんじゃないか?」

リラの心情を察したのだろう、何気無い風を装いつつもダリウがリラを励ます。

この幼馴染の青年は顔は厳つく、話す言葉は短く無口で、

さらには笑ったりするのが苦手と見た目の印象はなかなかに付き合い辛いが、

実際に付き合ってみれば、気配りが出来て村の為に頑張ったり出来る好青年である。

そんな幼馴染の励ましにリラは確かにそうかもと納得してうんうんと頷く。

「そうだねー。うん。頑張って良い馬車と馬を探そう!」

「あ、ああそうだな」

リラへの相槌をついついそっけなく返してしまうダリウに

もう少し、もう少しだけ頑張れと心の中で応援してしまうのは

たぶんフィルだけでは無いはずだ。


そんな賑やかな会話を交わしながら

一行は畑を通り過ぎて、それから宿場町の横を通り過ぎていく。

初めて自分達の住む村以外土地、それも人で賑わう宿場町を見て

興味津々といった感じで辺りを見回すリラ達の様子に

最後尾を歩くフィルは前回フラウとこの場所を通った時の事を思い出された。

(あの時はフラウも似たような感じで興味深そうに宿場町を眺めていたっけ)

「フィルさんフィルさん」

フィルがそんな事を思い返していると、

不意に隣を歩くフラウから声がかかり

フィルの手が少女の小さな手に引かれる。

見ればフラウがこちらを見上げて何か言いたそうにしており

最後尾で二人、密かに顔を見合わせて笑い合う。


それからも一行はさらに歩を進め、

ようやく街に到着したのは夕暮れに差し掛かり

空の赤みも大分薄れてそろそろ夕日が沈もうとする頃だった。



街の入口の門では前回と同様、

門の入り口の検問所には衛兵が立ち

街に入ろうとする人々の確認を行っていた。

片方の兵士がおかしな動きがないか見張り

もう一人が羊皮紙に書き留めながら街に来た理由と荷物の中身を確認し、

応じた通行料を徴収する。

だが、夕方ともなると入場待ちの列はまばらで

門の前の入場待ち列に殆ど人は居らず、

代わりに近隣に住む住民なのだろう、

今日一日、街での仕事を終え家路につかんとする者達で門は賑わっていた。

老若男女の彼等彼女等は顔見知りらしい衛兵達と気軽に挨拶を交わして門を通り過ぎていく。


「おー。これが街の門ですか」

そう言うリラの顔には期待と少しばかりの不安が見える。

初めて街に入る手続きをするのだから無理も無い事で

それは既にこの街に一度来ているサリアやフラウを除いた

他の少女達や、ダリウ、ラスティの青年二人も同様だった。

(まぁ、ここまで来て街に入れてもらえなかったら……とか考えれば不安にもなるか)

「私達、武装しちゃってますけど、大丈夫ですかね?」

「武装自体は珍しい事じゃないし大丈夫だと思うよ。とりあえず僕が衛兵に話してみるから皆はその後でね」

バツが悪そうに尋ねるリラにフィルはそう言うと、

先頭に立って丁度最後の入場者を確認し終えて待機列に人が無くなった

衛兵達のいる検問所へと向かった。


衛兵達は早々にフィル達一行には気が付いたようで

何やら二人で話し合っているのが見える。

どうやら衛兵の一人は前回フィル達の担当をした者らしく

相方にフィルの事を伝えているらしい。


「ようこそお越しくださいました」

前回対応した衛兵からの挨拶が、

初対面の時のような業務通りの呼び掛けで無く、

客人相手のような丁寧な挨拶なのは、

やはりフィルの事を覚えていたからなのだろう。

「失礼ですが本日はどのような用件で来られたのか確認させて頂けますか?」

「あ、はい。今回は一泊か二泊の予定で、村で使う道具や作物、家畜を購入しようと思って来ました。男性二人は一緒に買い出しに来た者で、彼女達はその護衛役として来た冒険者です」

前回と違い、最初から丁寧に接してもらえるのは有難いが

此処の衛兵は一般の旅人相手でも十分常識的な対応をしていた。

それ以上となると、逆に周りからの好奇の目が向いてしまい少しばかり居心地が悪い。


今も街から出て行く付近の住民であろう男性が衛兵の態度を見て

これは関わらない方が良さそうだと、そそくさと離れていく所だった。

(うーむ、逆に注目されてしまっているよう気がするのだけど……)

とは言え、今のフィルの立場からすれば

衛兵に普段通りに接しろというのは酷な話だろう。


当の衛兵はと言えばフィルの説明を聞いてリラやダリウ達を一瞥した後は

特に質問を重ねる事も無く手にした羊皮紙に何事かを書き留めている。

武装した少女達の集団というのは確かに目を引く存在ではあったが

冒険者の一団ともなればそう言った輩も珍しくはない。

この国を始めとして多くの地域では

彼女達位の歳ともなれば十分に成人として認められているし、

成人した若者達が一攫千金や食い扶持を稼ぐために徒党を組んで

冒険者になるという事は往々にして良くある事だからだ。


「それでは念の為、ここに名前をお願いします」

一通りの事柄を羊皮紙に書き留めた衛兵は

そう言ってフィルに羊皮紙を差し出した。

そこには今日この門を通った者達、それらの名前、容姿、目的がリストに纏められていて

そのリストの末尾にはたった今、衛兵によって書き込まれたのであろう

フィルの容姿と目的が載っており、その名前の欄は空欄になっている。


前回は口頭で名前を伝え、それを衛兵が書き込んでいたし

フィル達の前に門を通った者達も、

自分で羊皮紙に名前を書き込む様な事はしていなかったと疑問に思ったフィルだったが、

先程からこの衛兵がフィルの名前を一言も喋っていない事に気が付いて納得した。

今は夕暮れ時で街から出て行く近隣住民で通行量もそれなりに多い。

多分これは街で知れた名となったフィルに配慮しての事なのだろう。

(それとおそらくは筆跡での本人確認か)

「分かりました。後ろの彼女達は普段通り口頭で伝えるでいいですか?」

「はい。それは大丈夫です」

衛兵が頷くのを確認して、

フィルが名前を記入した帳簿を差し出すと

受け取った衛兵はそこに書かれた名前を確認して頷いて見せる。

「ありがとうございます。確認は全て終わりました。通行料ですが個別で払いますか? それとも全員分を?」

「全員分を僕が払います。銀貨でいいですか?」

そう言って懐からコインの入った小さい巾着を取り出すと銀貨を一枚衛兵に手渡す。

「ああ、はい大丈夫です。それじゃあ銅貨二枚のお釣りですね」

衛兵から釣り銭を受け取り手続きを全て済ませたフィルは

後に続くリラ達への確認が終えるのを待つ為に

衛兵の後ろで待機する事にした。


「次の者!」

流石にフィル以外の相手に敬語を使う訳にも行かないのだろう。

普段の兵士らしい口調に戻って仕切り直す衛兵だったが

先程のやり取りを見てしまった後では、その効果も半減するという物だ。

まずはお手本とばかりに衛兵の質問に答えるサリアに続き

二回目のフラウがまだ少し緊張しながらであったものの無事に答え

それを参考にしてリラやダリウ達が続く。

フィルの連れという事もあってか、

衛兵に疑われるような事も無く手続きは順調に進められて

程なくして一行は無事に門の中へと入る事が出来たのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ