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邪神さんの街への買い出し3

村から街までの道中は平穏なものだった。

フィル達が今使っている山間を抜けるこの山道は

かつては馬車が通り交易にも使われた村の主要路だったが、

ドラゴンに村が支配されて以来、

今では人の利用は殆ど無く使うのはもっぱら獣や強盗に向かうオーク達ばかりで

その所為もあってか、

道にはここ数年補修や整備をされた跡はまるで見えず

草こそ踏みしだかれて生い茂って無いものの

所々に崖から崩れ落ちて来た大きな石が転がっていたり

獣が掘り起こしたらしき大きな穴が開いていたりと道の痛みが激しく、

とても上等な道とは言い難いものだった。


それでも馬や人の足で通る分には不自由は無いし

大きな石を除け、えぐられた穴は周りの土を適当にかけてやれば

慎重に進めば馬車でもかろうじて通れそうではある。

一行は帰りには荷車を買うからと(もっぱら男三人が)大きな石を脇に捨てたり

掘り返された穴を埋めたりしながら歩を進めていくが

そうやって体を動かしたお陰ですぐに体は温まり

少女達が朝に寒いからと着ていた外套は

今では全員分が暑いからと荷物としてフィルのバッグの中に収まっていた。


「流石に金属鎧着て歩くのはしんどいわね。トリスは大丈夫?」

山道の先頭を歩くリラが後ろを歩くトリスの方へと振り返る。

このパーティ、最も体力が低いのは意外にもクレリックのトリスだった。

パーティの中で最も背が高く(それでも一般女性の身長と同程度なのだが)

筋力もパーティ内ではリラに次いでとそこそこある彼女だが

三人の中では最も体が弱いらしく

聞くと風邪を引いたり体調を崩したりするのはもっぱら彼女からなのだという。

しかも今はそこそこ重量のあるチェインメイルを着ている事もあって体力の消耗が大きく、

その為、必然的にパーティが行動する時の体力配分はトリスが基準となった。


リラの問いかけに少し疲れた表情のトリスがリラへと微笑みかける。

「ええ、私の方は大丈夫よ。サリアはどう?」

そう言ってトリスがリラの隣を歩くサリアの方を見ると

こちらもトリスほどでは無いが少し疲れた様子のサリアが苦笑いを浮かべる。

体力の低さ、で言うとフィルに見立てではバードのサリアもトリスと同じ位に見えた。

ただしこちらは着ているのがレザーアーマーと軽装なので

チェインメイルを着込んでいるトリス比べるとまだ余裕がある。

とはいえ、それでも旅というのは徐々に疲れが溜まっていくものだ。

溜まった疲れはその後、体調不良や抵抗力の低下などの不利益を与えかねない。

本人だけでは無く周囲の者も彼女達の体調には注意を払うべきだろう。


「私は革鎧ですからね。トリスと比べたら全然楽なもんですよ。とはいえやっぱ山歩きはきついですね~。今は荷物が少ないから良いですけど……帰りの事は考えたくなくなりますね」

そう言って溜息を吐くサリアが持っている荷物というと

武具や楽器以外は水袋や身の回りの小物が入ったカバンが一つ。

本来旅をするのに必要な道具一式を詰め込んだバックパックは

今はフィルの鞄の中に入っている。

「あはは……街で旅の道具を揃えたら自分達で運ばないとだからねー」

苦笑いを浮かべリラが言うように

今は彼女達が旅で必要な道具を全て

フィルがバッグ・オヴ・ホールディングに入れて持ち運んでいるが

これはあくまで暫定対応。

本来なら冒険者に限らず旅をする者は

旅の荷物はバックパックなり荷馬なり自分で運ぶのが普通だし

勿論彼女達にも街で装備を買い揃えたらそうしてもらう予定でいる。


先程体調に注意を払うと言った傍から矛盾してしまうが

駆け出しのうちからバッグ・オブ・ホールディング(しかも他人の物)に頼っていたのでは

彼女達だけで冒険に出る時に、満足に行動出来なくなってしまう。

これも彼女達の成長を願っての判断なのだ。

「むぅ……。これは本当に早い所、魔法の鞄を手に入れる事を考えたいですね……」

そう言って大げさに悩んだふりをするサリアの様子に一行に笑いが漏れる。


まぁ、似たような効果のハンディ・ハヴァサックの相場は金貨二千枚、

最も安いバッグ・オヴ・ホールディングなら金貨二千五百枚と

そこそこの容量の物でもそれなりに高額なので一朝一夕には手に入らないだろうから

手に入る頃には旅にも慣れた頃になっているのだろうが

そんな事を突っ込むの無粋というものだろう。

長距離の移動は確かに初めのうちは大変かもしれないが

その内コツが分かるようになれば大分楽になるものだ。

今は少しずつ慣れていけば良いだろう。


少し心配なのは、トリスとサリアの体力の低さが冒険に与える影響だった。

毒、病気、ダメージへの抵抗や、疲労による抵抗力の低下、

冒険者は頑健さが試される事がかなり多い。

特に毒や病気は経験の浅い冒険者にとっては致命的ともなりうる。

得てして冒険で行く先には不衛生な場所や有毒のモンスター等も多く

彼女達の抵抗力の低さが冒険に影響を与えないかは不安な所だった。

(やはり耐久力を向上させるアクセサリとかあった方が良いかな?)

丁度今、フラウが履いているブーツの様に

装備で耐久力を上げればパーティでの移動だけでなく

毒や病気のに対する不安もぐっと減るだろう。


……と、そんな事を考えていたフィルだったが、

彼女達がまだ駆け出しで

体力の低さもそれ以外の問題も

これから彼女達自身で実感して考えて対策していく事だと考え直す。

そんな事を考えながらフィルは

少女達の会話に特に口を出すでも無く、

最後尾でのんびりと聞きながら歩いていた。


「そういえば、フラウは疲れてない?」

さすがに山歩きの間、ずっと手を繋いでいる訳にも行かないので

今は手を離して普通に歩いているが

それでもすぐ隣を歩いているフラウは

気が向くとフィルの手を握りに来ては

暫くしてそれに満足すると再び離れてといった事を繰り返し

それはどこか休憩のために小枝にとまる小鳥を思わせた。

「はいです! なんだかどこまでも行けちゃいそうな感じです!」

得意げにそう答える少女の頭をフィルは笑顔で撫でる。

どうやらフィルが貸し与えた魔法のブーツは

ちゃんと効果を発揮しているようだった。


「あははは、耐久力があがるとそうなるんだよね。フラウぐらいの軽さなら数時間ぐらいずっと走っていられるかもしれないよ?」

「わぁ~、すごいです!」

素直に喜ぶフラウの頭をさらに撫でるフィル。

実際、装着者の耐久力を向上させるあのブーツは

歩いても歩いても疲労を全然感じず

なんなら長時間疲れず走る事だってできてしまう。

とはいえ行きたい所に走って行けるというのは

非常に便利な物ではあったが、少しばかり注意が必要でもあった。


「でも一人で先に行っちゃうと危ないから、移動は皆と一緒にするんだよ? 村の中と違って、ここには危険な生き物が居たりする事もあるんだからね?」

長距離での移動に非常に効果的なアイテムではあるが

決して素早さが上がる訳では無い。

狼のように自分よりも素早い相手に出会えば危険なのはもちろん。

野盗なんかでも飛び道具で逃げる背中を狙われるなんて可能性だってある。


自分が行けるからと、好奇心に任せて遠くに行くのは危険である。

そんなフィルの心配を察したのか、フラウはにっこりと微笑む。

「はいですー。フィルさんと一緒に居ますね」

そう元気良く返事するフラウの頭を再び撫でるフィル。

暫く頭を撫でているとフラウがフィルの手を取って来たので

今度は再び暫くの間、二人で手を繋いで歩く。




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