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邪神さんの街への買い出し2

程なくして、身の回りの準備を整えた一行は

家を出て山の下にある村へと向かった。

初夏とは言え早朝の山の空気は肌寒い程度にひんやりとしており、

歩いて少し体を動かすぐらいが丁度良い。

「いやー、今日もいい天気ですねー」

そう言って先頭を歩くサリアがうんと伸びをして朝の空気を吸い込む。

朝は肌寒いからと革鎧の上に

前回のゴブリン狩りの時にフィルから借りた外套を羽織り、

腰の横にはレイピアと後ろには矢筒、

そして背中に調整したばかりのショートボウを背負った姿は

完全武装のローグか軽戦士といった風体だったが

肩から下げたベルトに付いている

フィルから半ば強引に譲り受けた魔法の楽器=シターンが

彼女がローグではなくバードであることを主張していた。


「そうねー。なにより雨に降られる心配が無いってのは良いわね。このまま街までずっと晴れていてくれると良いんだけど」

サリアの言葉に、その隣を歩くリラがのんびり相槌を打ちつつ空を見上げる。

彼女はサリアと同じ外套を羽織り、背中にはショートボウ、

腰の後ろには矢筒を装備している所までは一緒だが

外套の下から覗くのは中装鎧のスケイルメイルであり

腰に差した獲物はロングソード、

そして彼女の場合は引き続き借りているカイトシールドを弓と一緒に背負っている事もあって、

同じ様な外観なのにこちらは一目で戦士と分かるぐらいに

見た目の印象が全然違うものになっている。


「街の方もずっと日照りが続いてるのかな?」

「どうでしょう? でも私達の村と違って他の街と交易も出来るでしょうし、きっと大丈夫じゃないかしら?」

その後ろを歩く他の少女達……アニタとトリスも

クロスボウやメイス、ローブやチェインメイルといった

各々の装備の上からサリア達とお揃いの外套を羽織っている。

「そうですねー。私の場合、街に居たのは少しだけですけど、日照りとかそういった大変そうな感じはしませんでしたね」

「はいです! とっても賑やかで楽しかったです。ね? フィルさん?」

最後尾をフィルと一緒に歩いていたフラウが元気よく返事して

今度はフィルの方を見上げて、ね?と尋ねる。

そんなフラウも今日は皆とお揃いの外套を普段着の上に羽織っていた。

早朝は冷えるからとフィルが貸し与えたのだが

おかげでこうして皆がお揃いの外套を纏って楽しそうにお喋りをしている姿は

まるで何処かの学院か学園かの生徒の登下校を思わせた。


「そうだね。確かに市場での値段も普通だったし、店や宿の人も特に何も言ってなかったね」

フラウに尋ねられて、ただ一人、皆とは違う外套を羽織ったフィルは

数日前の街の様子を思い出しながら答えた。

一人だけ違う外套を身につけている理由は、

単純に少女達に貸している外套が五人分しかなかったからなのだが、

もしあったとしても実際に少女達とお揃いとなったら恥ずかしがって

結局身につけない可能性の方が高かっただろう。

そんなフィルの格好はと言えば一人だけ少女達とは違う外套を羽織り

ゴブリン狩りの時と同様に革鎧を着込んで腰にはロングソード、

そして背中にはコンポジットロングボウと矢筒を背負い、

一見しただけではレンジャーかそれとも軽装のファイターか、

見ただけではとてもウィザードとは思えない装備となっていた。


戦闘に於いてスペルキャスターという存在は最も注意すべき対象となる。

その為、敵に魔術師を一人少なく思わせる事が出来れば

それだけもかなり相手の油断を誘える可能性が高くなる。

さすがに経験を積んで高い脅威度を誇るような相手に対しては焼け石に水だが

未熟な小娘ばかりだからと狙ってくる程度の輩であれば十分に効果的だった。

小狡い作戦ではあるが

フィル以外の全員が実戦経験がほぼ無いこのパーティにとっては

生き残るためにこれぐらいの小細工をやっても罰は当たるまい。



山を降りた一行が村に入り、

今日の集合場所である村の食堂の前にたどり着くと

そこには既に到着していたダリウとラスティの二人が一行を出迎えた。

二人とも普段より丈夫そうな服に身を包み

腰には護身用に村の自警団で共有で使う事になったショートソードを差していて

そして足元には街で買った物を入れるつもりなのだろう、

大きな、だがあまり中身が入ってないバックパックと、大きなカゴが置かれていた。

「おまたせー。待たせちゃった?」

「ああ、大丈夫だ。にしても、完全武装だな……」

挨拶早々、呆れ半分、もう半分は普段の無表情な強面で一行を眺めるダリウ。

もしかしたら表情に出すのが苦手なだけで、大いに呆れているのかもしれない。

「ああこれ? 少しでも鎧に慣れておかないとねー。それに道中に襲われる可能性だってあるしね」

「まぁ、それはそうなんだがな……。俺達も剣は間に合ったけど、鎧はまだなんだよなぁ」


現在、村では件のゴブリンから回収した革鎧をリサイクルして

自警団員が使えるような鎧を作れないか色々模索していた。

そのままでは小さすぎて着る事が出来ないゴブリンの鎧だが

鎧を裁断、帯や小札といったパーツ状にしてから組み合わせる事で

ラメラ―・アーマーやバンデッド・メイルを作れば人間でも問題無く切る事が出来る。

最終的には製作の手間が比較的少なく

製作の参考にできる同型の鎧をフィルが持っている

バンデッド・メイルを制作する事になり

革細工の心得のある村人を中心に順調に製作が進んでいるらしいが

いかんせん鎧専門の職人が居ないこの村ではあれこれ試行錯誤する事も多く

一朝一夕で簡単に出来るものではなかった。


「まぁ、無い物は仕方ないよ。それに本当に必要になったらフィルに貸してもらえばいいしね。あ、あとこれ、さっき食堂のおじさんから弁当を貰ってるよ。途中で食べていきなさいって」

ダリウのぼやきを宥めながらラスティが足元から取り上げた大きなカゴの中には

全員で食べても十分な量のサンドイッチが入っていた。

パンの間にはそれぞれチーズにベーコン、

卵にポテトサラダといった具材がたっぷり詰め込まれていて

それが敷き詰められるようにしてカゴの中一杯に入っている。


「おおー。これは豪華ですねー」

「全員で食べても食べきれないぐらいあるね」

「まぁ、俺達は幾らでも食べれるからな。これ位で丁度良いんじゃないか?」

カゴの中を覗き込んで声を上げるサリアとアニタにダリウが言うように

確かに量が多いが、育ち盛りの男子が三人も居るのなら、これ位が丁度良い量なのだろう。

流石は村人達の胃袋を支えている村の食堂だけあって、

誰がどれぐらい食べそうかもちゃんと分かっているのだろう。


「それで、この弁当はフィルのバッグの中に入れてもらっていいかな?」

「ああ、全然問題無いよ。それにしても沢山作ってもらったね。これはちゃんとお礼を言っておかないと」

「それじゃあ、みんなでお礼を言ってきましょうよ。この時間ならまだ厨房で支度しているんじゃないかしら?」

トリスの提案に全員で食堂の中に入ると

今は仕込みの最中らしく人気が無く静かな店内に

厨房の方から包丁を入れる小気味いい音が響いていた。

「じゃあ、ちょっと呼んでくるね」

そう言ってリラが厨房の方へと入って行き

暫くした後、リラが食堂の主人と夫人を伴って厨房から出てきた。

「すみません。わざわざこんなに沢山のお弁当を作ってもらって」

一行の最年長としてフィルが礼を伝えると

食堂の主人は何でもないとばかりに手を振って応じる。

「なになに構わんさ、仕込みのついでに作っただけだしな。それより皆、気を付けて行ってくるんだぞ?」

そう言って食堂の主人は一行を見渡し

それからフィルへと視線を移す。

「フィルさんも、この子達の事、お願いしますね」

彼からしてみればリラやダリウ達は生まれた時から知っている子供達であり

弁当はちょっとした旅行へ行く子供達への親心と言った所なのだろう。

そんな食堂の主人の依頼にフィルも頷いて応える。

「ええ、分かりました」

食堂の主人に礼を告げたフィル達は

村を出発して山の向こうにある街を目指した。

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