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邪神さんとお仕事23

「あ、そうだ、フィルさん。弓の調整したいんですけど、調整道具ってあります?」

「ああ、持ってるよ?」

先程焼いたばかりでふんわりとした温かさの残るパンに具材をたっぷり載せながら尋ねるリラに

こちらは器に大盛りになったフラウ自信作のシチューを食べながら

フィルが当然といった顔で応える。


いつもの賑やかな夕食時の、いつもの何気ない会話。

とはいえ明日はいよいよ冒険者として街に行くとあってか

荷物の支度は出来たかだとか、ポーションは誰が持とうだとか

まるで遠足前の子供達かのように少女達は賑やかだった。

いや、年齢で言えば子供と言っても間違いでは無い年頃の娘達ばかりだし

仕事もそれほど危険の無い道を護衛の名目で移動するだけ。

街に着いたら買い物をしたり、美味しい物を食べ歩いたりと

実際、遠足に行くのとそう大した違いは無いのかもしれない。

既に一度街に行っている(とはいえ一日だけだが)サリアやフラウから街の情報を聞いては、

何処其処へ行こうかと遊びの予定作りに余念がない。


「道具だけでいいかい? 弦もあるけど?」

冒険者ならば自分の得物を整備調整する為の道具を持つのは当然の事。

以前のパーティでは予備武器を預かっていたフィルは

自分用、パーティ共有、貸し出し用と目的に応じて幾つかの魔法の弓を所持しており、

ついでに調整の為の器具も傭兵達に貸し出せるよう余分に用意してあった。


そして、それを尋ねてきたという事は、

彼女が何をしたいのかという事も予想が出来た。

リラ達のパーティはゴブリンからの戦利品であるショート・ボウの内

二挺を自分達で使う為に確保していた。

整備を終えたばかりでまだ弦も張られていないこの弓を

明日は使えるようにしておきたいのだろう。


「あ、弦は新しいのを貰ったんで大丈夫です。ただ、調整用の道具は売り物は置いて無いからって売ってもらえなかったんですよね」

時間が有れば作ってくれるらしいですけどと

先程作ったばかりのサンドイッチを頬張りながら付け加えるリラ。

人が見れば行儀が悪いと文句も言われそうな食べ方だが、

幸いこの中でその程度の事に目くじらを立てるような人間は居ない。


「なるほど、まぁ普通なら必要になったら作るでも全然問題無さそうだしね」

村の中で弓を扱う者など猟師と一部の男衆位しか居ない。

それに弓に弦を張る器具などは一つあれば十分で、幾つもは必要無い。

そもそも鍛冶屋で扱うのは鉄製品が主なのだ。

店に商品として弓や革製品が置かれているのは、あくまで村人達の利便性の為。

別の職人から委託されたり、買い取った物を置いているに過ぎない。

この辺りは雑貨屋で旅道具を探した時と同じで

普段から必要とされないから商品としても用意して無いのだろう。


「なるほど、それなら大丈夫そうだね。それじゃ食べ終わったら渡すけど、弦の張り方はわかる?」

「あ、大丈夫です。昔弓の使い方を習った時に一緒に教えてもいましたから」

「あはは、弓も使えるなら当然か。愚問だったね」

ファイターならばその辺り、習熟しているのは当然といえば当然。

と、フィルが納得している所、バードのサリアが元気に手を挙げる。

「はい! 私は張り方知らないです!」

バードがクラスとして習熟している武器の一つにショート・ボウがある。

だからこそパーティで戦利品のショート・ボウを貰う時に

リラとサリアの分、二挺の弓を貰ったのだが……。


「……サリアも弓を習ってるんだよね?」

「とりあえず使えればいいからーって言われて、とりあえずの使い方を教えてもらったとりあえずの数時間だけですけどね……」

遠い自分を眺めるような表情で視線を逸らすサリア。

「それ以上は必要になってから実戦で使えば体で覚えるからって、それっきりだったんですよね……弓は」

「それはまた……随分割り切ってるね?」

「弓って呪芸で必要って訳でも無いですし、クロスボウが使えればあまり困らないですからねー。使う理由だって弓が使えたら格好いいから! ですよ?」

「バードの武器と防具の習熟かぁ……あれって絶対実用性より、見栄えで選んでるよね?」

「格好良さは芸の大切な要素ですからねー。勿論それだけじゃないですよ? ちゃんとウィップとかサップは実用性重視です!」

フィルの疑問にサリアは誇らしげに答える。

バードの主武器であるロングソード、ショートソード、レイピアが実用では無くて

ウィップとサップのどの辺が実用なのだろうと思わなくも無いが

きっとフィルの知らない何かが有るのだろう。


「で、そのショート・ボウの弦の張り方を知らないと?」

「……仕方ないじゃないですか。教えてもらったのは呪文や歌や踊りが殆どで、武器の使い方なんて一日で一通りの武器の使い方を教えてもらっただけなんですよ? 酷いと思いません?」

尋ねるフィルに、そう言って拗ねたように頬を膨らませるサリア。


バードはクラス特徴として一部の軍用武器を使用する事が出来る。

通常、ファイター等は一通りの軍用武器に習熟する為に

かなりの期間、訓練をする必要があるのだが、

バードは武器の種類を限定させることで期間を短くしているのだという。

しかし、まさかそれが一日の詰め込んだだけというのは、フィルとしても初耳だった。

いや、流石に他のバードはもう少しきちんと学んでいるものと思いたい。


「そうなんだ……い、色々大変なんだね? バードも」

「一応、剣の扱いは踊りを習う時に一緒に教わりますから、まったく不慣れって訳じゃ無いですよ?」

「なるほど、それで習熟する武器が剣に偏るのか」

「でも弓は簡単な打ち方を教えてもらうだけで、後は自分でって感じだったんです。駆け出しのバードなんてどうせ弓を買うお金なんて無いのだから、今習ってもあまり意味は無いよってお師匠様が……」

「なるほど……それはなかなかに合理的なお師匠様だね……」

ここを合理的と呼ぶか手抜きと呼ぶかは……深くは追及すまい。


「……まぁ、実際何度か冒険をこなせばすぐに必要にはなると思うけど、その頃には弓矢を買い揃える程度の資金も十分溜まっているだろうからね。確かにサリアのお師匠様の言う通りかもしれないか」

武器の中では比較的高価な部類である弓は

一番安価なショート・ボウでさえロングソードやレイピアよりも高値で取引され、

たしかに冒険者になったばかりの若造が持つには高価な品と言えた。

だが、一度や二度冒険を成功させたのなら、

敵の所持品から入手する可能性もあるし

手に入らないにしても報酬の金で容易に購入出来る程度の価格であり、

その意味ではサリアのお師匠様と呼ばれる人物は現実的なアドバイスをしたのだと思う。


「それはそうなんですけどぉ……。あ、そうだフィルさん」

「うん?」

「私達、弦はあるんですけど、矢が無いんです。何本かください!」

「……とりあえず何本かはあげるよ。でもそれ以上は自分達で街で買うようにね?」

にっこりとまさにお芝居のヒロインといった極上の笑顔でおねだりをするサリアに

フィルはまたいつものかと溜息を吐く。


矢なんて店で購入しても大体二十本で金貨一枚と言った所、

流石にこれで一々貸すだ借りるだ言うのは煩わしい。

さらに言うとバッグ・オヴ・ホールディングが手に入ってからは

戦利品として敵が持っていた矢を貯め込むようになり

今では普通の矢であればそう簡単に尽きない位にはストックもある。

そもそも矢が自動充填される魔法の弓も持っているので

矢の消費量は減る一方、戦利品として増える一方だったりする。


(だからって、最初から無条件で上げるというのは流石にダメだろう)

自分達のリソースをキチンと管理する事は非常に大切なことだ。

本当にどうしようも無い時に手を貸すのならともかく、

普段から甘やかしていては金銭感覚が麻痺してしまうかもしれない。

「……今回の分は僕の手持ちをいくつかあげるけど、次からはこういった物はパーティ共有の財布を用意してそこから購入するといいよ。そうでなければ矢やスクロールを使う者ばかりが支出が増えてしまうからね」

「「「「はーい」」」」と元気な返事を聞きながら

フィルはこの返事を今回の矢の代金替わりとするかと

心の中で小さくため息を吐いた。


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