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邪神さんとお仕事13

「ちゃんと必要な物は持ったかい? 忘れ物は無い?」

「もうっ、フィルさん、それ朝御飯の時も言ってましたよ?」

玄関前で少女達の身支度の心配をするフィルにサリアが呆れた様子で答える。

そう答えるサリアの手には大きなかごが提げられており

中には今日のお弁当であるサンドイッチが入っている。

水袋や採収道具といった荷物は分担して持つことにしたようで、

他の少女達もそれぞれ自分の担当した荷物が入ったかごを手に提げていた。


「まったくもう……心配性のお母さんじゃないんですから」

「ああ、どうもこういう要所要所で荷物の点検をしたりするが癖になっちゃってるんだよね。それに家を出たら忘れ物を取りに帰ってくるのは面倒だからね」

呆れるサリアにフィルは仕方ないだろうと言いながら答える。

「だからって今日は山菜を採りに行くだけで、別にダンジョンに行くとかじゃないんですからね?」

「分かってるって。それでもお母さんとしては皆が心配なんだよ」

「それならフィルさんも一緒に来ればいいのに」

「僕も行きたいとは思うけどね、こっちもそろそろちゃんと稼がないといけないからね」

そう言ってフィルは少し残念そうに笑みを浮かべる。



今日はフィルを除いた全員でダリウ達と一緒に

午後から村近くの山で山菜を採りに行く事になっていた。

午前中はいつものように鍛冶屋で戦利品の修理をして

仕事の後に全員でちょっとした山登り、

途中、広場にてお昼御飯を食べてから

その後は各自で散らばって山菜採りという予定になっている。

幸いな事に今日も朝から空は青く晴れ渡り、

この分なら午後も絶好のピクニック日和になるだろう。


「天気が良くてほんと良かったわねー」

「本当ね。最近雨が良く降るおかげで、キノコとかがまた採れるようになって来たみたいだし、今日は沢山採れるといいわね」

気持ちの良い青空を眩しそうに眺めるリラに

トリスがのんびりと相槌を打っている横では

サリアとアニタが今日の事を話題に盛り上がっている。

「山菜取りって実は初めてなんですよ~。あ、私、食べれるキノコの見分け方って分からないんですけど、どれが食べれるか教えて貰ってもいいですか?」

「それじゃあ、私と一緒に行く? この辺の山なら大体の食べれるキノコは分かるから」

「おー是非是非! ご一緒します! あっ、それじゃあフラウちゃんも一緒に行きます?」

「はいですー」

サリアの誘いに嬉しそうに返事をするフラウ。

今日は朝からこんな感じで、いつも以上に賑やかな事この上ない。

一応、今日の目的は食料の確保ではあるが、

それ以上に皆でするピクニックは気晴らしや娯楽に丁度良いのだろう。


村に近いとはいえ山に行くのだから獣が出たりする危険もあるのだが

今日行く場所は猟師が仕掛けた罠を見て回る場所から近い場所なのだという。

その為、何か危険の兆候があれば

大抵は猟師が早朝、仕掛けた罠を見て回っている時に発見している。

そして兆候を見つけた時は村人達に報告してくれる習わしとなっているので

午前中に鍛冶屋に行ったときに村人達に確認して、

それで問題無いのならまず大丈夫と思って良いだろう。



少女達の準備が揃っている事を確認したフィルは

最後にとしゃがんでフラウに話しかける。

フラウも今日はいつものポシェットでは無く

リラ達の持つのより少し小振りなかごを手に提げていた。

きっと帰ってくる時には

このかご一杯に山菜やキノコが入っている事だろう。


「みんなの言う事をよく聞くんだよ? あと短剣を使う時は手を切らない様に注意するんだよ?」

「はいですー!」

「うんうん、うんうん」

元気よく返事をするフラウの頭を満面の笑みで撫でていると

そのやり取りを見ていたサリアが呆れ顔で突っ込みを入れてきた。

「フィルさん……そんな心配ならもっとこう、普通のナイフとか無かったんですか? 可愛い物にしろとまでは言いませんけど……」


山菜採りではキノコや山菜を手で摘み取るのではなく

ナイフや鎌を使って刈り取る事が多い。

そこでフィルは自分の手持ちの中でも比較的安全な、

弱い付呪がされたダガーを貸し与えたのだが

残念なことに幼い少女の手が使うに丁度良い物が無く、

貸すことが出来たのは戦闘兼用の無骨なダガーだった。


「さすがに女の子が持つ物じゃないと思いますよ?」

「まぁ……僕もそうは思うんだけどね……」

刃渡り三十センチはある大ぶりな刀身はずっしり重く造られており

明らかに相手の命を絶つ事を目的としたものだった。

確かにサリアが言うように、

普通なら幼い少女に持たせたりはしないだろう。

とは言え本当に手持ちに無いのだから無い袖を振る事は出来ない。


「僕も出来ればそうしたい所なんだけど……冒険してた時はこれで済むからって、ずっとこれでやってたんだよ……」

ダガーを受け取った時に刀身を眺めていたフラウの困惑した顔を思い出し

呆れ顔のサリアから視線を逸らしながら答えるフィル。


以前のフィル達のパーティでは大で小を兼ねさせよとばかりに

肉を捌いたり藪を払ったりと言った雑事は全て

戦闘でも使用可能なダガーで済ませていた。

理由は大した理由では無いのだが

弱い魔力しか付与されていないダガーというのは

戦利品として良く手に入るのだが

売るには不人気で溜まっていく一方なので

それの有効活用を……というものだった。


低級とはいえ強化を付呪されたダガーは

耐久力や切れ味が強化されているだけでなく

エンチャントの素体には高品質な品が使われている事もあって

全体のバランスも良く扱い易い物になっている。

その為、一般のナイフや包丁と比べて丈夫だし良く切れるしで、

むしろ扱い易いぐらいなのだが、

だからと言って戦闘用に作られた大ぶりの刃物を

幼い少女が山菜採りに使うというのは如何なものか、

確かにサリアの言う事も分からないでもない。


「でも確か、台所に包丁がありましたよね? あれはフィルさんのじゃないんですか?」

「あの包丁はこの家に初めから残されてた物なんだよ。今後も台所で使う事を考えると失くしたり壊れたりする可能性のある山菜採りに持っていくのは止めておきたいんだよね」

殆どの金目の食器や料理器具が持ち去られた中、

運よく忘れられていたのか、

それとも次に使う人が何も無いのでは不憫だからと置いていってくれたのか

本当の所は定かではないが、こうして毎日の料理に活躍してくれているのは事実で

暫くはあの包丁に頼る日が続く事だろう。

「なるほど……うーん。でもやっぱりフラウちゃんが魔法のダガーを持つのって危なく無くないですか? 使い易いと言っても戦闘用ですし、切れ味が良すぎる刃物ってかえって危険だって言いますよ? もっと使い易そうな物は無いんですか?」

「うーん、一応、シックルがあるにはあるんだけど……」

「あるんじゃないで……」

すかーとサリアが言おうとしている所で、

フィルがバッグの中から取り出した物は

形こそ少し大ぶりな西洋鎌といった姿をしているが、

その造りはやけに精緻で所々に曰くありげな刻印が刻まれており

鋼と異なる銀色の光沢を放つ刀身は、

どこか神聖な雰囲気すら漂わせるという代物だった。


「シェイプシフターに特化した鎌でね。刃は錬金術銀でメッキ張りしてあって、エンチャントも変身生物特効を……」

「却下です! フラウちゃんに人狼退治でもさせるつもりですか!?」

「一応、山菜採りに使う分には普通の鎌より切れ味が良くて使い易いだけで……」

「それ以外の問題があります!」

サリアに怒られて、渋々シックルを自分のバッグの中に仕舞い込むフィル。

ちなみにこの武器、込められたエンチャントの強さから

店で買おうすると金貨一万枚を軽く超える金額になる。

「結局、僕の手持ちだとあのダガーが一番無難なんだよね……ま、まぁ……魔法がかかってると言っても、ちょっと使いやすくて切れ味がいい程度だから、そこまで危なくは無いはずだよ? たぶん」

この辺はあくまでフィルの基準であり、

フラウからしたらそうじゃないだろうというのは容易に想像できる。

どれだけ付呪の効果は威力が低いと言っても

普通の武器より使い易いと言っても、

戦闘兼用の刃渡り三十センチ以上あるダガーは

そもそも幼い少女が扱うのに危ない物である事には変わりない。


「ふぅ……分かりました。仕方なかったという事にしておきます……でもそれならこの際だから鍛冶屋に行った時に手頃なナイフを買ったほうが良いんじゃないですか? たしかお店にもう少し小さい短剣が置いてあったと思いますよ?」

ここ数日、毎日通っているおかげで

フィル達は鍛冶屋で売っている商品に何があるのか大体把握している。

というより最近は鉄不足だった所為で商品と呼べそうな品は殆ど無くなっているので、

辛うじて残っている商品が何かを把握していると言った方が正しいかもしれない。


サリアの言う様に、確かに鍛冶屋には刃渡り二十センチ程度の短剣が置いてあった。

子供の手にはまだ少し大きいかもしれないが、

少なくとも戦闘用ではなく日常の普段使いを意識して作られたそれは

フィルが貸した戦闘用ダガーよりも扱いやすいには違いない。


「確かにそうかもしれないなぁ……今後も使うならもう使いやすいのを買った方がいいか……」

(とはいえ、あれも少し大きい気がするし、どうせなら新しく作ったほうが良いかな? いやでも、それじゃあそもそも今日の山菜採りに使えないし……)

「あの、フィルさん? 私はこれで大丈夫ですよー?」

フィルが買うか制作を依頼するかそれとも両方かを迷っていると、

フラウが遠慮がちに声をかけてきた。


「そうかい? でも確かにサリアの言う様に、使いやすい大きさの方がいいとは思うけど……」

「でも、こっちもちゃんと使えますし、勿体ないです!」

「ま、まぁ確かに勿体なくはあるけど……でも、大丈夫?」

「はいです! いつも包丁とか使ってるし、きっと大丈夫です!」

どうしたものかと迷っている二人を見上げて訴えるフラウ。

本当にしっかりした娘だなぁと思う。

「いっぱい採ってくるから楽しみにしててですっ!」

「うん、楽しみにしているね。でも危ない事はしないようにね? くれぐれもそのダガーで戦おうとかは考えちゃだめだよ?」

「はいですっ」

自信たっぷり、満面の笑顔で返事をするフラウ。

不安が無いと言えば嘘になるが、

それもでも注意して使う分にはむしろ扱い易く丈夫なダガーだ

当人が適切に扱ってくれれば問題は起きないだろう。

「ふぅ……まぁ、トリスも居ますし、少しぐらい怪我しても大丈夫だとは思いますけど……」

「ごめんね。サリアも注意してあげてもらえると助かる」

「分かりました……それにしても」

「うん?」

「さすがに銀の鎌は無いです」

鎌なら多少強力なエンチャントでも

刈り取るのに適した形状だから大丈夫かなと思ったのだが、どうやらダメらしい。

一応エンチャントも山菜採りに影響無い物を選んだつもりなだけに残念だった。

「……ごめんなさい」



そんなやり取りがありはしたものの

準備を整え家を発つ一行を見送ったフィルは

自分の仕事をするために自室へと戻っていった。



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