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邪神さんとお仕事11

フラウの文字の授業を終え

フィルは次の授業の為に食堂へと向かった。

本来なら今日もアニタに魔法について教えるはずだったが

先程の昼食の際、リラとトリスの二人がこの後は暇だという話題になると

「じゃあ、今日は皆でフィルさんに冒険のコツを教えて貰うのが良いと思う」

というアニタの一言で、

今日は三人でフィルの過去の冒険について色々と話を聞く事になったのだった。

フラウやアニタに一対一で教えていたのが家庭教師だとすれば

こちらはさしずめ私塾の先生と言ったところだろう。


ただ、そうなると一人、

同じ時間にフラウの音楽の先生をするサリアだけ加われなくなってしまう。

世界の伝説や物語を集めるのが使命とも言えるバードとして

情報収集の機会を得られず拗ねたり怒ったりするかと思ったが

そういう事は全然無くて

「んー、後でみんなから聞くし、いいですよー」

と、すんなり受けて入れてくれた。

普段はフィルの武器や道具をねだったりと、我儘な印象のあるサリアだが、

フラウの事となると妙に優しかったり遠慮がちだったりする。

年下の少女の事を気遣っての事なのだろうが

その優しさを少しはフィルにも分けて欲しい所ではある。



そんな訳でフィルは年頃の娘さん三人の先生役をする事になったフィル。

とは言え、実際の所、

フィルがリラ達に教えたいと考えている事はそれほど多くは無い。

それも依頼難度に比べて妙に報酬が高い時は気を付けましょうとかいった基本的な事ばかりだ。

それ以外の、例えば敵の個別の対策方法なんかは

あまりに数が多すぎて、ここで一つ一つ話していたら限が無くなってしまう。


そこで彼女達から疑問や質問が飛んできて

それに対してフィルが自分のやり方や過去にやった対処法を答えていく、

という流れで進める事になったのだが

こうして思い出話をしていると、授業をしているというより

なんだか昔、別の冒険者達としていた情報交換という名の飲み会が思い出される。

みんな楽しそうに質問したり聞いてくれるのは嬉しいのだが

そうなると酒が無いのが余計に寂しくなってくる。


話の内容も最初こそ敵に魔法使いがいる時の戦い方だとか

フルプレートや固い敵への対処といった

駆け出し冒険者らしい真面目な質問だったが

次第にドラゴンと戦った事はあるかだとか

モンスターに武器や服を溶かされた事はあるかだとか

冒険のコツというよりは

ただ面白い話を聞かせるだけになってきて

なんだか孫にせがまれ昔話を語るおじいちゃんのようになっていた。


そんな授業っぽい何かがしばらく続き

そろそろ一人で喋り続けるのが辛くなってきた頃、

応接間の方から聞こえていたリュートの音色が止み、

それから奥の方で扉が開く音と共に

フラウとサリアの話声がこちらに近づいてくるのが聞こえてきた。


「あ、あっちは終わったみたいだね」

二人の声に気が付いたアニタが扉の方を見ながら言うと

それに応えてトリスがフィルに尋ねる。

「私達もこの辺にします?」

「そうだね。それじゃあ今日の授業はここまでとしようか」

どうしましょうかと尋ねるトリスにフィルがホッとした様子で賛成する。

さすがに一時間以上ずっと話していると喉が疲れてくる。

なにせ一つ話終わると直ぐに次の質問が飛んできて、ほとんど休む暇がない。

これが酒場での情報交換会なら喉を潤す物や、ついでに小腹を満たす物もあるのだが、

そう考えると、学院の教師というのはつくづく大変な仕事だと思う。



授業を終えて一行が厨房に入ると

厨房では先に到着したサリアとフラウの二人が

窯の前立ってその手前に置いてある鍋の様子を確認している所だった。

二人はすぐにこちらに気付くとこっちこっちとフィル達を手招きする。

「皆さんおかえりなさいですー!」

「あ、そっちも終わったんですね」

嬉しそうな二人の顔を見えるに

どうやらパン生地の方は順調に膨らんでいるようだった。


「丁度きりも良かったし二人の声が聞こえたからねー、あ、生地の様子はどう? ちゃんと膨らんでた?」

「はいです! ばっちりです! ちゃんと膨らんでましたー」 

生徒達に出来を尋ねるリラ先生に、

フラウが嬉しそうに答える。

そんなフラウの報告を聞きながら

リラもどれどれと窯の傍にある鍋の中身を覗き込む。

「うんうん。ちゃんと膨らんでる。これだけあれば二日分は出来そうだね」

「えへへー。ちゃんと出来てよかったです」

リラ先生から太鼓判を貰い上機嫌のフラウ。

そこにアニタとトリスも加わり

さっそくどんなパンを作ろうか盛り上がっている。



フィルはそんな少女達を一歩下がった場所から眺めていたが

そんなフィルに気付いたフラウが何かに思いついたようで

水場からコップに水を注ぐとフィルの方へと駆け寄る。

「はいです!」

笑顔でそう言って両手で持ったコップを差し出すフラウ。

「ありがとう。丁度喉が渇いてたんだよ」

戸惑いはしたが、ずっと喋り通しで喉が渇いていたフィルは

有難くフラウからコップを受け取ると、

汲まれたばかりで良く冷えた水を喉に流し込む。

先程までずっと喋っていて喉が渇いていた分

冷たい水はいつもに増して美味しく感じられる。


「うん、美味しかったよ。でも、良く僕が喉が渇いているって分かったね?」

「えへへー。さっきサリアおねーさんが先生してたら喉が乾いたって言っていたんです。だからフィルさんもそうかなーって思ったんです」

どうでしたか?と、フィルを見上げて無邪気に笑うフラウ。

「フラウは優しいなぁ~、フラウの予想通り、とっても喉が渇いてたんだよね」

普段から無縁なだけに女の子に優しくされて

年甲斐もなくだらしなく頬を緩めたフィルがフラウの頭を撫でると

フラウはさらに嬉しそうに笑顔を浮かべる。



「さてと、フィルさんも元気になった事ですし、晩御飯の支度をしましょうか!?」

「そうね。それじゃあフィルさんとフラウちゃんとサリアはこっちでパン焼きの続きを始めましょうねー」

このまま放っておいたらいつまでもフラウの頭を撫でていそうなフィルをサリアが遮り、

それに続いてリラがフィル達を調理台の前へと連れていく。

それぞれ、思い思いにパンを作っていく四人。

「パン生地はこれ位で……」

そう言いながらリラが手慣れた手つきでパン生地を丸めていく。

「ねぇリラ。一人用の長細いのってどのくらいです?」

「えーっと、一人分ならこんな感じで……」

「ふむふむ、こんな感じ……っと」

リラに倣ってフィル達もパンを作っていく。

「えへへ、上手に焼けるといいですねー」

「そうだね。焼きたては美味しいからねー」

「はいですー!」

ニコニコとフィルの方を見上げて尋ねるフラウにフィルも笑顔で応じる。


そんな感じでフィル達がほんわかパン作りをしている間、

残ったトリスとアニタはおかずを作っていた。

「ええっと、スープはまだ残りがあるからこれをつぎ足して……おかずは炒め物でいいかしら?」

「あ、折角の焼きたてだし、卵を挟もうか?」

「ふふふっ、あなた卵サンド好きだもんね~」

既に調理場の使い方にもすっかり慣れて

そんな事を話しながらトリスとアニタの二人は手際よくおかずを調理していく。


フィル達はと言うとパンを焼く準備に移っていた。

先程風呂を焚くのに使っていた窯に再び薪を補充していくと

幸い先程まで風呂を沸かすのに使っていたおかげで、

窯はさほど時間も掛からずに十分な温度高温になっていく。

そこにすかさずパン生地を置いて蓋をして、

窯の中の余熱でじっくりと焼き上げる。

暫くすると小麦が焼ける時特有の香ばしい香りが厨房の中に漂ってきた。


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