邪神さんとお仕事7
切りかかってきたリラのバスタードソードを
フィルは両手で持ったロングソードで受け止め、そのまま弾き返す。
「よーし! その感じだ!」
「ッ!」
片手でバスタードソードを操るリラは
慣れない武器という事もあって
武器の重さに振り回され、そのまま後ろへとよろめく。
それまでハルバード、グレートアックス、グレートソードと試してきて
どれもそれなりに扱いこなしてきたリラだったが
特殊武器に分類されるバスタードソードの扱いには
流石に苦戦しているようだった。
「んー、やっぱり難しいですねコレ……」
「ははは、だからこそ特殊武器と言われてるんだよ。一応両手でなら使えるし、無理に覚えなくても良いんじゃないかな?」
「えーでもせっかくですし、習えるなら習っておかないと!」
そう言ってもう一度、剣と盾を構えるリラ。
横に立つトリス達も普段愛用しているのとは違う武器をそれぞれ構えている。
フレイルを構えるトリスに、シミターを構えるサリア。
アニタは一応は自前でも持っているのだが
これまで殆ど使う事の無かったクォータースタッフを構えている。
それぞれ慣れない武器の感触を掴もうと
一人づつフィルに打ち込んでは使い方の指導を受けていた。
「みなさーん、そろそろ休憩どうですかー?」
今日は玄関前のポーチで見守るフラウの呼びかけにフィルが剣を下ろすと
少女達もようやくといった感じでフラウが座っている石畳へと集まる。
「はいです、どうぞですー」
少女達に冷えた水を注いだコップを配って回るフラウ。
真夏にはまだ遠いとは言え、良く晴れた空の下での戦闘訓練。
激しい運動で汗は大量に出るし、それ以上に喉の渇きも酷い。
そんな時によく冷えた水に絞り入れられた柑橘の酸味は
乾いた喉や体に心地よく染込んでいく。
「んんーっ! 美味しいー! フラウちゃんはきっといいお嫁さんになれますねー!」
「えへへー」
べた褒め褒めのサリアにフラウは恥ずかしそうながらも嬉しそうにしている。
他の皆も冷たい水を一息に飲んでようやく人心地をついたようだった。
「それにしても、やっぱり使い慣れない武器って難しいですね」
試しにとフレイルを使ったトリスの感想にサリアが頷く。
「私のシミターも、レイピアやロングソードと似たような物だと思ったら結構違うんですよねー」
「バードの剣術って結構独特だよね? なんか踊ってるみたいで」
アニタの疑問にサリアが二杯目の水を美味しそうに飲みながら答える。
「お、良い所に気が付きましたね? 私たちのは剣舞とか舞踏の基礎にもなってますからねー。踊りっていうのは近いと言えば近いかもですね。慣れれば、これでも踊れそうなんですけどねー」
そう言って借り物のシミターを眺めるサリア。
そう言えば、ここより遠く砂の国に行った時、
口を薄いベールで隠した美女がシミターを持って踊る踊りを見た事があった。
あれもバードが舞っていたのだろうか?
意外と土地が違うとロングソードの代わりにシミターを習うのかもしれない。
(うーん、でもサリアじゃ色気が足りないような……)
ぼんやりと半裸のサリアが踊る姿を思い浮かべてから
やはりあの娘には似合わないなぁと我がパーティのバードを眺めてみると、
まだまだ諦める気はない様子でシミターを振ったりして感触を確かめていたが
フィルが眺めているのに気付いたようで首を傾げて見せる。
「ん? どうかしました? あ、踊るって言ってもエッチな踊りはしませんからね?」
そう言って、フィルの心を読み取ったのか、にししと笑うサリア。
どうやらサリアも砂の国の剣の舞についての知識があるらしい。
やはりああした踊りはサリアには似合わないと自覚しているのだろう。
「ん? ああ、そうだね。その方が僕も良いと思う」
「あー、それってどういう意味ですかー!」
何気無く返した返事だったが、突然怒り出すサリア。
何か悪い事を言ったのだと思うのだが
どうにも心当たりは思い当たらない。
「うーん、これはフィルさんが駄目ですねー」
「うん、フィルさんがいけないと思う」
リラとアニタにまでダメ出しをされてしまう始末で
フラウの方に救いを求めると
こちらは困ったような笑顔を浮かべるばかり。
ますますわからなくなって混乱するフィルだったが
「もう、みんな、フィルさんをからかってばかりいないの!」
「「「はーい」」」
トリスが窘めると素直に返事をしてから、
くすくすと笑っている所を見ると
どうやらからかわれていたらしい。
「あ、でもフィルさん。さっき私じゃ色気が足りないとか思ってませんでした?」
そう言って尋ねてくるサリアの顔は何時もの悪戯っ子の顔だった。
どうしてこの娘は口に難い事でも平気で尋ねてくるのだろうか?
フィルがどう返したものかと考えていると
「もー、駄目ですよー? 女の子に色気が足りないとか考えちゃ!」
「……考えるのも駄目か?」
「もちろんです! フィルさんはその後の行動に滲み出てるんです! もっと行動には気を付けないと!」
駄目ですよと子供を叱るような口調で窘めるサリア。
歳が半分ほどの娘に説教されてしまうというのは我ながら何とも情けないが、
確かに女性相手、しかも若い娘相手という点においては
フィルにはそう言った付き合い方の経験は殆どない。
ここは非常に不本意ではあったが、
素直に助言を受け取っておくべきなのかもしれない。
その後、何度かの休憩を挟みながら訓練は順調に進んでいった。
訓練が終わる頃には完璧とは言えないまでも
少なくとも全員、武器に振り回される事は無くなった様に見えた。
特にリラについては一日でかなりコツを身につけた様で
これなら実際に戦闘で使っても何とかなるのではと思える。
これなら比較的使い方が近いカタナも
扱えるようになるのはそう遠くは無いだろう。