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邪神さんとお仕事6

フィルとフラウが庭へと行くと、

玄関のポーチで訓練の準備が終えたリラ達が

楽しそうにお喋りをしているのが見えた。

こうして笑い合っている姿は年相応で可愛いと思えるのだが、

これからはじまる訓練では

全員が全員、結構本気で襲い掛かってきたりするので

仮想敵役のフィルとしては少しばかり複雑な心境ではある。


少女達はてっきりフィル達が玄関から出てくると思っていたのだろう。

勝手口から出てきた二人を見かけて一瞬おや?という顔をするが

直ぐに二人が水差しやコップの乗ったお盆を手にしているのを見て

大体の事情を察したようだった。


「あ、飲み物持って来てくれたんですねー。ありがとうございます!」

「ああ、訓練で喉が渇くだろうってフラウがね」

「すっごく冷たいんですよー! フィルさんが冷やしてくれたんです。あと、お風呂にすぐに入れるようにって準備してくれたんです!」

礼を言うリラにフィルが答えてフラウが嬉しそうに補足すると

お風呂と言う言葉に少女達からおーっという歓声が上がる。

ここまで喜ばれると少し照れ臭いが、

頑張った甲斐もあるというものだろう。



「コホン。それじゃあ始めようと思うけど、皆、準備は出来てるかな?」

「「「「はーい!」」」」

元気良く返事を揃える四人にフィルはうんうんと頷くと

自分のバッグに手を突っ込んで

リラに頼まれていた武器を玄関前のポーチに置いてく。


バスタードソードから始まりグレートソード、

バトルアックス、グレートアックスにハルバードと言った花形武器から

比較的扱い易い部類のショートソードにスピア。

堅実な鈍器にはウォーメイスにフレイルにクォータースタッフ。

さらにはシミターにカタナ、シックルやククリと言った変わり種まで

様々な形をした武器が次々と並べられていく。

たちまち玄関前は武器の露天のようになってしまう。

フィルはさしずめ怪しい武器商人と言ったところだろう。


「へぇ~色々あるんですねー……これってやっぱり、全部魔法の武器なんですか?」

一通りの武器を眺めてから、

驚き半分呆れ半分で尋ねるリラ。

無造作に石のポーチの上に置かれているが

実際にこれらの武器を店で買おうとしたら金貨が何枚必要なのか、

残念ながら鑑定系の技能を持っていないリラではまるで想像がつかない。


「ああ、とは言ってもそれほど強くない、傭兵とかに貸し出す為にとってある予備武器だけどね」

「予備でもマジックアイテムなんですね……やっぱり冒険で手に入れた武器とかって、溜めておいたほうが良いんですか?」

「ん~、適正価格で売れるなら売ってもいいと思うけどね。商人に売ろうとしても大抵は難癖付けられて二束三文で買い叩かれるからね。それなら売らずに持ってた方がまだ良いだろうって、そんな感じで溜めていたというのが実際の所だよ」

自嘲気味に笑って答えるフィルに

リラは少し首を傾げて見せる。

「あれ? お店に売るのって、そんなに大変なんです?」

そんなに大変なら、今度街に売りに行く武器も売れるのだろうか?

そんな事を考えているのだろう、不安そうな顔をしているリラに、

フィルは苦笑い交じりに答える。

「そうだねぇ、魔法の掛かってない普通の武器や、弱いマジックアイテムなら普通に買い取ってくれるんだけどね。買い取りの値段が金貨千枚を超えるぐらいから、これ以上の金額は払えないって言われることが多いんだよ」



殆どの店が個人商店であるこの世界では

商店と言えば自宅を兼ねた店舗である事が一般的だった。

そんな個人宅であらかじめ準備してある金貨なんて数百枚から数千枚。

裕福で大きな商店でも数万枚を確保している程度が精々だろう。

そこへ金貨数万、数十万するような魔法の武器や防具を売りに来られても

支払う事が出来ないし、もし支払えたとしても、

今度はそんな高価な品を買ってくれる客が見つからない。


そんな訳で、高価な品を商人に売ろうとすると

自分達の買取限度額までしか支払えないと言われることが多い。

それで良ければ引き取りますよと言うのだ。

それでいて、売り出すときはちゃっかり本来の価値で売るのだから

やはり商人というのは抜け目がない者達だと思う。


「なるほどー。確かに無い袖は振れないですもんねぇ」

「まぁ、そうは言っても駆け出しの頃はそんな高価な物が手に入ること自体が稀だったし、気にしてる余裕も無かったんだけどね。僕らもマジックアイテムを無理に売らないようになったのはバッグ・オヴ・ホールディングが手に入ってからだしね」


駆け出しの頃は対峙する相手もゴブリンやオークと言った

所持品もそれなりの相手ばかりなので

高価な戦利品に出会える機会自体が滅多にない。

それに収入が入っても武器や防具の更新やスクロール、ポーションの購入等々、

自分達の戦力強化の為にあればあるだけ金貨は出て行ってしまう。


そんな慢性的な資金不足の状況なので

戦利品は少しでも多く……出来る事なら全て持ち帰りたい所ではあったが

残念ながら六人だけで、それも各々が冒険に必要な装備を持ち歩いている状態では

持ち帰えれる戦利品なんてたかが知れている。

一応、ウィザードが二人居る利点をフルに活用して

マウントの魔法で呼び出した馬に荷物を持たせたり、

フローティング・ディスクの魔法で荷物を運んだりはするのだが

それでも鎧のように嵩張る物を全て持ち運ぶのは難しいし

武器にしても数が増えてくると簡単に重量オーバーになってしまう。


そのため出来るだけ軽く高価な物を優先して持ち帰り、

売っても金貨数枚にしかならないような普通の武器や防具は

多くをその場に捨て置いていたのだが

そのうち店の買取価格の上限を超えるような

高価なアイテムが手に入るようになると

流石に損をする金額を無視する事が出来なくなってくる。


幸いにしてバッグ・オヴ・ホールディングは

性能によって価格が大きく変わってくる。

ようやく駆け出しを卒業した程度のフィル達でも

性能の低い物ならば多少の無理で買う事が出来たので

以降はそれまでとは方針をがらり変えて

魔力の掛かっていない普通の武具も出来る限り拾い、

それらを売って資金を得る事にしたのだった。


実際、一つ一つは安くても数が揃うと結構な稼ぎになるし

店の方も以前よりも買い取り易くなったと言っていた。

普通の武具は買い手の数が多いだけでなく

いざとなったら潰して素材に戻しても良い。

商人達にしても扱いやすい商品なのだという。


そして、手に入れたマジックアイテムを売らずに保管するようになったのだが

こちらは自分達で使うだけでなく、

物々交換や情報料として利用したり、

傭兵や助け出した捕虜や村人に貸したり報酬として与えたりと、

今までとは異なる使い道で役立つ事になった。



「そんな訳で売らずにいたら自然と溜まっていったんだよ。実際に予備の装備が必要になったり、臨時で村人や傭兵に武器を貸したりとかは何度かあってね。結構役に立つんだよ?」

「私達も借りましたもんねー。今も借りる所ですし」

そう言ってえへへと照れ笑いを浮かべるリラ。

確かにこうして後輩たちの訓練が出来るというもの、

役立ったと言える事の内の一つに入るだろう。



「さてと、折角だし実際に手に取って見ると良いよ。必要なら簡単に説明もするからね?」

「「「「はーい」」」」

元気良く返事をして、さっそく露店の品を物色する少女達。

興味津々、賑やかに露店の武器を覗き込み

見慣れぬ武器を手にしてはあれやこれやと質問する少女達に

フィルは店番の店員のように武器の説明をしていく。


「グレートソードかぁ。あ、これって熱を帯びてる……? 炎の魔剣です?」

「魔剣というほどじゃないけど、軽い炎の力が込められてるね。威力は火傷程度だけどトロル相手とかには結構役立つよ」

「あ、これってシミターですよね? ダークエルフの英雄が得意にしてるっていう! いいなぁ。今日はこれ使ってみようかな?」

「サリアはバードだし、シミターは習ってないだろう? そこにあるショートソードか、ロングソードをリラから借りたほうが良いんじゃないか?」

「えー、いいじゃないですかー。リラだってカタナとかバスタードソードとか、これから教えて貰うんですし、私達だってシミターとかフレイルとか教えて貰ってもいいじゃないですかー! ねっ? トリスっ」

「え? ええっと……確かにフレイルは使えるようになりたいけど……」

突然サリアに話を振られたトリスが戸惑いながら応じる。

その手には湾曲した刃を内側に持つ、

どう見ても農作業に使う鎌が握られている。

「あ、これって……鎌ですよね? これも武器にするんですか?」

「ああ、それはシックルだね? 基本的には農具と同じでドルイドとかが好んで持ってたりするんだ。使い方も農具の鎌と同じだから単純武器の使い方を習熟してるトリスならたぶん使いこなせると思うよ?」

「私でも使えるのは……やっぱ棒かなぁ。やっぱり魔法の杖を手に入れた時を考えると棒術も習っておいた用がいいかな?」

「そうだね、アニタも使えるようになっておくと良いかもしれないね。けどウィザードは防具が薄いからあくまで非常用として、無理はしないようにね?」


暫くはそんな説明が続き、一通りの説明を終えたフィル達は

いよいよ実際に武器を使っての訓練を開始した。


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