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邪神さんとお仕事3

「ああ、そう言えば……、それで明日はリラ達は来るのか?」

武器の修理を終えての帰り道、

フィル達一行はフラウとサリアを迎えに行く為、村の通りを歩いている所だった。

どうせだしフラウ達と合流したら村の食堂で昼食を食べて行こうかという事で

昨日と同様、ダリウとラスティも加わって、

すっかりいつもの一行といった感じである。


そんな時での唐突なダリウ質問にフィルは一瞬何の話だろうと考え、

少しの間を置いて自分が明日仕事を休む件だという事に思い至った。


ダリウの顔を見てみれば、

あくまでついでに明日の予定を確認を……と

何気無い風を装っているようなのだが、

何となく何か期待しているようにも感じられる。

「うん? 私たちは普通に行くよ?」

ダリウの問いかけに、こちらも何気無く返事をするリラ。

ただしこちらは本当に何気ない様に感じられる。

「そうか……分かった」

その返答をダリウはやはり特に気にした風でもなく受け取る。

普段通りの特に変化は見られないが

それでもどこか嬉しそうにしているようにも感じられる。


短い付き合いのフィルでも何となく察しが付くのだから

どうやらこの辺りの事は他の皆は十分に分かっているのだろう。

アニタにラスティ、普段は皆の優しいお姉さんであるトリスまでもが

温かい笑顔でダリウとリラを眺めている。

流石は村の幼馴染。付き合いの長い友人というのは良いものである。


「あー、でも、午後からはどうしましょうかしらね? 訓練もお預けになってしまいますよね?」

話はそこで終わるものかと思われたが

さも思い出したかのようにトリスが手を合わせる。

「そうなの? それじゃあ山菜採りに行かないか? 畑の野菜が収穫できるようになるにはまだ掛かるし、山で食材を調達しておきたいんだよね」

そんなトリスから上手くつなげて

ラスティが丁度良いとばかりに皆に提案をする。


前回フィルとフラウが山菜を探したときは殆ど見つけられなかったが

流石は地元民だけあって、

今の季節でも食べられる山菜が採れる場所を幾つか知っているらしい。

とは言え本当に穴場というポイントは村人同士であっても簡単には教えたりしないようで

見つけた個人が毎年大事に収穫しているのだと言う。

だが、採った後で皆で分けるなら全然かまわない。


「そうねぇ。麦とかはまだ余裕あるけど、野菜とかお肉とか結構減りが激しいんだよねー」

それもいいわねと言いながら。

あっけらかんと我が家の台所事情を暴露するリラ。

食材の減りが激しく感じるのは

元々二人暮らしの所に四人、

しかも良く運動して良く食べる食べ盛りが四人も増えたのが原因なんだと

一言、反論したい気持ちだったが、

食べ物を採ってきてもらえるのはありがたい事なのでここはぐっと堪える。

一応、次に街に行くまで食材は十分足りるとはいえ

食材を使うばかりでは、だんだん作れるメニューが狭まってしまう。

日頃から食料を補充して置けば、

色々な料理が作りやすくなるというものだろう。


「そうなのか? この季節だと山葱とかキノコか……もしかしたらアスパラも残ってるかも知れんな。もう少し夏になれば里芋も採り頃になるんだがなあ」

そんな事をフィルが考えている間にも、

リラの話を聞きいたダリウが思いつくの今の旬を挙げている。

実際の表情は微塵も動いていないようだが、

彼の表情が何となく明るくなった気がする。


「そう言えばダリウはこの時期採れるキノコの穴場を知っていたよね? それが採れないか見てみたらどうだい?」

そう言ってダリルを山菜取りに誘うラスティ。

まったく、ダリウは友人思いのいい友人を持っているものだとつくづく思う。

ここは是非にも手助けをせねばならないだろう。

「どうせなら皆で行くのが良いよ。近場とは言え山に入る訳だし、男手もあった方が僕としても安心できるしね」

冒険者を志すような娘達に普通の村人が護衛というのも可笑しな話だが、

そんな些細な事より、今は皆で楽しめる方が大事だろう。


「そうね。女の子だけで山に行くのも危ないし、一緒に来てもらったらどうかしら?」

「沢山採れた時、私達だけじゃ大変だもんね」

トリスに続いてアニタがとても良い笑顔でリラに同意を求めている。

本当にリラは仲間思いのいい仲間を持っているものだとつくづく思う。


「そう? そうね。それじゃあ明日は皆で一緒に行く? ダリウもいいかしら?」

「あ、ああ、じゃあ俺達も参加させてもらう」

周囲の思惑にはまるで気付かない二人が約束を交わし、

こうして明日は皆で山菜取りに行く事となった。

まったく、皆、良い友達を持ったものだと思う。



そんな話をしながらイグン老の家の近くまでやってくると

家の方から何やら小麦とバターの焼ける甘い香りが漂ってきた。

「ねぇアニタ、これは……クッキーかな?」

「うーん、ケーキだったりして、いや、ケーキがいいな」

「もう、二人ったら……おばあ様の家に窯は無いからクレープじゃないかしら?」

「えー、クッキーだってフライパンでできるよー? それにほら、お持ち帰りだって簡単だし!」

香りをかいだ途端、にわかに落ち着きが無くなり、

あれやこれやとお菓子談義を始める少女達。

一方で男達の方を見てみると

此方はそこまで心を動かされた様子は見られない。


「作っていたのがおやつとなると、やっぱり昼飯は食堂に戻って食べた方がよさそうだな」

「そうだね。たしか今日はウサギがあるって言ってたよ? 先に行って注文をしておこうか? フィル達も一緒でいいよね?」

と、冷静に昼食の算段を考える二人。

もちろんフィルもこちら側の人間であり、

ありがたく二人の申し出に乗らせてもらう。



イグン老の家に到着して玄関の扉をノックすると

すぐにイグン老が二人を連れて玄関を開けてくれた。

「フィルさん、お帰りなさいです!」

「ああ、た、ただいま?」

ここは我が家じゃ無いけどとは思いながらも

嬉しそうにフィルの前まで駆け寄ってそう言うフラウに、

ついつい思わずそう返すと、

フラウは手に持ったバスケットを嬉しそうに目の前に上げて見せる。

そのバスケットからなのか、それとも少女からなのか

バターと小麦の焼けた甘い香りがふんわりと漂ってくるのが感じられる。

「えへへ、クッキーを作ったんですー!」

バスケットにはナプキンが被せられていて中を見る事が出来ないが

きっとこの中には焼きたてのクッキーが入っているのだろう。

後ろでリラがよしっと言うのが聞こえる。

その声がフラウにも聞こえたのだろう、

「帰ったら皆さんで食べるんです!」

少女はえへへと嬉しそうな笑顔を浮かべる。


「私もちゃんと頑張ったんですよ? 今回は自信作です! ねー?」

そんなフラウの後ろからサリアの声がかかる。

サリアはと言えば手を後ろにしてニコニコと笑顔でフラウの斜め後ろに立っている。

「はいです!」

そう言って笑いあうサリアとフラウ。

どうやら二人とも料理教室を十分に楽しんだようだった。

本当にイグン老には感謝しかない。


「今日は本当にありがとうございました」

「いえいえ、こっちも楽しかったわ。またいつでも来てね?」

フィルの礼にそう言って笑うイグン老。

こうしていると孫が遊びにきたお祖母ちゃんといった感じがぴったりくる。

そんな事を考えているフィルの横にやって来たフラウがフィルの袖を引いた。

「フィルさんフィルさん」

「うん? なんだい?」

「あのね、そろそろ村のお菓子の材料が切れちゃいそうなんです」

「うんうん」

「だから、今度街に行く時に、お菓子の材料を買ってきてあげたいんです。あと、お料理教室で使いたい材料も買って欲しいんです」

フィルを見上げて一生懸命訴えるフラウ。

普段いい子にしている少女がこうしておねだりをするのは

おそらく今日みたいに村の皆に美味しいを食べてもらいたいからなのだろう。

「なるほどなるほど。全然かまわないよ。それ位なら街に行った時に僕が買うよ」

それならばフィルとしても、そのおねだりを叶えてあげるべきだろう。


お菓子の材料、特に蜂蜜なんかは一ポンドで金貨一枚と

結構高価な食材だったりするが

それらはあくまで一般の人々にとってであり、

フィルにとってはさした金額ではない。

これからもお世話になるのだし、

この位はフィルが支払っても全然かまわないだろう。

フラウの頭を優しく撫でながらフィルはイグン老へと尋ねた。

「それじゃあ今度僕の方で買っておきますので、食材のリストがあれば貰ってもいいですか?」

「ああそれなら、サリアちゃんに渡しておいたよ」

「はい、こちらになります!」

イグン老の言葉に待ってましたとばかりにサリアが後ろに回していた手を

羊皮紙と一緒にフィルに差し出す。


(この準備の周到さは、たぶんサリアの入れ知恵なのだろうなぁ……)

内心で苦笑いを浮かべながら、フィルは羊皮紙のメモに目を通した。

「ええと、砂糖に塩に蜂蜜に粉ミルク、チョコレートにカラギーナン……あとは干しタラ、アンチョビ……ん、ん~?」

初めの方はともかく、後の方の食材はこの辺はおろか

海の向こうからの輸入品や

遠く海の近くで採れるような物が並んでいる。

(これは……確かにあの町でも買えると思うけど、結構高くつきそうだな……)

この周辺には海は無く、海産物や遠くからの輸入品は街を数個隔てた港町からの交易品に頼っている。

それなりに需要の大きい砂糖や塩は街や国が率先して交易をする為、値段もそこそこ安定しているが

嗜好品の類になると取り扱う商人も減って産地以外の物となる結構高くなるのが常だった。

まぁ高くつくといっても港町で買う値段と比べて二~四倍といった所なのだが

それでも大量に買うとなるとこの金額差はちょっと、というかかなり勿体ない。

それに交易商に頼った品は入荷が安定しない為

場合によっては街に行っても品切れの可能性もあり得る。


「みんなで欲しい物を出し合っていた時に、サリアちゃんの話を聞いていたら、みんな食べてみたくなっちゃったのよねぇ」

(やはり犯人はこの娘か……)

そう言うイグン老の言葉にサリアを見ると

満面の笑顔でこちらに笑顔を送っている。

「きっとフィルさんなら何とかしてくれると思ったんです!」

「まぁ買えない訳じゃないけど……でもあの街で大量に買うのはちょっと勿体ないな……」

以前のフィル達ならそういう時はテレポートで安く買える土地に飛んで

そこで購入したりしていたものだが、

今此処で自分がテレポートを使える事を言うは出来れば避けたい。


「それじゃあ、今度港町へ行ってみるのはどうでしょう?」

「それも良いけど、ここから結構離れてるよ?」

そんなフィルの悩みを知ってか知らずか、港町への遠征を提案するサリア。

案外この娘の目的は港町を観光したいとか、そんな所なのかもしれない。

「たぶん片道一週間、往復で二週間といった所かな。結構な旅行になるからなぁ……」

(まぁ、テレポートを使えば問題ないのだけど……けどなぁ)

一応村人達には自分の魔法の腕前はファイアボールを使うのが精々だと言ってある。

テレポートはその更に二つ上の難易度の呪文であり

これを使えると言うのは正直気が進まない。


「それじゃあテレポートの呪文とか使えません? 実はフィルさんなら出来るんじゃないかなーって思って色々書いちゃいました」

フィルが内心で悩んでいる所を、笑顔のサリアがぐさりと質問してきた。

人が一生懸命隠しているのに、

この娘は絶対ワザとしているのだろうなと睨んでみるものの、

サリアは先程からの笑顔を崩さずにニコニコとしている。


「フィルさん。やっぱり大変そうです?」

そう言って心配そうに見上げるフィル

そんな幼い少女の顔についにフィルも折れる。

「まぁ、そうだね、テレポートなら僕も出来ない訳じゃないし、街への買い物が終わってから、都合の良い時に行ってみようか?」

そう言ってフィルはもう一度フラウの頭を撫でる。

「わぁ……はいです!」

嬉しそうに頷くフラウにサリアが近づく。

「良かったですねー! それじゃあ、一緒に美味しい海鮮料理食べましょうね!」

「かいせんりょうりです?」

「はい。お魚だけじゃなくて貝とかエビとかを使った料理があるんですよ。とっても美味しいんですよ?」

「わぁ~! はいですー!」

そんなサリアの説明に、我慢が出来なくなったリラが尋ねる

「ねぇねぇ、サリアは港町って言った事あるの?」

「実は私もまだないんですよ~。話に聞いただけなんですけどね?」

瞬く間にサリアを中心に五人集まって、

港町のグルメやらについて談義を始める少女達。

どんなデザートが食べられるだとか、港町特有の料理だとか

賑やかに相談している姿を見ると

六人連れでのテレポートがどれだけ難易度が高いか

一言言ってやりたい気持ちになったが、

それを言えば墓穴を掘る事になりかねない。

そんなやるせない気持ちで少女達の隣にいるダリウを見ると

こちらは仕方なしという同情の混じった苦笑いを浮かべている。

「……まぁ、色々と大変だろうが、気を落とすなよ?」

「ああ……善処するよ……」

「それでなんだが……俺達も一緒にいけるか?」

彼にとっても港街、海というのは気になってしまうのだろう。

普段の厳つい顔とは違う、明らかに照れくさそうなその顔に

フィルは思わず笑みが漏れてしまう。

「うーん、僕のテレポートって定員は六人なんだよね……あ、でも裏技を使えば何とかなるかな。あと二、三人ぐらいなら行けると思うよ」

「そうなのか? それじゃあ、あいつも誘ってみるか」

そういってダリウは食堂へ予約しに行ったラスティの名を挙げる。

こういう時でも友人を忘れないというのは

本当にいい友人を持っているものだとつくづく思う。


「ああ、こちらとしてはそれも大丈夫だと思うよ」

折角の遠出なのだし、どうせなら皆で行って楽しむのが良いだろう。

そう考え直してなんか色々な事を諦めることにしたフィルは

気分治しということで村の食堂へと向かうことにした。



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