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邪神さんと休日14

その日の晩御飯は何時にも増して豪華なものとなった。

ミルクとソーセージのシチューに、ポテトサラダ

チーズとベーコンがたっぷりのグラタンにキャベツの漬物、そして焼きたてのパン。

更にはパンと一緒に食べようとバターとチーズとハムが急遽追加されたのは

ちょっとやりすぎな気もするが、

あの焼きたての香りを嗅いだ後ではやむ無しだろう。


「フィルさんフィルさん。このグラタン美味しくできましたー! はいっ!」

何時もの様にフィルの隣に座って

あーんと言いながらスプーンを差し出すフラウ。

スプーンの上には自信作のグラタンがとろりとしたチーズの糸を垂らしながら乗っている。


少女の嬉しそうな顔を見ればかなりの自信作なのは容易に察しがつくし

漂ってくる焼けたチーズの香ばしい香りからも美味しく出来ているのは間違いない。

それをこうして食べさせてくれようとする好意には嬉しくはあったが

いい年をした大人が人前で、

それも幼い少女から食べさせてもらうのは流石に照れくさい。

なにより目の前に座っているリラ達の物凄く期待に満ちた視線が痛い。

(親子とかなら、あるいは普通の事なのかもしれないのだけど……)

以前、他所の冒険者パーティと飲んだ時に聞かされた

とあるゴツイ禿頭戦士が自分の娘ののろけ話を延々としていたのが思い出される。

親娘であれをしたこれをしたと色々と言っていた気がする。

あの禿親父の言った事なら親子でしてもまぁ大丈夫なのだと判断できたかもしれないが

残念ながら話の内容は剥げ親父のにやけ顔のインパクトが強すぎて殆ど覚えていないのが悔やまれる。



「どれどれ……」

相変わらずの前からの視線は凄く、圧力さえ感じるほどだったが

意を決し、目の前の観客は気にしないように努めて

パクリと差し出されたスプーンに食いつくフィル。

目の前の少女達からおお~という歓声のような声が上がった気もしたが

きっと気のせいと、気にしない様に心を平静に努める。

(……これは呪文を抵抗する方が遥かに楽な気がする……)

これが魔法による魅了や睡眠、恐怖といったものなら

かけられた力を感じ、それに抵抗さえすれば済むのだが……

ただ恥ずかしいというのでは抵抗のしようがない。


口に入れたグラタンはと言えば

確かにフラウが自信満々で食べさせたがるのも納得の美味しさだった。

まだ少し熱さが残ってはいたが、

お陰でこんがり焼けたりとろとろになったりしたチーズが

中のシチューやベーコン、ポテトと良く合わさって

グラタンの旨味やコクを一層深いものにしている。

何より丹精込めて作ってくれた料理、旨くないはずがない。

「……んぐ、うん、すごく美味しいね」

「えへへ。はいです! あ、こっちもどうです!」

お世辞にも上手とは言えないフィルの感想だったが

それでもフラウは上機嫌で嬉しそうに次はこれですとポテトサラダやらシチューやらを

せっせと自分の所から料理をすくってはフィルの口へと運んでいく。

ここまでくると、周りの視線にも慣れて来たのか

フィルは諦めの混じった笑顔で出されたスプーンに次々と食いついていく。


「フラウちゃんもすっかりお母さんですねぇ~。でも、ちゃんと自分も食べないとだめですよ?」

「えへへ~、はいですっ!」

流石に自分の分を食べないで何時までもフィルの餌付けをしているフラウを窘めるサリア。

そんなサリアにえへへと照れ笑いを浮かべて、フラウはようやく自分の分を食べ始める。

窘めてはいるものの、サリアのその顔は笑顔だったし

フラウの方もあまり反省しているというより寧ろ楽しそうに見える。

「こうして見てると二人ってなんだか親子みたいだよねー」

「えー、そうですか? 姉妹ぐらいじゃないですかー?」

「あ、確かにそうかも、サリアってお姉さんっぽいよね? トリスとはちょっと違う感じだけど」

年上の少女達のワイワイとした感想を聞いて

ますます上機嫌で自分の分の料理を食べるフラウ。

サリアはそんなフラウの様子をやはり笑顔で見守ると

今度は少し意地悪そうな笑みを浮かべてフィルの方へと見やる。



「フィルさんもすっかり鼻の下を伸ばしちゃって、駄目ですよ? 女の子の前ではもっとシャキッとしないと」

「そうは言うけど、こんな美味しいご飯をこんな可愛い子に食べさせてもらった事なんて今まで無かったんだから仕方ないだろう?」

原因はフィルさんにもあるんですよとばかりに人差し指をフリフリしながら咎めるサリアに

フィルは言い訳をしながら、今度は自分でグラタンを口に入れる。

実際、冒険者になってからこの歳になるまで女の子に食べさせてもらえた事など無かったのだ。

これ位は大目に見てくれても良いだろうにと思う。

そんなフィルの言い訳にサリアはやれやれと溜息を吐く。

「……ふぅ。まぁ、そういう事なら仕方ないでしょう。その若さで可愛い子に毎日食べさせてもらってたら、それはそれでちょっと引いちゃいますし」

それからフィル達の話を聞いて嬉しそうにしているフラウの方へと顔を向ける。

「それはそうとフラウちゃん。よかったですね~。フィルさんすっごく嬉しいみたいですよ?」

「えへへ~。はいです!」

ねーと楽しそうに言いあうサリアとフラウ。

呆れたと思ったら喜んだり、ころころと賑やかな娘達を眺めながら

フィルはポテトサラダをすくって自分の口に入れる。



「あ、ほうひえばフィルさん」

「ん? ほうしたんふぁい?」

口に食べ物を入れたまま問いかけるリラに、フィルも食べながら答える。


フィルとしては冒険者は多少行儀が悪いぐらいが丁度良いと思っている。

野営だったりガラの悪い酒場だったりと、

冒険者というのは上品な場所とは縁が遠い。

そりゃ巨悪を討ってお城でパーティなんて事も有るにはあったが、

どうせ貴族の見世物にされるだけで、あまり楽しいものでは無い。

それなら小汚い酒場で気の合う連中で宴会をした方がよっぽど楽しい。

郷に入っては郷に従え、どうやらリラはその辺について有望と言える。


「フィルさん。ご飯はちゃんと食べてからお話ししないとだめなんですよ?」

「リラも、食べながら話すのは行儀悪いわよ?」

……フラウとトリスに窘められて

二人はごくりと中の物を飲み込んでから会話を再開する。

最年少のフラウと姉代わりのトリスに指摘されては言い訳さえも難しいのだ。

やはり行儀は大事なのだ。


「……んぐ、そう言えばフィルさん、明日の予定って、今日と一緒なんですか?」

「……んご、ああ、そうだね。明日は今日と同じで良いと思うけど、明後日はちょっと別な事をさせてもらおうと思うんだ」

「明後日、ですか?」

はて?と首をかしげるリラ。

「うん。街に行く前に済ませておきたい用事があるんだけど、急に休んだら村の人達が困るかもしれないからね。明日村に行った時にその事を伝えようと思ってるんだよ。もちろん魔法での修理する分は明日修理から帰るときに家に持ち帰って明後日もやるつもりだよ」

武器の修理は村人達との共同作業であり

幾つかの作業ではフィル達の手を当てにしているものもある。

何も言わずに休んでは村人達にも迷惑が掛かってしまうだろう。

そんなフィルの説明にリラはなるほどと頷くと、今度はすこし遠慮がちに尋ねる。


「えっと、それじゃ明日も訓練は出来るんですね?」

「うん、訓練とかは今日と一緒で良いと思うよ? 訓練以外でもやりたい事があれば別だけど?」

「あ、このまま訓練をお願いしたいんですけど、明日はロングソード以外の武器の使い方を教えて欲しいんです」

「ロングソード以外というと? 斧とか槍とか?」

「それもありますけど、他にもグレートソードやハルバードとか使えるようになっておきたいなって。あとバスタードソードやカタナとか……あったらでいいんで習っておきたいんです。私ってロングソードとメイス以外だと槍とダガー位しか練習した事が無くって」

「ああ、なるほど……」

「ほら、冒険したら敵から武器を手に入る可能性もありますし、その時に使いこなせれば何かと役に立つかなーって」

リラの説明になるほどと頷くフィル。

確かにこれまで見たところ、

彼女はロングソード以外の武器を持っている様子が無い。

手近にあるダガーやクラブ、トリスが持っているメイスとかの練習なら出来るだろうが、

それ以外のグレートソードやバスタードソード、ハルバードやグレートアックスといった武器には

下手したら触れたことすら無いのかもしれない。


まだまだ駆け出しの身としては

まずはロングソードに熟練した方が確実に戦闘しやすくなるのだろうが

リラの言うように冒険中にこれらの武器が手に入る可能性は十分あるし

そして冒険中に自分の装備が壊れてしまう可能性も十分にある。

全ては運次第ではあるが、

その時ロングソードの予備が無くて

「運良く」グレートソードやハルバードを入手している可能性が無いとは言い切れない。

そう言う意味では、不足の事態に備えて訓練したいと言うリラの考えは

冒険者として好ましい考え方だと思える。


「ふむ、わかった。僕の手持ちの武器が幾つかあるから、明日はそれで使い方を教えるよ。まぁ僕の使い方もそこまで使いこなせている訳じゃないけどね」

「ありがとうございます!」

「とりあえずはグレートソードやハルバードとかかな、軍用武器は優先して覚えた方が良いだろうね」

軍用武器というのは文字通り軍隊(追いはぎや山賊なんかも含む)等で一般的に使われる武器の事を指してそう言われており、ロングソードやフレイル、バトルアックスといった、戦闘で主武器と使われるような物は大体このカテゴリに分類される。

一方で単純武器というのもあり、ダガーやスピア、クラブやヘビィメイスといった武器が分類されるが、

こちらは一般市民が護身用に携帯するといった感じでの利用が多い。

また、上記の二つの分類の他にもどちらの分類にも属さない特殊武器というカテゴリもあり

これはバスタードソードやカタナが分類される。


特に軍用武器については、

軍用武器全般を一通り使いこなせる事がファイターの基本条件だったはずで

そう言った意味でもリラにはなるべく早いうちに

一通りの軍用武器の扱い方をマスターして貰う必要がある。

そんな事をフィルが考えていると

今度はサリアの方からの質問が飛んできた。


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