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邪神さんと生贄さん 9

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山道を下り終え、村に戻った二人は、十字路をそのまままっすぐ進み、

村の中心にある雑貨屋を目指した。


家々が並ぶ通りを歩いていると、

久方ぶりの雨に外の様子を確認に来たのだろう、

数人の村人を見かけたが、皆、こちらに気が付くと怯えた様子で

一様にそそくさと家の中へと戻っていく。


フラウもそれに気が付いたようで、少しお怒り気味のようだった。

「む~、あんなふうに逃げていくのって、失礼だと思うんです」

「はは、無理もないよ……ここの人達にとっては僕は人買いだからね」


無理やり押し付けられた上に勝手に怯えられることに、

思うところが無いわけではないが、

とりあえずフラウも怒ってくれているので溜飲を下げることにする。


それから暫く村の大通りを歩くと三叉路が見えてきた。

フラウが三叉路の先に立つ、他の家と比べ大きめの建物を指さす。

「あそこが雑貨屋さんです。あと、こっちは宿屋さんです。一階は食堂にもなっているんですよ」


フラウの案内を聞きながら宿屋を見てみる。

こちらは雑貨屋よりも更に一回り大きく、

食堂になっているという入り口は円形の広間にテーブルが並べられており、

さらに奥には別の建物と繋がっているらしく、

そちらにある厨房で料理の支度をしているのが見える。


「ここのご飯はとっても美味しいんですよ。村の人たちもみんな良く食べに来るんです」

フラウの顔を見てみると、えへへ、期待していますよーという満面の笑顔。

どうやら断るのは難しそうだと判断したフィルは、

自身も興味あるし、フラウが喜ぶならと、そのお誘いに乗ることにする。


「ははは、分かった。お買い物が終わったら今日はここでお昼にしようか。でも食材があるといいけど……」

昨日、食材を与えたといっても、村は依然として食料不足なはずで、

食堂で満足のいくものが食べられるのか、若干心配なところがある。

フィルがその心配事を言うと、

「きっと大丈夫ですよ。さっきからいい匂いがしますもん」

大丈夫です。と、自信満々に言った。

さすがにそこまで言われてしまっては、食堂に行かないわけにはいくまいと、

少女の頭を一度撫でて了解を伝えてから、

二人は本来の目的地である雑貨屋に向かった。



「ランプを十個、蝋燭を三十本、石鹸を三つ、それと油を十リットルほど、あと、女の子の子供の普段着を三着と、子供の寝間着に使えそうな服を一着に、旅用の子供服を一着、子供の下着に靴下を7つほどと……ずいぶんと沢山買うんだねぇ。あいにくだけど、ランプのほうは三つしかなくてねぇ。それ以外ならうちにもあるよ。はい、石鹸と蝋燭はこれでいいかい」


フィルの渡したメモを見ながら、雑貨屋の女主人は、在庫の見繕っていった。

村に一つという雑貨屋は、食料こそ村の状況を反映して厳しい状態だったが、

それ以外でいえば、それなりに揃っているようだった。


フィルは早々に食料の注文はあきらめ、生活に使う品を注文する。

少女の服や下着という、いささか男性が注文するには危ない品についても、

店の女主人は横にいるフラウを見るなり納得した様子で、快く引き受けてくれた。


「それにしてもフラウちゃん、嫌な事とかされてないかい? あたしゃ心配でねぇ」

当人が横にいるにも構わず遠慮なく言う物言いに、

フラウはどうして良いかわからず固まってしまい、

さすがにフィルも苦笑いを浮かべる。


「そうだなフラウ、嫌な事とかあったら、きちんと言わないとね」

「もうっ、フィルさんまでそんなこと言って! フィルさんこんな感じで、すぐからかうんです!」

フラウの抗議に女主人は楽しそうに笑う。

どうやら新参の怪しい魔法使いへの懸念は少しは晴れたようだった。


「その分なら大丈夫だろうね。本気で心配していたんだよ。フラウちゃんは村でも指折りのいい子だからね」

そう言いつつ、フィルの方をちらりと見る。

この男は本当に大丈夫なんだろうねと、言外に含ませて。


「大丈夫ですよー。フィルさんとっても優しいんです! そのランプだってお屋敷がすごく暗くて私が怖がったから、明かりを増やしてくれるって」

「そうだったのかい。それは悪いことをしちまったねぇ。どうする、時間はかかるけど、仕入れておくかい?」

フラウの言葉になるほどと納得し、

注文するなら受けるけど、どうするという女主人に、フィルは素直に頼ることにする。


「そうですね……一応、隣の街へと買いに行こうかと思ってはいるのですが、念のため五つほど注文させてもらえますか? それと、どこか服を仕立て直してもらえるところはありますかね? これをフラウのサイズに直したいのですが」


と、フィルは昨日見つけたメイド服を女主人に見せる。

女主人は服の造りをあれこれ、見定めていった。

「これなら、あたしでも出来そうだね。でもあんた、もしかしてこれをフラウちゃんに着せるのかい?」

メイドの仕事をさせてこき使われるフラウを想像したのだろうか、女主人の目が鋭くなる。

評価が上がったり下がったり大変だと、

内心苦笑いをしつつも、あくまでも平静を装いつつ返答する。


「ああ、いえ、はい、昨日見つけたんですけど、フラウが気にったようですので、部屋着にでもと思いまして……」

ほんとにそれだけかい? と凄まじいプレッシャーで尋ねられつつも何とかかわし、

仕立ての約束を取り付けると、ようやく女主人は清算に取り掛かってくれた。



女主人により、商品が奥の倉庫から運び出され、目の前に並べられていく。

服は幾つか在庫があるらしく、何着かを持ってきてくれ、

フラウの気に入った物を選ばせてくれた。


「ランプが銀貨三で、蝋燭も全部で銀貨三枚、石鹸三つは銀貨十五枚で、油が銀貨二十枚、服四着は銀貨四枚で、旅用の服は銀貨十枚になるよ、下着と靴下は五枚ずつのセットで一銀貨だから十枚で二銀貨でいいかい? それと仕立て直しは……こいつはサービスにしておくよ」


合計で銀貨五十七枚、フィルはポーチから金貨を取り出すと六枚渡した。

「すみませんが金貨で大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫さ。まいどあり。やっぱり冒険者っていうのは金貨が普通なんだねぇ」

農民と違い、雑貨屋なら金貨での取引もそれなりの頻度で発生しているのだろう。

金貨自体は取り立てて珍しくはない様子だったが、

フィルの普段使いの貨幣が金貨という事に、若干興味を持ったようだった。


金貨は一枚で、銀貨十枚の価値があり、

銀貨一枚は銅貨十枚の価値となる。

そして、銀貨一枚の価値は労働者やメイドなどの召し使いを雇う際の典型的な日給に相当する。

そのため、大抵の農民や職人などでは、日常の多くで銀貨や銅貨が利用されており。

金貨の利用は殆どない。


逆に、大きな取引が多い商人や領主、

高価な品となりがちな魔法のアイテムなどを扱う魔法使いなどは、

金貨による取引が自然と多くなる。

そして冒険者もまた、そんな金貨を利用する者たちのうちの一つとなる。


「まぁ、今は冒険者は引退状態ですけどね。旅する時は荷物が軽いに越したことは無いですから」

銀貨だとかさばってしまうのでもっぱら金貨で、

それもある程度貯まると宝石へ替えていた。

こうすることで旅の際の荷物を少しでも軽くするのだ。

とはいえ、バッグ・オヴ・ホールディングを手に入れてからは

その辺はあまり気にせず、どんどん貯められるようになったので

宝石を購入することはほとんどなくなったが。


「確かにそうなのかもねぇ。はいよ、お釣り。ああ、仕立て直しは五日後ぐらいに来てもらえるかい?」

「わかりました。五日後ですね。よかったねフラウ」

フィルの言葉にフラウも元気にうなずく。

メイド服もそうだが、新しい服に気に入った物があったらしく。

フラウは上機嫌で自分の服が入った袋を大事そうに抱えていた。

フィルも少女が嬉しそうにしていることに満足すると、

さっそく荷物を持ち帰る準備をする。


「それにしても、ずいぶんと買いこんだけど、これだけの量は持ち運べるのかい? 服はともかく、油なんかかなり重いんじゃないかい?」

目の前に広げられた品を見て、女主人が疑問を口にする。

確かにこれだけの量をフィル一人で運ぶのはつらいように見える。

だが、当のフィルは特に気にした様子もなく、バッグを開けて、荷物を入れる準備をする。

「ああ、これぐらいなら、大丈夫ですよ」


そういうとフィルは自分のバッグの中に購入したものを入れていく。

それほど大きくないバッグだが自分より大きな油のツボをいとも簡単に吸い込んでいく。

「何となく気になっていたのですけど、それは魔法のカバンなのです?」

フラウがこれまで見ていての疑問を口にする。

ランタンや服とかも取り出していたが、

普通に考えれば、あれだけのアイテムを入れるには、バッグは小さすぎる。

それを受けてフィルは肯定を返す。


「ああ、バッグ・オヴ・ホールディングといって、物を大量に入れることができるカバンなんだ。とはいえ、ある程度までで入れる限界はあるし、生き物を入れると死んじゃうから入れたり入っちゃだめだよ?」

説明しつつも瞬く間に購入した品は全てバッグに納まる。

そんな様子を感心してみていた女主人が疑問を投げかける。

「へぇ、これがねぇ、あたしゃ初めて見るよ。お前さん、もしかして結構腕利きの冒険者なのかい?」

バッグ・オヴ・ホールディングは性能によっても変わってくるが、

基本的には高価なマジックアイテムになる。

そのため駆け出しの冒険者などでは、到底持つことが出来ず、

ダンジョンの中で手に入れた戦利品を運ぶ時に、

物凄い苦労して持ち出したという思い出のある冒険者は非常に多い。


フィルにしても、駆け出しの頃に同様の思いをしたことがあり、

このバッグが手に入った時は、それもうパーティの皆で喜んだことを覚えている。


「ああ、いや、それほどではないですけど、運良く手に入れることができたんですよ」

何となくごまかしつつ、バッグを担ぎなおす。

「そう言えばお前さん、さっき、街に行くと言っていたね。よければ少し頼まれて欲しいことがあるんだよ」

「どうかしたんですか?」

「いやさ、お前さんのバッグで、街で食べ物を買い付けてきて欲しいのさ。もちろん代金は払うよ」

なるほど、確かにこのバッグに入れれば大量の食料を手軽に運ぶことが可能だ。

フィルも納得し、ついでで良ければという条件で請け負う。

「それくらいでしたらお安い御用です。でも僕じゃ値段をぼったくられたりしませんかね?」

商人以外が商人と取引をする際には、

物の価格を良く把握していないと、相手のいい値での購入となってしまい、

かなり高い買い物になってしまうことが予想される。

大量に購入するのならば、なおさら無駄遣いは避けたい。


「ああ、その辺は大丈夫。あたしが紹介状を書いておくさ。それを持って指定した店に行けばきちんとした額で売ってくれるはずだよ」

それならばと了解をし、紹介状を作ってもらう間、

フィルとフラウはさっきの約束通り、宿屋の食堂に向かうことにした。



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