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邪神さんと休日6

鍛冶屋の手伝いを終えた一行は昼食のため

一緒に食事をとるというダリウとラスティと一緒に村の食堂へと向かった。

「今日のメニューは何だろうね?」

「んー、いつもその日にある食材で適当だからね~。しいて言うならシェフの気まぐれ煮とか気まぐれ炒めとか?」

街道を行く途中、ラスティの何気ない問いかけに、

店の給仕をしていたリラが答える。

村人達に配るための食事で何より大切なのは、大量の食材をどう調達できるかという事だった。

食材の保存技術も乏しい村ではどうしても直前まで献立が決まりづらい。


「それでいつもちゃんと美味しい物作ってるんだからすごいよね」

「毎日作ってるからねー。ラスティも食堂をやってみたらそうなれるかも知れないよ?」

「僕も出来る事ならやってみたくはあるんだけどね。さすがに村に二件は多いんじゃないかなぁ」

リラの言葉にラスティは笑って首を振る。

確かに人口が百を超えた程度の村に宿屋二件は多いかもしれない。

だが、そんなラスティに後ろを歩くアニタが声をかける。

「でも、昔はもう一軒、冒険者の宿があったよ?」

以前聞いた話では、街へと行く際に見た

村のはずれにある燃えた建物跡には冒険者の宿があったのだという。

教会共々ドラゴンに燃やされてしまったのだが

かつてはここいら一帯での依頼を受けたりとそれなりに評判も良かったらしく、

リラ達の親もその宿を中心に依頼を受けていたらしい。

「そういえばそうだったね。けど、今の畑仕事だって悪くないし、家畜だって欲しいしなぁ」

やりたい事が沢山といった感じのラスティにダリウも頷いて同意する。

「ああ、牛や豚も良いが、羊や山羊なんかもいいよなぁ」

「羊いいよねぇ。肉だけじゃなくて毛もとれるし。山羊もいいよねぇ。育てるの楽だし」

「どっちにしても買ってこないと始まらないんだけどなあ。早く欲しいよなー」

「羊と山羊二頭づつは欲しいよねぇ」

家畜が増えれば肉が手に入るだけでなく乳からはチーズやバターも作れるし、

皮や毛だって得ることが出来る。そうなれば村はかなり潤うだろう。

家畜談義を始める男二人を聞いている限り、やはり村には家畜が殆ど居ないらしい。

フィルは以前見た、山の牧草地について尋ねてみた。

「そう言えばこの村って結構良さそうな牧草地があるのに何も家畜が居ないみたいだけど、やっぱりドラゴンに?」

「ああ、肉になるものは殆ど持ってかれた。一応今も豚を少しだけ育ててるんだが山に放し飼いだから牧草地を使わないんだ。それだって毎月あいつらに収める分でやっとで、俺達が食べる分なんて殆ど無かったんだけどな」

「なるほど……」

恐らく余分に育ててもその分もオーク達に持って行かれたのだろう。

村に来た時に魚料理が多く感じられたのは、

オーク達が魚を好まなかったという理由が多分にあるのかもしれない。


「まぁ、その心配はもう無くなった訳だし、今回の武器を売って金が出来たら、村で牛と羊と山羊を買って増やそうって話になってる。なにせ牧草地はたっぷり余ってるしな」

「でも山羊と羊って別のを飼うのは大変じゃないの? 羊だけでも良くない?」

「今の牧草地は荒れ放題になってるから、えり好みせずに草を食べてくれる山羊が必要なんだ。羊は短い牧草しか食べてくれないからな」

不思議そうに尋ねるリラに得意げに羊や山羊の蘊蓄を語るダリウ。

それぞれの食性から肉や乳の味の違い、性格に育て方のコツ。

なるほど、普段あまり気にしないで食べていたが

こうして色々聞いてみるとなかなかに奥が深く、確かに興味深い事が沢山ある。

それにしても料理の時もそうだが、楽しそうに語るダリウ達を見ていると

二人が本当に楽しんでいるのが良く分かる。

そんな二人の羊山羊談義を聞いているうちに一行は食堂の前に到着した。



昼時の食堂には前回来た時と同様、人は殆ど居なかった。

こうも客が居ないと食堂の経営が成り立つのか不安になるが

どうやらこの村ではこれが普通の事らしく、

代わりに村人達は、ここで作った料理を弁当代わりに

今頃は自分達の畑で昼食を楽しんでいるのだという。


店内に入って見回してみると、

前回来た時にイグン老が座っていた窓際のテーブルに

自宅で仕事をしていたらしいご婦人達が井戸端会議に花を咲かせているばかりで

他のテーブルに人影は全然見られない。

「あ、あそこの大きいテーブルが良さそうですよ」

先頭のサリアが会議にも使われた大テーブルが空いている事を見つけ一行に呼びかけると

その声に目ざとく反応した窓際のご婦人方が声をかけてきた。

「あら~、皆一緒で今日はこっちでお昼? 随分と団体さんねぇ~」

「真ん中の大テーブルを使うといいわよぉ」

「店の人なら奥にいるから決まったら声かけてらっしゃい。今日の日替わりは美味しいわよ~」

リラ達三人とフラウがご婦人方に挨拶を返して世間話を興じている間に

部外者のフィルとサリアはダリウとラスティと共に大テーブルへとつく。

「お二人はあちらに加わらないのですか?」

サリアの問いかけにダリウが苦笑いを浮かべて答える。

「話す話題も思いつかないし、ああやってお喋りするのは苦手なんだ、あいつらに任せるのが一番だよ」

リラ達とは普通に話せているのに?と思いはしたが、

それを突っ込むのは野暮というものだろう。

(こういうことは温かく見守ってあげるのが大人の役目か)

フィルが一人納得していると、暫くしてリラ達も戻って来るが、

リラはそのまま今日のメニューを聞きにそのまま厨房の方へと入っていく。

さすがにこの食堂で女給をしていただけはあると言えるが、

そのあまりにもお仕事中の店員っぽい仕草に思わず全員が笑みを漏らした。


「はいメニュー、今日の日替わりは川魚と芋の煮込みとキノコの炒め物ですって」

戻ってきて、皆にメニューを渡しながら今日のランチメニューを皆に伝える。

「そう言えば、前に此処に来た時はリラが注文を受けてくれたんだったね」

「こうしてお客としてくると、なんかちょっと恥ずかしいんですけどね」

そう言って照れ笑いを浮かべながら自分の席に着くリラ。

ほんの数日前の事だが、なんだか随分と懐かしく感じる。

戻ってきたリラの説明によれば

今日のメニューは村人のお弁当と同じ内容のランチメニューが一種類。

後はシチューやフライ、煮物などが様々なメニューが揃えられていて

今の所、特に品切れとかは無いらしい。


なお、ランチメニューは村人はタダで食べれるが、

まだまだ余所者であるフィルやサリアは有料になり、

そして勿論、ランチメニュー以外の料理は全て有料になる。

無料と言っても決して貧しい食事という類ではなく

肉体労働の多い村人達が十分に満足できるよう、

味もボリュームも街の食堂に負けないレベルだった。


ちなみに今日のメニューは

パンに加えて川魚とジャガイモと山菜の煮込みと、

キノコとザワークラウトの炒めもの。

山菜やキノコが多めなのは農作物の不足分を補うためのかさ増しなのだろうが

そんな事を感じさせない豪華さのある食事だった。

(街の食堂で食べれば銀貨三枚は下らないな)

そんな事を考えながら一般メニューを眺めるフィル。

「フラウは何にするか決めたのかい?」

「ええっと、日替わりも美味しそうですけど……」

隣に座るフラウは文字は読めないが、

この店のメニューは大体知っているという。

それでもなかなか決められないらしく、うんうんと真剣に悩んでいる。

「あ、そうだ、フラウちゃん。この間チーズがたっぷり入荷したおかげで、チーズとベーコンの包み焼っていうのが出来るんだけど、とっても美味しいみたいだよ?」

「わぁ、それじゃあ、それにしてみます!」

リラの言葉に興味津々といった感じでフラウが注文をする横では

サリアがやはりメニューを眺めながら、うんうんと楽しそうに悩んでいる。


「今日はフィルさんが奢ってくれるから、好きなのを頼んで良いんですよねー?」

「ああ、そうだね。好きなのを頼むといいよ」

諦め顔のフィルの了解を得たサリアは

早速リラ達と注文するメニューの品定めに入る。

「はい! それじゃあ、私は日替わりランチと、あと私もチーズとベーコンの包み焼をお願いします! あ、フラウちゃん。日替わりランチは一緒に分けて食べません? そうすれば食べ逃し無しですよ?」

「わぁ~、はいです!」

仲の良い姉妹のように笑いあう二人。

サリアは更に大皿料理を幾つか追加して

会議にも使われる大テーブルは朝食の時以上に賑やかな食事となった。

個人が頼んだランチメニューが揃った後にも

山菜の揚げ物や大ぶりの川魚の丸焼きなどの単品料理がぽんぽんと追加されていく。

サリアがついでだからと、気になる料理を頼みまくった結果だった。

昼食にしては随分と豪勢なものになってしまったが

午前中にはたっぷり労働をした後だし、フィル自身もかなり腹が空いている。

どうやらそれは皆同じようで、この料理達が余る心配は無さそうだった。

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