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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
4月 回り始めた運命の歯車
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4月 回り始めた運命の歯車 パート8

「……というわけだ。これでわかったろ?俺が無実だって」

 葵はヒリヒリする頬を時折さすりながら奈緒に話しかけた。

「う、うん。ゴメンね。でもビックリしちゃった。アオくんの親戚に、こんなかわいい妹のような従妹がいたなんて」

 奈緒は息をはずませながら、恥ずかしそうに答える。

「まったく……わかってんのか?お前が寝ぼけて俺の部屋に侵入しなければ、こんなことにならなかったんだ!!」

 葵は騒動の元凶である姫子に視線を向けた。

「だから、殴ったことは悪かったって思ってるからこうして謝ってるじゃない!ごめんなさいって!!」

 姫子はまるで自分が被害者だと言わんばかりに、ちっとも悪びれた様子もなく、葵を睨みかえす。

 3人は3000メートル障害物競争に挑んでいた。

 色々ドタバタがあったおかげで、奈緒が築き上げた貯金が一気になくなってしまい、全力疾走しなければ遅刻確実な状況に置かれていた。

「これで遅刻したら姫子、お前のせいだからな!!」

「なんであたしのせいになるわけ!?」

「ふ、二人ともケンカはよくないよ」

 葵と姫子の口喧嘩を、奈緒がなだめながら、坂を登り、交差点を曲がり、全力で走っていく。

 やがて校門が見えてきた。

「奈緒!時間は!?」

「え、えっと……8時25分!5分前だよ!」

 奈緒が腕時計の時刻を確認し、息を弾ませながら答える。

 そして3人は校門をくぐりぬけると、立ち止まって呼吸を整えた。

「な、なんとか間に合ったね」

「あ、ああ、まったくだ。誰かさんのせいでな!」

「な、なによ!いい運動になったじゃない!!」

 3人とも息をきらせながら言葉をしゃべる。

 お互いの簡単な自己紹介は既にすませていたので、奈緒も姫子もある程度互いのことはわかっていた。

 葵は奈緒に姫子のことを、まさか『自分の魂を狩りに来た死神』だと本当のことを言うわけにもいかず、『遠縁の親戚の子』だと偽って紹介した。

 姫子も葵の心情を察してか一応納得していたようであったが、葵の『お兄様と呼べ』という要請は即座に却下し、タカビーな態度を取り続けた。

 しかし、流石に奈緒の『ボクのことはお姉ちゃんって呼んで』という言葉には困った表情をみせ、やんわりと拒否をしたのだが。

 もちろん、奈緒が残念そうな表情を見せたのはいうまでもなかった。

 そして姫子には奈緒のことを幼馴染として紹介した。

 姫子は即座に奈緒のことを彼女扱いしたからたまったものではない。

 奈緒は顔を真っ赤にして口ごもってしまい、しばらくまともな対応を取ることができない状況が続いた。そしてタイムアタックへの挑戦である。

 なかなか刺激的な1日の始まりには違いなかったが、葵はできればこういうことはもう2度とご遠慮願いたいと思わずにはいられなかった。

「ふぅ……」

 葵は大きく深呼吸をした。

 予鈴が近いためか、生徒の足も自然と早くなる。

 その中に、自分のことをジッと見ている少女の存在に気がついた。

 1年生を現す水色のリボンを結び、ショートに整えられた髪が印象的だ。

 少女も葵が自分の存在に気がついたことを知ると、彼らのそばへと近寄ってくる。

「……………………」

 そしてジロジロと、葵を観察するかのように眺めた。

 葵はこんな少女のことなど、まったく知らない。

「あ、あの……姫子か奈緒の知り合いか?」

「ボク、知らないよ」

「あんたの知り合いじゃないの?」

 葵の質問に、奈緒と姫子はそれぞれ知らないと答える。

「あの……俺に何か用?」

「ふーん……これが噂の先輩かぁ……」

「えっ?」

 少女は葵の質問に意味深な言葉を発する。

「噂の先輩?君は一体……?」

「あっ。申し遅れました。あたし、萌の友達で1年C組の夕凪鈴歌ゆうなぎすずかって言います」

 鈴歌と名乗った少女は元気よく頭をさげた。

「萌の友達?へぇ。俺は……」

「知ってます。神津葵先輩、ですよね?萌から聞いてますから」

 鈴歌は葵の言葉を静止する。

「それで、俺に何か用?」

「いえ、用ってほどじゃないんですけどね。萌が気になってる男の人がどんな人か、この目で確かめてみたくって」

「は、はぁ……」

「でもガッカリ。まさか二股かけてる人だなんておもわなかった。あーあ、幻滅。萌に目を覚ますように忠告しとかなくっちゃ」

「えっ?」

 ため息をつく鈴歌に、葵は目を丸くした。

「そそそ、そんな!ボクは彼女じゃないよぉ!」

「そうよ!!失礼にもほどがあるわ!!」

 奈緒は頬を真っ赤にしながら、姫子は眉間にシワを寄せながら鈴歌の意見を真っ向から否定する。

「あれ?違うんですか?」

 それを見て鈴歌は目を丸くした。

「ち、違うよ」

「違うに決まってるじゃない!!」

「なーんだ。じゃあ、あたしの早とちりだったんですね」

 鈴歌はコツンと自分の頭をたたいた。

 萌とは対照的でとってもお転婆な娘だなぁ、と葵は思わずにはいられなかった。

「でもよかった。それじゃあ神津先輩。あたし、そろそろ行きますね」

「あ、ああ……」

「今度はもっとゆっくりお話しましょう!」

 鈴歌は笑顔を見せながら昇降口へと走っていく。

「アオくん、そろそろボク達も行かないと」

「そうね。ここまで来て遅刻はちょっと……ね」

「そうだな」

 葵達はそのまま鈴歌の後を追いかけるように、昇降口へと走っていき、授業に臨むのであった。

 まさに騒がしい生活のスタートを暗示するかのような、象徴的な出来事であった。

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