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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
4月 回り始めた運命の歯車
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4月 回り始めた運命の歯車 パート7

「うーん、気持ちいいっ!!」

 奈緒は大きく伸びをして空を見上げた。

 一面に、目にしみるような綺麗な青空が広がっている。

「きっとアオくん、まだ眠ってるんだろうなぁ……ホント、ボクがいないとダメなんだから」

 奈緒は、まだ眠っているはずの葵の寝顔を思い浮かべてクスッと笑った。

 朝葵を起こして、一緒に学校に行くことが、ここ数年の奈緒の日課になっている。

 葵が朝起きていることもあれば、朝食を作ってあげることもあり、起こしてもなかなか起きてくれないこともあれば、酷い時になると姿を隠して奈緒を困らせるなど、その日その日によって対応が違う。

 それでも奈緒は、こりもせず毎日毎日葵を起こしにきた。

 別に葵に頼まれていたわけではない。

 奈緒にとって、葵を起こすことが1日の始まりであった。

 腕時計の時刻を確認すると午前7時10分を指している。

 これなら、葵を起こすときにいくらトラブルが発生したとしても、よほどのことがない限り、余裕で間に合う時刻だ。

「うんうん……ちょっと早過ぎるくらいだけど、やっぱこれくらいの時間がちょうどいいよね」

 奈緒は独り頷きながら葵の家に辿りつくと、玄関のチャイムを押した。

「アオくーん」

「……………………」

 呼びかけてみるが返事がない。

「やっぱりまだ眠ってるのかな……」

 奈緒はウキウキ気分で鞄の中から葵の家の鍵を取り出す。

 数年前、葵に頼みこんで無理に作ってもらったスペアキーだ。

 当時葵は大反対したが、葵の両親が『奈緒ちゃんだったら』と言うことで、葵も渋々それをつくって奈緒に渡したのだ。

 今ではこの鍵は、奈緒の大切な宝物になっている。

 奈緒は鍵穴にさしこんでロックを解除し、玄関の戸を開けた。

「おじゃましまーす」

 そしてそのまま上がりこむと、軽やかな足取りで階段を上がって行く。

 小さいころからよく遊びに来ていたため、この家の構造はまるで自分の家のように熟知している。

 奈緒は葵の部屋の前までやってきた。

「アオくん……起きてる……?」

 ドアをそっと開け中をうかがうと、閉められたカーテンによって薄暗くなった部屋の中で、葵は熟睡しているようであった。

「やっぱりまだ眠ってる……ホント、しょうがないなぁ」

 奈緒は苦笑しながら、部屋の中にはいった。

 まず最初にカーテンを開けると、柔らかく眩しい朝の光が部屋いっぱいに差しこんできて、部屋の中が明るくなった。

 続いて窓を開放すると、さわやかな空気がはいってきて、清々しい気分になるとともに、部屋中が清涼感に満たされていった。

 そして奈緒は、葵に声をかけた。

「アオくーん。朝だよー」

「う、うーん……後5分だけ……」

 奈緒の言葉に反応するかのように、葵は布団をかぶってしまう。

「もう、そんな抵抗したってダメだよ。アオくんは5分じゃなくって1時間じゃないか」

「じゃあせめて……後3秒だけ……」

「いち……に……さん……はい、3秒経ったよ」

「数え方が……ちょっと早い……」

「早くなんかないもん!アオくん、覚悟ー!!」

 奈緒は勢いよく布団をめくった。

 葵のパジャマ姿があらわになる。

「!!」

 そして奈緒は、そのまま言葉を失った。

 葵のパジャマ姿をみることは決して珍しいことではない。

 時には上半身裸になっていたり、一糸纏わぬ姿で寝ていることもあるからだ。

 問題は、その葵の横にあった。

 奈緒の知らない少女が、パジャマ姿でスヤスヤと寝息を立て、葵と向き合うようにして眠っているのだ。

 まるで頭を鈍器で殴られたかのような、強い衝撃を受ける。

「ん……あっ……おはよ……奈緒……」

 目を覚ました葵はふさがり気味の眼をこすると、大きく欠伸をした。

 そして横を向くと、今にも泣き出しそうな奈緒の表情が飛び込んできた。

「どうしたんだ奈緒?そんな顔して?」

 奈緒は黙ったまま葵のすぐ後ろを指差す。

「?」

 葵はわけがわからず、首をその方向に動かした。

 途端に少女の安らかな寝顔が飛びこんでくる。

「!?」

 驚きのあまり、葵は固まってしまった。

「その女の子……誰……?」

 ようやく発せられた奈緒の痛々しい視線と刺々しい言葉が葵の胸に突き刺さる。

「ま、まて、違うんだ!!奈緒、これはだな、俺にも、一体何がなんだか……」

「酷いよアオくん……一目瞭然じゃないか……」

 奈緒の瞳に大粒の涙がたまっていく。

「だから違うんだって!!おい、起きろ姫子!!」

 葵は自らの身の潔白を証明しようと、姫子を起こすべく、彼女を揺さぶった。

「ふぅん……姫子ちゃんっていうんだ……よかったね……かわいい彼女ができて……グスッ……」

 奈緒はしゃくりあげ始める。

「違う!奈緒!!これは冤罪だ!!濡れ衣だ!!俺は無実だ!!」

「どう見たって有罪だよぉ!!」

「だあああ!!姫子!!起きないか!!」

 葵は姫子の身体を激しく揺さぶる。

「う、うーん……」

 ようやく姫子が閉じられた瞼をあけた。

「あっ、起きたか姫子!!これは一体……」

「きゃああああああああああああ!!」

 葵の言葉は姫子の悲鳴によって遮られた。

「なんであんたがあたしの部屋にいるわけ!?この変態!!」

「バ、バカ!!ここは俺の……」

「いやぁぁぁぁぁぁっ!!」

 バチーンと心地よい音を立てて、葵の頬に姫子の平手打ちが炸裂した。

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