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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
11月 それぞれの秋
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11月 それぞれの秋 パート9

 それから1週間後の夕方、葵、姫子、奈緒の3人は近所の神社へとやってきていた。

 葵の手にはサツマイモがはいった紙袋がしっかり握られている。

 竹林に囲まれた石段を上がると、鮮やかに映えた夕焼けが、周りの世界を茜色へと変えている光景が目に飛び込んでくる。

 境内では、巫女姿の沙夜がホウキを片手に、落ち葉を集めていた。

 沙夜は3人を見つけると礼儀よく一礼する。

「沙夜先輩。無理言っちゃってすみませんでした」

「いえ、いいんですよ。私も『焼きいも』というものがどういうものなのか、興味がありましたし」

 葵の言葉に、沙夜はニッコリと微笑んだ。

「とってもおいしいものですよ、宗像先輩」

 奈緒が嬉しそうに答える。

「早く始めなさいよ。日が暮れちゃうわよ?」

 姫子は待ちきれないとばかりに、葵に催促した。

「まったく……食い意地のはったやつだな」

 葵は苦笑しながらマッチを取り出すと、集められた落ち葉へ火をつけた。

 徐々に煙が立ち昇り、全体へと火が燃え広がっていく。

「それじゃあ入れるぞ」

 葵は紙袋からサツマイモを取り出すと、燃える落ち葉の中へ手際よく入れていった。

「これで……いいんですか?」

「ああ。後は待つだけだよ」

 沙夜はもの珍しそうに、その入れられたサツマイモを眺める。

「ただ待ってるだけというのも、なんだか退屈ですね」

「仕方ないよ。焼けるのに時間がかかるから」

「あ~ら?そんなこと言って大丈夫かしら?生焼けとか炭を食べさせられたら、こっちはたまらないわよ」

「大丈夫だって。心配性だなお前は?俺を信じろって」

「信じられないわよ。その『生焼け』や『炭』を大量に生産したことのある人の言葉なんて」

「なぬ!?」

 姫子の言葉に葵は目を丸くした。

「な、なんでお前がそのことを!?」

「クスッ」

 葵が驚愕の声をあげると、奈緒が吹き出す。

 それを見て、葵は瞬時に何故姫子があの時焼きいもを食べたいと言ったのかを理解した。

「奈緒ちゃん……これは一体、どーゆーことかな??」

 葵は奈緒につめよる。奈緒は額に汗を浮かべながら惚けた。

「えっ?ぼ、ボクなんにも知らないよ」

「じゃあ、なんで姫子が知ってるのかなぁ??」

「そ、そんなことボクが知るわけないじゃないか!!」

「どーせこの前の時、余計なおせっかい焼いたんだろ?」

「そ、そんなことしてないもん!!ただ隣のブランコに座っただけで……」

「ほ~?つまり姫子と会ったことは認めるんだな?」

「あっ……」

 奈緒はしまったと言う表情を浮かべる。

 対称的に葵は不敵な笑みを浮かべた。

「な~お~!!」

 そして両手で奈緒のほっぺたをつねると、グイっと引っ張る。

「余計なことをベラベラしゃべったのは、この口かな~?ん~?」

「い、いたいよぉ~!!ヤメテ~!!」

「ダーメ。オシオキだ。しばらくこのまま面白い顔でいろ」

「ふぇ~ん!!」

 奈緒は必死に抗議の声をあげるが、葵はやめようとしない。

「ホーント、野蛮ね。女の子にはもっと優しくするものよ?」

 姫子が呆れた様子で言った。

「俺は十分優しくしてるつもりだ」

 まったく悪びれる様子がなく、葵はいい返す。

「お二人とも、とっても仲がよろしいんですね」

 沙夜は笑いながらその様子を見守っていた。

「ところで葵さん、よろしいんですか?おいもの方は」

「そんなにすぐには焼けませんよ、沙夜先輩」

 葵は奈緒のほっぺたから手を放すと、葵は焚き火をみる。

「痛いじゃないか!!アオくん酷いよ!!」

 横で、奈緒が瞳を潤ませながら抗議の声をあげた。

「そうか?前よりかわいくなったぞ?」

「うぅ~っ!!」

 そんなことなどお構いなしと言わんばかり態度をとる葵に、奈緒はポカポカポカと殴りかかる。

「やっぱり仲がおよろしいんですね」

 それを見て、沙夜が笑った。

「だから、それは沙夜先輩の勘違いだってば」

 葵は気恥ずかしそうに奈緒の頭を撫でてその行動を止めると、焚き火のそばに近寄る。

「そろそろいいかな?」

 葵は燃え盛る落ち葉の中からサツマイモを1つ、取り出した。

 姫子、奈緒、沙夜が葵のそばに近寄る。

 葵は注意深く、サツマイモを2つに割った。

 中からホクホクの湯気が立ち上り、黄金色に輝く実が姿を現す。

「うん、ちゃんと焼けてるな」

 葵は満足そうに頷くと、そのひとつを沙夜に、もう半分を奈緒に渡した。

「はい。沙夜先輩。皮は熱いから、気をつけて」

「ありがとうございます。では早速、いただきますね」

 沙夜は嬉しそうに受け取ると、物珍しそうに観察して、そして皮をむいて口の中へと運んでいく。

「どう??」

「……おいしいです!!」

 沙夜の表情に満面の笑みが広がった。

「ほっかほかで、甘くって、ふんわりしてて!!こんなにおいしいもの、食べたことありません!!」

「気に入ってもらえたようでよかった。たっくさんあるから遠慮しないで食べちゃって」

「はい!!」

 沙夜はおいしそうに焼きいもを頬張る。

「ほんと、アオくんの焼いた焼きいもはおいしいよね」

 奈緒も嬉しそうに焼きいもを食べる。

「……あたし達の分は??」

「そんなに慌てるなって。サツマイモは逃げたりしないよ」

 不満気な表情を見せる姫子を見て、葵は焚き火の中からサツマイモを取り出した。

 そしてふたつに割って、片方を姫子に渡す。

「ほら」

「ありがと」

 姫子はそれを受け取る。

 しかし持ちどころが悪かったため、熱く針の突き刺さるような痛みが少し走った。

「あつっ!!」

「ほら、熱いんだから気をつけろよ」

「う、うん……」

 慌てて耳たぶを触る姫子を見て、葵は苦笑する。

 やがて痛みが収まった姫子は、両手で焼きいもを握った。

「それじゃあ、いっただっきます」

「おう」

 姫子はゆっくりした動作で一口かじり、ゆっくり味わう。

「おいしー!!」

 そして感激の言葉が、口をついて出た。

「そりゃよかった。まずいもん食べさせちゃったら、姫子に申しわけないからな」

 葵もホッと胸をなでおろす。

 そして簡素な焼きいもパーティーは、日が暮れるまで続けられるのであった。

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