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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
11月 それぞれの秋
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11月 それぞれの秋 パート8

 姫子の心にはぽっかり穴が開いていた。

 ただひたすら、虚無感がただよってくる。

 いつしかポツ、ポツ、ポツ、と雨が降り出してきていた。

「雨……」

 姫子は呟くと、恨めしそうに空を見上げた。

 小降りの雨は、徐々に大粒の雨粒を伴って、本降りへと変わっていく。

「なによ……こんな時に降らなくったっていいじゃないの……」

 姫子はそう思ったが、ここから立ちあがる気にも、どこかで雨宿りする気にもなれなかった。

 時折強い光と音を放ちながら、稲妻が地上めがけて落ちてくるのがはっきり見える。

「……早くやんでくれないかな……」

 雨に打たれながら、姫子は葵のことを思い出していた。

「葵……今ごろなにやってるんだろ……夕飯食べてお風呂に入ってテレビ見て……きっとあたしのことなんかちっとも心配してないんだろうなぁ……」

 眼を閉じると葵との楽しい思い出が次々と蘇ってきた。

 小腹がキューっと小さな音を立てる。

「お腹すいたなぁ……寒いよ……」

 雨の音、風の音、それに雷の音がひっきりなしに耳にはいってくる。

 姫子はうつむくと、小さくため息をついた。

「……葵のバカ……」

 突然、雨に打たれる感覚がなくなった。

「悪かったな……バカでよ……」

 そして続けざまに聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「えっ……?」

 姫子は恐る恐る顔をあげると、そこにはうっすらと街灯に照らされ、ぼんやりと浮かび上がる、葵の姿があった。

 葵は、雨があたらないようにと、姫子の頭上に傘をさしている。

「あ、葵……?どうしてここに……?」

「どうして……って、お前を連れ戻しに来たんじゃねーか。まったく……随分探したぞ?」

「な、なによ!!今更謝ったってあんたのところになんか帰らないんだから!!」

「……悪かったよ……」

 姫子の態度に、葵は頭を下げる。

「……えっ?」

 思いがけない態度に、姫子は目を見開いた。

 バツが悪そうに葵は明後日の方向を向く。

「だから、俺が悪かった。このとおり謝る。だから帰ろ、な?」

「葵……クスッ」

 姫子は思わず笑いだした。

「ホント、しょうがないわねぇ。素直じゃないんだから」

「悪かったな。素直じゃなくってよ」

「わかったわよ。そこまでいうなら許してあげる。でも、今度は勝手に人のものに手をつけないでよね?」

 姫子は笑いながらベンチを立ちあがった。

 そして、葵の姿の異変に気がつく。

 葵は傘こそさしているものの、ずぶ濡れのビショビショになっていた。

 姫子は驚かずにはいられなかった。

「ど、どうしたのよ?その格好!?」

「あ、ああ……ちょっとお前探すのに夢中になっちまってな。どうってことないよ」

「夢中……って、あんた、傘さしてたんでしょ?」

「ま、まぁ、いろいろあってな……ちょっと、こんなもん買ってたりしたら……」

 葵は照れ笑いを浮かべながら、もう片方の手に持っていた小さな白い箱を姫子に見せた。防水対策のためか、ビニールに包まれているため、雨にはまったく濡れていない。そして封をしているシールには『アマリリス亭』の文字がしっかり印刷されていた。

「葵……」

「なにそんな顔してるんだよ。ちゃんとお前の分だってあるから心配するなって」

 葵はぶっきらぼうに話す。

 姫子は少し顔を赤らめながら、恥ずかしそうに呟いた。

「……バカなんだから……」

「ん?なんかいったか?」

「なんでもない」

 そして姫子は、葵の傘を持っていた手に重ね合わせるように、そっと自らの手を置く。

「冷たくないか?」

「ううん、そんなことないよ。とっても温かい」

「そっか……じゃあ、帰ろっか?」

「うん……」

 姫子は小さく頷く。

 葵は、雷鳴轟く豪雨の中を、家に向かって歩き始めた。

 流石に人の姿はなく、雨の激しく叩きつける音が大きく聞こえてくる。

「ねぇ、葵……」

「ん?なんだ?」

「……ケーキもいいけど、焼きいも食べたいな……」

「はぁ?焼きいも?」

「ダメかな?」

「ダメじゃないけど……どうしたんだ突然?」

「なんとなく、かな?」

「なんとなく?変なヤツだな……」

 葵は不思議に思ったが、それ以上聞くことはしなかった。

 再び会話が途切れ、雨音のBGMが流れる。

「雨……酷くなってきたね」

 姫子がポツリと呟いた。

「ああ」

 葵も相槌をうつ。

「でも、俺達には関係ないんじゃねえの?見事なまでにずぶ濡れだな」

「そうね」

「どうだ?この際一緒に風呂でもはいって温まるか?風邪は万病の元、っていうしな」

「……バカ……」

 姫子は恥ずかしそうに言うと、そっと葵に身を寄せた。

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