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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
11月 それぞれの秋
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11月 それぞれの秋 パート7

 夜遅く、奈緒が牛乳パックの入ったコンビニの買物袋片手に帰路を急いでいると、児童公園でふと見慣れた人物を発見した。

「姫子ちゃん……?」

 思わず声が出る。

 姫子はブランコにじっと座って下をうつむいたまま、動こうとしない。

 長い髪と、それに結わえている大きなリボンが風に揺られていた。

 少なくとも普段の姫子ではない、ということは奈緒にもはっきりとわかった。

「どうしたんだろ……こんなところで……」

 様子が気になった奈緒は、そのまま児童公園へとはいっていき、姫子に近づいた。

「どうしたの姫子ちゃん?こんな時間に」

「……………………」

 奈緒の質問に、姫子は無言のまま、ただ下をうつむいている。

「隣、いいかな?」

「……………………」

 やはり姫子は無言のまま、なにも答えようとはしない。

 奈緒は姫子の隣のブランコに腰かけた。

「今日はアオくん、一緒じゃないんだ?」

「……いつも……一緒にいるわけじゃありませんから……」

 姫子はいまにも消え入りそうな声でボソボソっと呟く。

「そ、そうだよね。いつも一緒、ってわけじゃないもんね。ボクなに言ってるんだろ。あはは……」

 奈緒は照れ笑いを浮かべたが、すぐに沈黙が訪れた。

 しばらくの間、声をかけにくい気難しい雰囲気が二人の間に流れる。

「……ひとつ、お聞きしてもいいですか?」

 やがて姫子が、その沈黙を自ら破るかのように、重い口を開いた。

「なあに?」

 奈緒は微笑みながら姫子を見守る。

「……紅林先輩は、葵のどこがいいんですか?」

「えっ?」

 奈緒は一瞬ドキッとしながらも、少し間をおいて答えた。

「うーん……優しいとこ、かな?」

「優しい、ですか?」

「うん。姫子ちゃんだって優しくしてもらってるじゃない」

「紅林先輩……それは誤解ですよ……あんな奴、自分勝手なだけでちっとも優しくなんか……」

 姫子は無機質な言葉でボソボソとしゃべる。

 それを聞いた奈緒はクスクスと笑いだした。

「紅林……先輩……?」

 何故奈緒がそんな態度を取るのかわからず、姫子は少し顔をあげる。

「ゴメンゴメン。ちょっと昔のこと思い出しちゃって」

 奈緒は謝ると、言葉を続けた。

「誤解してるのは、姫子ちゃんの方だよ」

「えっ?」

 姫子は驚いたように顔をあげて、奈緒の顔をみた。

「アオくんって、確かに少し強引で意地っ張りなところもあるけど、とっても優しいよ。ボク、姫子ちゃんのようにあんなにアオくんに優しくしてもらったことないから、姫子ちゃんがとっても羨ましいよ」

「……………………」

 姫子は無言のままじっと奈緒の顔をみつめる。

 すると奈緒は、突然ブランコをこぎだして、まるで昔を懐かしむような目をしながら、ポツポツと語り始めた。

「ボクもね、昔一度だけアオくんをキライになったことがあるんだ」

「えっ?」

 意外だと言わんばかりに、姫子は驚きの表情を作った。

「あれは……もう8年くらい前かなぁ?ボクの家に遊びに来たアオくんが、無理矢理ボクのおやつを食べちゃったことがあったの」

「……………………」

 自分の場合と同じだ、と姫子は思った。

「それでね、ボク泣きながらアオくんに向かって『アオくんなんて大っキライ!!』って言ったんだ。アオくんも最初は色々と弁解したんだけど、ボクが泣き止まないから最後は怒ってでていっちゃって」

「それで……どうなったんですか?」

「しばらくは口もきかない状態が続いてたんだけど、ある日突然アオくんがサツマイモを大量にもってきて『この前は……ゴメン』って謝ってくれたんだ。それでね、お詫びにご馳走するって、アオくんの家の庭で焼きいも始めちゃって」

「焼きいも、ですか?」

「うん!」

 奈緒はおかしそうにクスクスと笑い出す。

「アオくんってば、最高の焼きいもご馳走するなんて言っちゃってさ。それで焼き始めたんだけど、最初のやつは焼く時間が短すぎて生焼け。それで次のやつは焼く時間が長すぎて真っ黒焦げ」

「あいつらしいですね……」

 姫子は苦笑した。

「そんな調子で失敗作の山がどんどんできてって、とうとう最後の1本になっちゃったんだよね」

「それで……どうなったんですか?」

「ボクは諦めてたんだけど……奇跡っていうのかな?ちょうどいい具合に焼けてさ。その焼きいもをアオくんが半分に割ってくれて、二人で食べたの。あの時の味はとってもおいしかったなぁ」

「へぇ……そんなことがあったんですか……」

 姫子は感心しながら相槌をうつ。

 しかし、何故か奈緒の笑いは止まらなかった。

 不思議に思った姫子は、奈緒に尋ねた。

「あの……紅林先輩?ひょっとして続きがあるとか……?」

「もっちろん!」

 奈緒は元気よく頷く。

「その後、アオくんのお父さんやお母さんが来てね。『食べ物を粗末にするな』とか『子供達だけで火遊びするな』って怒られちゃって。そうしたらアオくんってば、『奈緒は悪くない!』ってボクのこと庇ってくれて。おかげでアオくんは相当怒られたけど」

「あいつらしいというかなんというか……」

「それからかな?ボクがアオくんのこと、ますます好きになったのは」

 奈緒は恥ずかしそうに笑うと、ブランコから飛び降りた。

「姫子ちゃんも、アオくんと早く仲直りできるといいね」

「え、ええ……」

 姫子はぎこちなく頷く。

「紅林先輩、その……ありがとうございました」

「困った時はお互い様だよ」

 奈緒はニッコリ笑うと、そのまま公園を出ていった。

 再び静寂が訪れ、公園内を包みこむ。

「仲直り……か……」

 姫子はボソっと呟いた。

 先ほどまでなかった後悔の念がより一層こみあげてくる。

 しかし今の姫子には、葵の元へ戻る勇気が沸いてこなかった。

「……はぁ……」

 姫子は大きなため息をつくと、うなだれながらブランコをゆっくり揺らした。

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