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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
11月 それぞれの秋
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11月 それぞれの秋 パート2

「か、楓……」

「あ、綾杉先輩……」

 葵と姫子は、やっとの思いで言葉を搾り出す。

「あっ、アオちゃんに姫ちゃん。ヤッホー!」

 その女子生徒、楓は二人の姿を見つけるや、大きく手を振った。

「ひょっとして……お兄ちゃんの知り合い?」

 萌が小首をかしげながら葵に尋ねる。

「いや、知らない人だ。なぁ?姫子」

「え、ええ……葵の言う通りよ」

 葵も姫子もそう答えて赤の他人を装うとするが、楓は手を振り続ける。

「どうしたの二人とも?優勝すれば学食タダになるんだから、出ればよかったのに~」

「それは優勝できればの話、だろうが!」

「大丈夫だよ。絶対優勝できるから」

 たまらず反論した葵の言葉に、楓はのほほんと優勝宣言を発した。

 一気に観客がざわつき始める。

 周りの痛々しい視線に耐えながら、葵と姫子は頭を抱えた。

「あのバカ……そんな大見えはらなくっても……」

「ホント……こっちまで恥ずかしくなってくるわ」

「あの……やっぱり、神津先輩や虹沢さんのお知り合いの方、なんですか?」

 萌の隣にいる鈴歌が声をかけてくる。

「ま、まぁ……いちおう」

「見とめたくはないけど……ね……」

 葵と姫子は力なく答えた。

「優勝できるといいね」

 葵の隣にいる萌が、ワクワクした様子でこれから始まる戦いの様子を見守る。

 やがて、お皿いっぱいに盛られたハンバーガーが運ばれてきた。

 ルールは制限時間内でより多く食べた人を勝者とし、同数の場合は残りの量の重さで決定する、いたってシンプルなものであった。

 参加している挑戦者達はそれを見て一様に険しい表情に変わるが、ただ一人楓だけは相変らずマイペースな調子で、目の前のハンバーガーに目を輝かせたり、葵達に向かってピースサインを送ったりしている。

「あんな調子で大丈夫なのかぁ……」

「まぁ、多分ダメでしょうね」

 葵と姫子はダメもとで、楓に声援をおくることにした。

 しばらくして、審判と思われる背の高い放送部の男子生徒がやってきた。

 そしてマイクを片手に、高らかと宣言をする。

「それでは、これより清峰学園学生食堂大食い選手権大会を開催いたします!!」

 歓声が沸きあがると同時に手拍子がおこった。

「みなさん準備はいいですか!?」

 男子生徒はなだめすかせるように、笛を口にくわえる。

 静まり返る観客。

 一瞬、沈黙が場を支配する。

「レディ……ピィィィィィィィィッ!!」

 力強く笛が吹かれた。

 大歓声がわきあがった。

 熱き視線が選手達の一挙手一投足に注がれる。

 お祭り騒ぎ状態の興奮が、学食に熱気を充満させて、室温をあげていった。

 今まで食事をとっていた生徒達も手を休め、この熱き闘いを見守ることに集中した。

 選手達はそれぞれの食べ方で、ハンバーガーを消化していく。

 カチャ、カチャっと心地よい音を響かせながら、空になった皿が堆く積み上げられていった。

 しかし、その中でも群を抜いて一際目立つ選手がいた。

 他の人の2倍速、いや3倍速で皿の山を築いていく。

 尋常なペースではない。

 本当に食べているのか、と疑いたくなるような早さで、まさに圧巻と呼べる光景だった。

「ウソだろ……」

「す、凄い……」

 葵と姫子は信じられないといった様子で、言葉を失いただ見つめる。

 葵達の視線の先には、ただ一人女子生徒で参加している楓の姿があった。いや、彼らだけでなく、見てる観客全ての視線が楓一人にに集中している。その凄さは放送部の生徒の実況を忘れさせるほどであった。

 しかも楓は苦しそうにするでもなく、逆においしそうにハンバーガーをほおばるからたまったものではない。両隣のごつい体格をした男子生徒は、もはや戦意を喪失して、自分とは正反対の華奢な体格をした楓を、畏怖の眼差しで眺めていた。

「あっ、えっと……5秒前!……4……3……2……1……ピィィィィィィィィィィッ!!」

 ハッと我に返った審判役の男子生徒が、慌てて時計を見て笛を吹いた。

 一斉に動作が止まる。

 そして、各集計が始まった。

 各選手とも一様に苦しそうな表情を浮かべたり、今にも倒れそうな様子で脂汗を滲ませた苦痛の表情を浮かべているが、楓は対称的に、まるで何事もなかったかのように飄々(ひょうひょう)と涼しい笑顔を浮かべている。むしろ、まだ食べたりないと言った様子さえうかがえる。

「えー、それでは、結果を発表します」

 男子生徒がコホンと1つ、咳払いをした。

 観客からざわめきが起こる。

「清峰学園学生食堂大食い選手権大会、優勝は……」

 一瞬にして学食全体が静まり返る。

「15皿を食べた……2年B組、綾杉楓さん!!」

 観客からどよめきが起こった。そしてすぐさま大きな拍手喝采が沸きあがる。

 2位との差はダブルスコア以上の圧勝であった。

「やったやったー!!」

 優勝賞品のフリーパスを手渡された楓は、喜び勇んで葵達の元へやってきた。

「ねえねえ、アオちゃん姫ちゃん。見てた見てた?」

「ああ……しっかり見てたよ……」

「綾杉先輩って凄いですね……」

 ケチャップを口のまわりにべっとりつけながら喜ぶ楓を見て、葵と姫子はようやく思い浮かんで来た感想を述べる。

「楓……お前、なんともないのか?」

「えっ?なんともないのかって?」

「いや、その……あんなにハンバーガー食べたわけだから……」

「うーん……」

 楓は葵の質問に難しい表情を浮かべてしばらく考えこむと、パッと笑顔を浮かべた。

「うん、とってもおいしかったよ!」

「ああ……そうですか……」

 葵は苦笑しながらハンカチを取り出すと、楓の口のまわりをふいた。

「しょうがないやつだな……こんなにケチャップ、口のまわりにべたべたつけやがって……」

「ん~ん~~!!」

「あ、コラ。動くな。まったく……もう少し上品に食べられないのか?お前は」

 葵は楓の口のまわりについていた付着物を取り除くと、大きくため息をついた。

「えへへ……ありがと、アオちゃん」

 楓は恥ずかしそうに笑う。

「いいなぁ……先輩……」

 隣で萌が羨ましそうにボソッと呟いた。

「なにか言ったか?」

「あ、ううん。なんでもないよ」

 葵が萌をみると、彼女は慌てて視線をそらした。

「葵、喜びを分かち合うのもいいけど、そろそろお昼食べないと」

 思い出した様に姫子が言った。

 熱戦が終了した学食内は、先ほどとはうってかわって、和気藹々とした少し喧騒気味の雰囲気に包まれている。空席も徐々にできはじめていた。

「そだな。昼飯食べにきたんだもんな。萌や鈴歌ちゃんはどうする?」

「お兄ちゃんと一緒がいいな」

「先輩、ご一緒させて頂きます」

 萌と鈴歌は嬉しそうに顔をほころばせる。

「それじゃあ……」

「あたしもいっしょー!!」

 楓が元気な声を発しながら手をあげた。

「お前……まだ食うのか?」

 葵が呆れながら言うと、楓は右手の指を3本立てた。

「うん!食後のデザートに、餡蜜あんみつあと3つはいけそうだから!」

「……………………」

 葵達は恐ろしい言葉を聞いたような気がして、何も言えなかった。

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