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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
11月 それぞれの秋
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11月 それぞれの秋 パート1

 4時間目のチャイムが鳴り終わると、葵は教科書を机の中にしまい、席を立った。

 今日は奈緒との昼食を断わり、姫子と学食へ行くことになっている。

 学食というと大抵の場合、お昼になると混み合うものである。故に急がなければ、極端な話チャイムがなると同時に全速力で食堂に向かわなければ席の確保というのが容易なことではないのだが、朝の打ち合わせで姫子が場所を確保するということになっていた。だから葵もこんなに余裕をもった行動をとっているのである。

「姫子のやつ、ちゃんと席とることできたかな……あいつ、意外に惚けたところがあるからなぁ……」

 まるで他人事のように葵は呟きながら、葵は教室を出た。

「おっそいじゃない!」

 途端に声をかけられる。

「……えっ?」

 葵はその人物を見て目を丸くした。

 それもそのはず、声をかけてきたのは、現在学食で席取りに奔走しているはずの姫子だったのだ。

「お前……何やってるんだこんなところで?」

「えへへ……迎えにきちゃった」

 姫子は恥ずかしそうに笑う。

 葵はそれを見てため息をついた。

「迎えにきちゃったって……場所取りは?」

「……あっ……」

 途端に姫子の表情が一瞬ハッとし、すぐさま愛想笑いを浮かべる。

「あ、あはははは……いいじゃない。そんなに急ぐわけじゃないんだしさ」

「はぁ……行くぞ……」

 葵は大きくため息をつくと、そのまま歩きだした。

 その横を、ピタリと姫子がついてくる。

「お前ってさ、どうしてこう、抜けてるかなぁ?」

「い、いいじゃない!!誰にでも失敗のひとつやふたつ、あるものよ!!」

 葵の言葉に、姫子が怒り出す。

「ひとつやふたつ、ねぇ……」

「もぅ、細かいこと気にしすぎよ!!」

「まぁ、そうだな。今度からは気をつけてくれよ?」

「う、うん……」

 毎度毎度のことなので、葵もこれ以上文句を言う気になれなかった。

 姫子も一応責任を感じているらしく、それ以上反論しようとしない。

 校内はお昼休時とあって、喧騒した雰囲気に包まれていた。

 葵と姫子は階段をおりて、長い廊下を歩いて学食へと向かっていく。

「そういえば、お前はなに食べるつもりなんだ?」

 ふと思い出した様に、葵は姫子に話しかけた。

「えっ?突然何よ?」

 驚いたように、姫子が葵を見る。

「ほら、久しぶりの学食だろ?だから何食べるのかな、って思って」

 葵は、もっともらしい理由を説明した。

「なーんだ。そーゆーこと」

 姫子もなるほどと納得したらしく、頷いて、人差し指を顎にあて、視線を宙に漂わせながら考えこむ。

「うーん……おいしいもの、かな?」

「なんだそりゃ?」

 導き出された答えを聞いて、葵は思わず吹き出しそうになった。

「つまり、おいしければなんでもいいってことか?」

「なんでも……ってわけじゃないけど。太らないものとか」

「太らないものねぇ……」

 葵は呆れながら、ジロジロと姫子の体を見る。

「何よ?そのイヤらしい目つきは」

 姫子はその視線が恥ずかしいらしく、葵を睨んだ。

「イヤぁ……痩せてるなぁ、と思って」

「何よ?それって皮肉のつもり?このスケベ!」

 葵の言葉の真意を察して、姫子は激怒した。

「大体あんたはねぇ、普段から物事を考えなさ過ぎなのよ!!少しはね、もっと考えをもって発言とかしなさいよ!!」

「うーん……そうだよなぁ……たまには学食で姫子と二人、同じ物食べて見るのも悪くないかな、とかしか考えてないからなぁ……」

「えっ?」

 意外な言葉に、姫子は一瞬言葉を失い、目を丸くする。

「葵……」

 そして姫子は、恥ずかしそうに葵の名前を呟いた。

「ん?なんかいったか?」

「う、ううん。なんでもない」

「変な奴だな。ほら、ついたぞ」

 葵はそんな姫子の呟きを聞こえなかったフリをした。

 学食はいつにも増して満員御礼状態であった。

 あちらこちらで席の陣取り合戦やパンの争奪戦が繰り広げられている。

 その一角に、大きな黒い山の人だかりができているのを葵は発見した。

「なんだありゃ?」

「さぁ……なにかやってるんじゃないの?」

 葵と姫子は顔を見合わせた。

 どうやらなにかが行われていることは確からしい。

 声援やら野次やら、様々な歓声がとんでいる。

「一体なにやってるんだ?」

「わからないわよ。見に行ってみる?」

「ああ。でもあの人波をかきわけて見るのは容易じゃなさそう……あれ?」

 葵はその群衆の中に、見慣れた顔を発見した。

「あれは……萌に鈴歌ちゃん?」

「あっ、お兄ちゃん」

「神津先輩!」

 二人も葵の存在に気がついて、トコトコとそばにやってきた。

「二人とも、なに見てたの?」

「なに……って、神津先輩はご存知じゃなかったんですか?」

「え?ご存知って?」

「私はてっきり、神津先輩達もこれを見に来たものだとばかり思ってましたけど……」

 鈴歌はポケットから1枚のチラシを取り出すと、それを葵に渡した。

「これは……?」

「見せて見せて」

 葵がビラを広げると、姫子が横から覗きこむ。

 カラフルな装飾が施されたそれには、大きな丸文字で簡単な文面が書かれていた。

「『大食い選手権開催のお知らせ。この度、学食で大食い大会を開催することになりましたので、胃袋に自慢のある方はふるってご参加ください』……か」

「あら?面白そうじゃない」

 葵がそれを読むと、姫子が興味ありありな様子で言った。

 葵はそんな姫子をジーっとみつめる。

「……まぁ、確かに食い意地がはってるお前なら優勝できるかもしれないが……」

「ちょ、ちょっと!!あたしは小食よ!!失礼しちゃうわね!!」

 当然の如く、姫子は葵の言葉に反論した。

「大体、料理っていうのはゆっくりじっくり味わって食べるものよ?そんなに早く食べて、なにが楽しいのよ?ねえ?萌、鈴歌、あなた達もそう思うでしょ?」

「う、うん……萌も、姫子ちゃんの言うとおりだと思う」

「おいしい料理をすぐに食べちゃうのは、すっごく損ですよね」

 質問を振られた萌と鈴歌もウンウンと頷く。

「つまり、その大食い大会にでてる人達は、料理の味を知らない野蛮な男、ってことね」

 姫子は得意げにピンと人差し指をたてて、もっともらしく言った。

 しかし、その言葉に萌と鈴歌が顔を見合わせる。

「どうしたの二人とも?そんな顔しちゃって」

「あのね、お兄ちゃん……その……」

「一人だけ、女性の方もエントリーなさってるんです……」

「……はい?」

「……えっ?」

 今度は葵と姫子が顔を見合わせた。

「女子生徒が一人、でてるの?」

「誰よ?その物好きな人は?」

「萌達もよく知らないんだけど……リボンの色がオレンジだったから、お兄ちゃんと同じ二年生の人みたいだよ?」

「だから萌と二人で『どこまで頑張れるんだろうね』って、さっき話してたんです」

 萌の答えに鈴歌が捕捉する。

「本当に物好きなやつがいるんだなぁ……」

 葵は感心しながらビラをもう1度みた。

 最後の方に小さく『優勝者は1ヶ月間食堂のメニューを好きなだけ注文できるフリーパスを進呈』と書かれている。

「優勝商品もたいしたもんだな。こりゃみんな、必死で闘う、ってわけか」

「でしょうね。卑しいことこの上ないけど」

「……おまえだって『アマリリス亭』のケーキ食い放題券とかつけられたら、喜んでやりそうな気がするけど……」

「うっ……」

 葵の呟きが、姫子の胸に突き刺さる。

 しかしすぐさま何事もなかったかのように、笑顔を浮かべた。

「ま、まぁ、その、女子生徒がどんな人かを見に……じゃなかった、応援しにいきましょ」

「さんせー!お兄ちゃん、行こうよ!!」

「さっ、先輩!!」

 萌と鈴歌にうながされ、葵も再び群集の中へと飛びこんでいく。

「まったく、一体どんな物好きだよ。こんな大会に出るなんて」

「案外、知ってる人だったりして」

「まさか。そんなことあるわけないだろ」

「それもそうよね」

 葵も姫子も、笑いながらその物好きな人物を一目見ようと、群集をかきわけていった。その後を萌と鈴歌がはぐれないようについてくる。

 やがて1番前に辿りついた。

 屈強な男子生徒にまじって、華奢な体格をした女子生徒が一人、座っている。

「えっ……?」

「あっ……」

 葵と姫子は、その人物を見て口をあんぐりと開けた。

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