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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
9月 嵐来たりて、秋遠からじ
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9月 嵐来たりて、秋遠からじ パート7

 夕食を終えて夜。

 部屋に戻った葵は、一人窓の外を眺めていた。

 時刻は当に日付が変わろうとしているのに、外の様子は激しさを増している。

 雨に加えて、先ほどまで見られなかった稲光も発現するようになっていた。

 ゴロゴロゴロと鳴ったかと思えば、ズゴゴォォォンと、激しい落雷の音がだんだんと近づいてくる。

「最近の天気予報は全然当てにならないな……」

 葵はベッドで横になると、天井の電気を操作するリモコンを握った。

 そしてスイッチを押して部屋を暗くする。

 部屋の中を真っ暗にすると、葵はそのまま目を閉じた。

 時折、雷が発する目映いばかりの閃光が部屋の中に飛び込んできて、激しい雷鳴が耳をつんざく。

 そして、どれくらい時が経ったのだろう。

 不意に体を揺り動かされる感覚に襲われた葵は、枕元のリモコンを手に取り、部屋の電気を付けた。

「!?」

 そして絶句する。

 目の前には、萌がいた。

 萌はピンク色の枕とウサギのぬいぐるみを持ち、眼鏡の奥の瞳に涙を溜ながら、不安そうな表情を浮かべて葵を揺り動かしている。

「ど、どうしたんだ萌?」

「一緒に寝てもいい?」

 その信じられない言葉に、葵は我が耳を疑った。

 寝起きというわけではないが、それでも葵の思考を停止させるのは十分ほどの衝撃があった。

「雷、怖いよぉ……萌、一人じゃ寝られないから、昔みたいにお兄ちゃんと一緒に寝てもいい?」

「そ、そう言われてもなぁ……」

 葵は返答に困ってしまう。

 一緒に寝ていたと言っても、幼い頃のことである。成長した今一緒に寝るとあっては、いろいろとマズいことがある。

 かといって断ると、萌はこのままおびえながら朝まで過ごすことになるのは想像に難くない状態であった。

 如何に返答するか。葵が返答に窮していると、突然ドタドタドタと、騒がしい足音が葵の部屋に近づいてきた。

 そして、部屋の戸が勢いよく開かれる。

「やっぱりここにいた!」

 そして、血相を変えたパジャマ姿の姫子が部屋の中に飛び込んできた。

「ちょっと萌!なにやってんのよ!急にいなくなったと思ったら!葵、あんたも少しは節操って物をね!」

「ま、待って姫子ちゃん!違うの!萌がいけないの!!」

 萌は首をぶんぶんと横に振る。

「萌、雷が怖いから、お兄ちゃんと一緒に寝ようと思って。お兄ちゃんの側なら、萌、安心出来るから」

「そう……」

 姫子はふぅっとため息をつく。

「そういうことなら、分かったわ。あたしも一緒に葵と寝る!」

「はぁ!?なんでそうなる!?」

 葵は突然の展開に戸惑いの声を上げる。

「わからないの!?あんたが萌に変なことしないよう、監視に決まってるじゃないの!」

 姫子はビシッと葵を指さした。

 同時に雷鳴が轟く。

「キャ!!」

 萌はおびえた声で悲鳴を上げると、そのまま布団に顔を突っ伏した。

 そして小動物のように体を小刻みに震わせる。

「わかったわかった。大丈夫だから。一緒に寝てやるから」

 葵は起き上がると、萌の頭を優しく撫でる。

「しょうがないわね。今回だけは特別よ?」

 姫子も諦めたように、ハァッとため息をはき出す。

「お兄ちゃん、ありがとう」

 萌は顔を上げると、おぼつかない足取りで立ち上がった。そして眼鏡を外し、ベッドのサイドテーブルの上に置くと、ベッドの奥側に移動する。

「はぁ、なんであんたとこんなことしなくちゃいけないんだか……」

 姫子は文句を言いながら、葵を挟んで萌と反対側に陣取る。

「それじゃあ、電気消すからな」

 葵はそう言って、リモコンを手に取り、天井の電気を消した。

 そしてリモコンをサイドテーブルの上に置く。

 雷鳴は相変わらず轟き続けている。

「萌、大丈夫か?」

 葵は隣で寝ている萌に声をかけた。

「うん、大丈夫。お兄ちゃんがいてくれるから平気」

 萌はか細い声で答える。

「久しぶりだね。お兄ちゃんとこうやって一緒に寝るの」

「そうだな。昔はよく一緒に寝てたもんな」

 葵は天井を見つめながら、昔の記憶をたぐり寄せる。

「あの頃も、こうやっていつも甘えてたよな……萌?」

 葵は萌の名前を呼ぶ。

 しかし返ってきたのは言葉ではなく、スヤスヤと気持ちよさそうに眠っている寝息であった。

「あんたの側、よっぽど安心出来るのね」

 姫子が小声で囁く。

「そうなのかな……」

 葵は苦笑した。

 安心出来るのはいいが、両隣に少女が二人寝ているのである。

 彼女たちからほのかに漂ってくる石けんの香りが、葵を誘惑に駆り立てる。

 それを葵は理性で必死に押さえ込んでいた。

(一番悲惨なのって俺じゃねえか……)

 葵はそんなことを考えながら、いつしか夢の中へと堕ちていった。

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