表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
9月 嵐来たりて、秋遠からじ
59/70

9月 嵐来たりて、秋遠からじ パート6

 葵が入浴で体を温め終えると、浴室乾燥機で制服を乾かすセットをし、洗濯物を洗濯機にセットした。

 そしてリビングへ行くと、テーブルの上に夕食がセットされていた。

「遅いじゃない葵。もう夕食にするわよ」

 姫子がテーブルを指さす。

「そうそう。萌、今日泊まっていくことになったから。明日休みだし、いいわよね?」

「ああ。別に構わないけど?」

 葵はコクンと頷く。

「だってさ、萌。だから言ったじゃない心配する必要なんかないって」

「う、うん。ありがとう、お兄ちゃん……」

 萌は小声でお礼を言う。

「それじゃああたし、ちょっと萌の制服乾かしてくるから」

 姫子は立ち上がると、部屋を出ていった。

「本当騒がしい奴だな」

 葵は苦笑して、ソファに座る。

「萌、悪かったな。俺がもっとしっかり判断していれば、そんな目に遭わせずにすんだのに」

「う、ううん。そんなことないよ。萌、嬉しかったよ。お兄ちゃんといっぱいお話し出来て」

「そうか。それならいいんだけど。姫子の奴、ああ見えて騒がしいけどいい奴だから、これからも仲良くしてやってくれよな」

「う、うん……」

 萌は頷くと、上目遣いで葵を見る。

「いつも、姫子ちゃんが料理してるの?」

「あ、ああそうだけど」

「そうなんだ……いいな。姫子ちゃんは。お兄ちゃんに毎日お料理食べてもらえて」

 萌は羨むような視線で料理を見る。

「そうかぁ?まぁ、最近はマシになってきたけど、最初の頃なんてとても食べられたもんじゃなかったぞ」

 葵は声を上げて笑った。

「あら言うじゃない?」

 姫子が不敵な笑顔を浮かべながら、リビングに顔を覗かせる。

「『君の料理がないと、俺は生きていけないんだー!』って言ってた奴の台詞とは思えないわね」

「ちょ、ちょっと待て!俺はそんなこと一言も言ってないぞ!」

 葵は慌てて否定する。萌の嫉妬が入り交じった羨む視線が葵に突き刺さる。

「おい姫子!いい加減なこと言うなよ!」

「あーら?どうだったかしら?」

 姫子はフッと笑うと、リビングへと入ってくる。

「それよりも、夕飯にしましょ。萌、手伝って」

「う、うん」

 萌も立ち上がると、姫子の後についていった。

「ったく、俺はそんなこと言わねーっつーの」

 葵はそう言いながら、料理を見る。

 ウィンナーの炒め物、肉じゃが、ニラの卵とじ、野菜サラダ、ほうれん草のおひたし、茄子の漬物。

 極当たり前の日常になっていたので、あまり気にしてはいなかったが、少し姫子に負担をかけているかもしれない。

 もっとも、自分の魂の代価でこれくらいは当然という思いも、葵の中にはあった。

「ごはん、持ってきたよ」

 そこへ、萌がごはんをよそった茶碗を盆にのせて持ってきた。

「これがお兄ちゃんの?」

 萌は盆をテーブルに置くと、その中で一番大きな茶碗を持つ

「おう。ありがと」

「はい」

 萌は持っていた茶碗を、葵の前に置く。

 そして残りの2つを、反対側に置くと、盆を戻しにキッチンへと戻っていった。

「本当、いい子よね。真面目で優しくて、気が利くし」

 入れ替わりにリビングに来た姫子が、ため息をつきながら葵の反対側のソファーに座った。

「あんた、あんないい子を泣かせるような真似しちゃダメよ?」

「俺がそんなマネするわけないだろうが」

「どうだか」

 姫子は否定するように苦笑する。

 それが、急な豪雨で萌をずぶ濡れにした行為を指しているのは、葵にも痛いほどよくわかった。

「お待たせー」

 そこへ、萌が戻ってきて、姫子の隣に座った。

「それじゃあ食べましょうか」

『いただきます』

 三人は手を合わせて軽くお辞儀をする。

「これ、全部姫子ちゃんが作ってるんだね。凄いなぁ」

 萌は肉じゃがを器に入っていた取り箸でとると、取り皿に移す。そしてその取り皿から口の中へと運んだ。

「どうかしら?」

「すっごくおいしい!」

 萌は顔を綻ばせる。姫子はホッと息を吐き出し、胸をなで下ろした。

「よかった。毎日毎日、このバカに作らされてる甲斐があったかしら?」

「酷い言いぐさだな。それじゃあまるで、俺が強制してる見たいじゃないか」

「あ?違ったかしら」

「うん、違うな。奈緖が作ってくれることもあるし、奈緖のおばさんが作ってくれることもあるし、沙夜先輩が作ってくれることもあるしな」

「つまり、あんたは自分で作ってないわけじゃないの。サイテーね。このヒモ男」

「ヒモじゃねー!」

 その様子を見て、寂しそうに笑う。

「お兄ちゃんと姫子ちゃん、とっても仲がいいんだね」

『誰が!』

 その反応に対し、二人は同時にツッコミをいれた。

「萌、あんたもこの男に料理作ってみるといいわ。そんな言葉、二度と口に出来なくなるから」

「おいおい。萌はお前なんかよりもすっごく料理上手に決まってるだろ?そんなこと萌にさせたら、お前が二度と立ち直れなくなるじゃないか」

「あら?葵が立ち直れなくなるの間違いでしょ?あたしの料理がおいしすぎるってのを再認識して」

「萌、あんな事言われてるぞ?」

「えっと……考えておくね……」

 萌は恥ずかしそうに視線を落とす。

 その様子を見て、葵と姫子は苦笑した。

「それにしても、よく降る雨だな」

 葵はカーテンに仕切られた窓を見る。

 外で降り続ける雨は、一向に衰える気配がなく、ザァァァァットと強い雨音を発し続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ