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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
9月 嵐来たりて、秋遠からじ
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9月 嵐来たりて、秋遠からじ パート1

 長いようで短かった夏休みも終わり、二学期が始まった。

 清峰学園の中でもあちらこちらで夏休みの自慢話をする姿の生徒が見受けられる。

 こんがり小麦色に焼いた肌を見せびらかす者。

 海外に旅行し、その体験を得意満面に語る者。

 あるいは、何もせずにだらだらと過ごした者。

 皆それぞれの夏休みを満喫し、楽しんだ様子であった。

 それは授業中にも現れ、ボーっとしている生徒を、教師が注意する姿が幾度となく繰り広げられる。

 そして教師は決まって『いつまで夏休み気分でいるんだ!』と喝を入れるのであった。

 もっとも夏休み呆けだけが、授業態度をだらけさせているわけではなかったのだが。

 例年この時期になると少しは涼しくなるのだが、今年に限って言えば残暑が酷く、その影響が初秋に差し掛かるはずの時期になっても色濃く残っていた。

 空には雲ひとつない晴天。

 燦々に照り付ける太陽。

 鉄板のように熱せられたアスファルト。

 揺らめきたつ陽炎。

 やかましいくらいの蝉の大合唱。

 秋の足音を感じさせる物は、何一つ存在しなかった。

 冷房のきいた教室で、蝉の合唱が子守唄のように流れてくるからたまったものではない。

 意志の弱いものはすぐさま夢の世界へと誘われていく。

 そして教師の怒声で現実の世界へと連れ戻される。

 しかし再び睡魔が襲ってきて……といった具合であった。

 葵はと言うと、睡魔と格闘しつつ、退屈に思いながらもしっかりと授業を受けていた。

 自分に残された命は後半年。

 それを考えれば真面目に授業を受けるのは馬鹿らしく思えるのだが、何故かきちんと受けておかなければいけないと、葵の本能がそう告げていた。

 自暴自棄になるのであれば姫子と出会った、死の宣告を受けたあの時になれたはず。

 しかし自分はここまで来れた。

 その事実が支えになってるのかもしれないが、葵はそこまで深く考えることはしなかった。

 キーンコーンカーンコーンと、3時限目の終了を告げるチャイムが鳴る。

「それじゃあ、今日はここまで」

 英語教師の瀬山が、教科書を閉じて教室を出て行く。

 あっという間に教室内は喧騒に包まれた。

 今日は土曜日と言うこともあり、もう授業はない。

 葵は家に帰るべく、教科書やらノートやらを鞄に詰めていた。

「アオくん」

 そこへ、奈緒がやってきた。

 しかし奈緒は、いつもと違って何故か申し訳なさそうな表情を浮かべている。

「どうしたんだ奈緒?」

 葵は不思議そうに訪ねると、奈緒は両手を前で合わせて葵に謝った。

「ゴメンねアオくん。ボク、友達と約束があるから一緒に帰れないんだ」

「ふーん……それで?」

「…………」

 葵のそっけない返事に、奈緒はブスッと頬を膨らませる。

「な、なんだよ?俺、なんか変なこと言ったか?」

 わかってることとはいえ、葵は奈緒に尋ねた。

「アオくんの意地悪!!」

 奈緒の口から、予想通りの答えが返ってくる。

「おいおい……別にお前と帰る約束なんて、いつもしてねーだろーが?」

「いいもん!!」

 奈緒は膨れっ面で葵を睨めつけると、そのままきびすを返して自分の席へと戻って行ってしまった。

「まったくもう……毎度毎度の夫婦喧嘩、いい加減飽きないの?」

 入れ違いにやってきた若葉が、呆れたように言った。

「だから、俺と奈緒はそんな関係じゃないって。何回も言わせないでくれ」

 葵はうんざりしたように言葉を返した。

 すると、その言葉を待ってましたといわんばかりに若葉が不敵な笑みを浮かべる。

「な、なんだよ委員長……」

 葵の背筋に一瞬、悪寒が走る。

「それじゃあ言われたくなかったら、しっかりと掃除当番やってね」

 若葉はにっこり笑うと、隠し持っていたホウキを葵に手渡した。

「……へいへい……」

 葵は大きく溜息をつくと、そのホウキを受け取り、仕方なく教室の掃除をすることになった。

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