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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
8月 海と少女
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8月 海と少女 パート7

 部屋に戻り、それから食堂で姫子や奈緒の家族達と食事を終えた葵は、少し食休みした後浴場へと向かい、のんびりと湯船に浸かって身体の疲れを癒した。

 湯船に浸かりながら、葵は部屋に戻った時の事を思い出していた。

 部屋に戻るなり、待っていたのは姫子のきつい視線だった。

「お帰り」

 姫子が椅子に座りながら、怖い顔をして葵を睨みつけていた。

「あの女と一体何話してたのかしら?んー?」

 そしてこめかみをピクつかせながら、葵に尋ねてきた。

「沙夜先輩と?なんだっていいじゃん」

「よくないから聞いてるの!!さぁ、白状なさい!!」

「白状……って、ははーん」

 やけにつっかかってくる姫子を見て、葵はニヤリと笑った。

「な、何よ……」

 姫子は一瞬たじろいだ。

 葵はわざとらしく大きく溜息をついた。

「全くしょうがない奴だなぁ。妬いてるなら妬いてるって、そう言えばいいのに」

「なっ!!」

 途端に姫子は顔を真っ赤にし、語気を荒げた。

「じょ、冗談じゃないわよ!!なんであたしがあんたとあの女の仲を妬かなくちゃいけないわけ!?バッカじゃないの!?」

「おいおい照れ隠しすることないだろ?ちゃんと顔にそう書いてあるぞ」

「か、書いてあるわけないでしょ!!あたしはね……!」

「あー、はいはい。わかったから落ち着け」

「全然わかってないわよ!!いい!?大体あんたはねぇ……」

 姫子は葵に近づき、クドクドと説教を始めた。

 葵は適当に聞き流しながら、沙夜とのやり取りを思い出し、ある疑念が思い浮かびあがってきた。

 何故沙夜先輩は自分の生い立ちを俺に話したのか?

 何故沙夜先輩はそんな話を俺に聞かせたのか?

 考えれば考えるほど、謎が深まっていった。

「ちょっと!!聞いてるの!?」

 その思考を、姫子の怒声が中断させた。

「ああ。聞いてるよ。悪かった悪かった」

 葵は空返事を返しながら姫子の頭を優しく撫でた。

「!!」

 姫子の顔が真っ赤になる。

 タイミングよく、ドアがコンコンと叩かれる音がした。

「おっ、誰か来たぞ。どうぞー」

 葵は姫子から手を離すと、ノックに返事をして入口を見る。

「もぅ……調子いいんだから……」

 姫子は頬をほんのり紅くしながら、文句を呟いた。

 しかしその表情には、先程の殺気立った迫力は、微塵も感じられなかった。

「失礼しまーす」

 声と共に戸が開かれ、奈緒が入ってきた。

「さ、アオくん、姫子ちゃん。夕食たべに行こっ」

 そして三人は、そのまま食堂へと向かったのだった。

「いやぁ、料理はなかなか美味かったなぁ……」

 沙夜のことはいくら考えてもわからなかったが、夕食の海鮮尽くしを思い出すことで、とりあえず葵は納得しておくことにした。

 そして風呂から上がると、着替えてから喉の渇きを癒すために、財布を握り締め、民宿の入口にある自販機へと向かった。

 どんな種類のジュースがあるかまでは覚えていなかったのだが、何か甘い物を身体が欲していた。

「おや?」

 廊下を曲がると、ふと葵は足を止めた。

 自販機の前に、姫子と沙夜が何やら小声で話しこんでいる。

 しかしすぐに、沙夜は何処かへと行ってしまった。

 残された姫子が一人、深刻そうな表情で何かを考え込んでいる。

「どうしたんだ?」

 様子が気になった葵は、姫子に近づいて声をかけた。

「わっ!?あ、葵!?」

 姫子は葵の姿に、何故か慌てふためく。

 その様子を見て、葵はますます二人が何を話していたのか気になった。

「どうしたんだ一体?沙夜先輩に何か言われたのか?」

「な、なんでもないわよ!!」

 姫子は語気を荒げ、視線をそらす。

「その様子は、何でもないって感じじゃないぞ?」

「う、うるさいわねっ!!何であんたに話さなくちゃイケナイのよ!?」

 姫子は葵を睨むと、自販機を指差した。

「それよりも葵、あたし喉乾いたからなんか買いなさいよ!!」

「話がそれてるんだが……」

「い・い・か・ら!!男はいちいち細かいことは気にしないの!!」

 姫子は目を釣り上げる。

「わかったよ……」

 葵はこれ以上質問しても無駄だと悟ると、諦めて自販機に硬貨を投入した。

 ボタンのランプが一斉に点灯する。

「それじゃあ、遠慮なくおごらせてもらうわね」

 姫子はにっこりと笑うと、オレンジジュースのボタンを押した。

 ガランゴロンと音を立ててジュースが落ちてくる。

「……あ゛っっっ!!」

 取り出し口からジュース缶を取り出した姫子は、表情をしかめた。

 姫子の手には、オレンジジュースではなく、2つ隣にあったわさびジュースが握られていた。

「何よコレ!!」

「ははははは。ゲテモノ好きなピリ辛少女のお前にはピッタリの飲み物だな」

 葵はここぞとばかりに姫子をからかう。

「なによ!!この自販機壊れてるんじゃないの!?葵、もう一個買いなさい!!」

「バカ言え。責任もってしっかり飲むんだな。俺はコーラと」

 葵は硬貨を投入し、コーラのボタンを押す。

「いいか?日ごろの行いが悪いからそーゆーことになるんだ。少しは俺みたいにだな……げっ!!」

 取り出し口から買ったジュース缶を取り出し、葵も絶句する。

 葵の手には『炭酸餡子ジュース』なる、得体の知れないジュース缶が握られていた。

 自販機のどこを見ても、そんなジュースはない。

「なんじゃこりゃ!?」

「あーら。日ごろの行いがいい葵さんには、ピッタリのジュースよねー」

 姫子は憎たらしい笑顔を浮かべながら、嫌味な言葉を葵に突き刺す。

「さ、自分で言ったんだから、さっさとその得体の知れないジュースを飲みなさいよ。このアンポンタン男!!」

「な、なんだと!?お前こそさっさと飲めよ!!このあばずれ女!!」

「な、なんですってぇぇぇっ!?」

「なんだよ!?」

 二人は臨戦態勢に入る。

 そして火花を散らし、言い争いをしたまま、部屋に戻っていった。

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