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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
8月 海と少女
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8月 海と少女 パート5

 程よい広さの場所を見つけた三人は、そこにビニールシートを敷いて、ビーチパラソルと荷物を置いた。

「よかったね。空いてる場所があって」

「そうですね。でもホーント、暇人が多いですよね」

「俺達だって、その暇人の一人だろうが?」

 姫子の言葉に、葵は呆れながら二人を見る。

「わ、わかってるわよ!!そんな目で見なくったっていいじゃない。このスケベ!!」

「そうだよ!!アオくんのエッチ!!」

 葵の態度に、姫子と奈緒は揃って抗議の声を上げた。

「あのなぁ……」

 葵は思わず苦笑する。

 しかし、心の片隅では奈緒や姫子の水着姿に期待している自分がいることも事実であった。

「もぅ……アオくん、笑わないでよ……?」

 奈緒が恥ずかしそうにパーカーを脱ぐ。

 パーカーに隠れていた青いセパレートの水着が姿を現した。

「おっ。なかなかかわいいじゃないか」

「ホント?えへへ……なんだか恥ずかしいな……」

 葵が率直な感想を述べると、奈緒は頬をポッと赤らめてそわそわと落ち着かない仕草を見せる。

 てっきりワンピースだと決め付けていた葵は、いい意味で期待を裏切られ、少しだけ幸せな気分になる。

 その奈緒の横で、何故か姫子が不敵な笑みを浮かべていた。

 どうせ碌でもないことを考えているのだろうと、葵にはすぐに見当がついた。

「フフフ……それじゃあ……」

「奈緒、それじゃあ泳ぎにいこっか」

 姫子の言葉を打ち消すかのように、葵が奈緒に話しかける。

「え?えっ?」

「ちょっと!!無視しないでよね!!」

 途端に姫子は非難の声を上げ、目を釣り上げながら葵を睨む。

「なんだ姫子?お前そんな格好で泳ぐ気なのか?」

 しかし葵はそんな姫子の怒りに油を注ぐかのように、おどけた様子で姫子を見る。

「そんなわけないでしょ!!」

 姫子は激怒しながら、葵を力強く指差した。

「葵!!さっき通告したとおり、あたしの悩殺水着であんたを下僕にしてあげるわ!!」

「ほぉ?そりゃ楽しみだ」

「くっ!!絶対許さないんだから!!」

 葵の小馬鹿にしたような態度に、姫子はますます激昂する。

「見なさい、葵!!」

 そして勢いよくパーカーを脱ぎ捨てると、両手を頭の後ろで組み、艶かしいポーズをとった。

 オレンジ色のビキニに隠れた小ぶりの胸。

 少し日焼けしている瑞々しい肌。

 まるでモデル気取りなのか、はたまた見られていることが快感なのか、姫子は小悪魔のような笑みを浮かべながら葵を見る。

「どう?あたしの虜になったでしょ?」

「うーん……確かに。相変わらずぶっとい太腿の大根足だな」

「なっ!!」

 途端に姫子の表情に怒りが戻った。

「あーおーいー?もう一回言ってごらんなさい!!」

 姫子は拳を震わせながら葵を睨む。

 葵はしまったと思いながら、慌てて弁明をした。

「あ、いや、すまん。つい口が滑って本当のことを……」

「なぁんですってぇ!?」

「あ、いや、その……う、うん。なかなかかわいいと思うぞ」

「なによ!?そのとってつけたような言い方は!?」

「いやぁ、俺は本当にそう思ってるんだが……」

「葵っっっ!!」

 姫子はものすごい迫力で葵にせまっていく。

「奈緒~。助けてくれ~」

 たまらず葵は奈緒に助けを求めた。

「ボク知らないよ。アオくんがいけないんじゃないか」

 しかし奈緒は、つれない返事をする。

「奈緒~!!」

 葵は恨めしそうに奈緒を見るが、奈緒は呆れた様子で葵を見るだけであった。

「ぜーったい許さないんだからねっ!!」

 姫子の怒声が耳の中に突き刺さるように入ってくる。

 ま、マズイ!!なんとかしないと!!

 葵は何かこの危機的状況を打破できる手段を必死で模索しようとした。

「あ、あの……」

 するとタイミングよく、横から声が聞こえてくる。

「な、何……あっ!?」

「何よ……えっ!?」

「わぁ……」

 その声のする方角を振り向いた三人は、一様に声を詰まらせた。

 そこには、麦藁帽子をかぶり、クーラーボックスを持った、白いビキニ姿の沙夜がいた。

 たわわに実った乳房の間にはくっきりと谷間ができ、否が応でも視線がそこへといってしまう。

 タンクトップでさえ今までの固定概念を打ち破るようなイメージであったのに、今の水着姿は葵が沙夜という人物像について改めて考え直させられるのに十分すぎるほどのインパクトを持っていた。

「お取り込み中申し訳ございませんが……このクーラーボックス、ここに置いておいてもよろしいでしょうか?」

「あ、ああ……」

 葵は涎をたらしそうなしまりのない表情を浮かべながらコクンと頷く。

「それでは……」

 沙夜はシートの上にクーラーボックスを置くと、麦藁帽子を脱いでその横に置いた。

「沢山ジュース入れてきましたから、どうぞお好きなだけお飲みになってくださいね」

 そしてにっこりと微笑む。

「う、うん……」

 葵は上の空といった様子で再度コクンと頷く。

「あ、あの……」

 流石に気になったのか、沙夜が頬を赤らめながら葵を見た。

「葵さん……私……変、でしょうか……?」

「あ、いや、そんなことないよ。とっても綺麗だなぁ、って思って」

 葵は首をぶんぶんと振る。

「そ、そうですか……よかった……」

 沙夜は恥ずかしそうにうつむいた。

 その仕草が、とてもかわいらしく葵には感じる。

 まるで葵に死の宣告をした人間と同一人物とはとても思えなかった。

 葵はコホンと軽く咳払いをすると、姫子を見た。

「いいか、姫子。ビキニって言うのはだな、沙夜先輩のような女性に似合う水着なんだ。わかったか?」

「くっ……」

 姫子は反論できずに、悔しそうに沙夜を見て、自分の胸の大きさとを見比べる。

「宗像先輩おっきいなぁ……」

 奈緒も羨ましそうに沙夜と自分の胸元を見比べた。

 やはり自分の体型に劣等感を抱いているのか、姫子も奈緒も気まずそうな表情を作る。

「そ、それじゃあ、場所も確保したことだし、泳ぐか?」

 気まずい雰囲気を察した葵が、三人の顔を見回して言った。

「そうね」

「賛成」

「はい」

 三人はそれぞれ頷く。

「それじゃあ……」

「あっ、葵。ビーチボール買ってきてよ」

 海へ入ろうとする葵を、いきなり姫子が制止した。

「ビーチボールだ?」

 葵は顔をしかめる。

 しかし姫子は腰に手を当てて葵を睨んだ。

「海で遊ぶには定番のアイテムじゃないの!それとも、スイカの代わりにアンタを埋めてスイカ割りでもする?」

「な、なんでそうなるんだ!?」

「だ・か・ら!早く買ってきてちょうだい!!」

「……へいへい」

 葵は姫子に言われるまま、お金を持ってしぶしぶ海の家へと向かった。

 海の家では相変わらず雪乃がせわしなく動き回っていたが、葵の顔を見るなり近寄ってきた。

「何か用かな?彼氏クン」

「か、彼氏!?」

 雪乃の第一声に、葵は素っ頓狂な声を上げる。

「あっ、こっちのことだから。気にしないで」

 雪乃は舌をぺロットだし、自分の頭をコツンと叩いた。

「それで、何か用かな?」

「ビーチボールがほしいんですけど……」

「ビーチボールね?はい」

 雪乃は空気の入れられたビーチボールを葵に渡す。

「あ、どうも」

 葵はそれを受け取って代金を払うと、海へと戻っていった。

「彼氏クン、ねぇ……」

 ふと先ほどの言葉を思い出し、海の家のある後ろを振り向く。

 この言葉の意味が、葵にはイマイチ理解できなかった。

「まさか……沙夜先輩の彼氏?……なわけないよなぁ……」

 葵は首をかしげ、姫子達のところへと向かう。

「葵、こっちこっち!」

 既に海の中へと入っている姫子が、声を上げながら葵を手招きした。

「今行く」

 葵は足早に姫子の元へと向かう。

 コバルトブルーに輝く海水に足をつけると、冷たく心地よい感触が葵の体中を駆け巡っていった。

 流石に真夏の海は爽快だ。

 葵は海に来てよかったと実感せずにはいられなかった。

「もう、待ちくたびれたわよ」

 ようやくやってきた葵に、姫子は怒りながら文句を言う。

「そんなに待たせてないだろうが。ほれ、買ってきたぞ」

 葵は買って来たビーチボールを姫子に手渡した。

「ご苦労様」

 姫子はそれを奪い取るように受け取る。

「……で、他の二人は?」

 葵はキョロキョロと見回しながら奈緒と沙夜の姿を捜した。

「……知りたい」

 姫子は意味深な笑みをニヤリと浮かべた。

 葵の背筋に一瞬、寒気が走りイヤな予感が脳裏を駆け巡る。

「それ!!」

 突然姫子はバシャバシャと勢いよく水しぶきをかけてきた。

「わっ!?な、何するんだ!?」

 突然の出来事に、葵は非難の声を上げる。

「決まってるでしょ!!そんなこと!!」

「それ!!それ!!」

「えい!!」

 そこへ、海面に隠れていた奈緒と沙夜が、それぞれ違う方向から葵に向けて水しぶきを浴びせる。

「奈緒!?沙夜先輩!?謀ったな!?」

「へへーん。騙されるほうがいけないんですよーだ!!」

 三方向から水しぶきを浴びせられ、必死に防御しながら抗議の声を上げる葵に、姫子の小憎たらしい声が聞こえてくる。

「アオくん、どうしたの?もう降参?」

「葵さん、覚悟してくださいね」

 さらに奈緒と沙夜の楽しそうな声も聞こえてきた。

「三対一なんて卑怯だぞ!!そっちがその気なら!!」

 葵も手当たり次第に水しぶきをかけ返す反撃行動に移る。

「キャ!!」

「あはっ!」

「あっ!」

 三人の少女達は黄色い声を上げながら、楽しそうに葵への攻撃を続ける。

 そして、四人の楽しい一時はあっという間に過ぎ去っていった。

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