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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
8月 海と少女
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8月 海と少女 パート4

 手荷物を持った葵は、民宿『山茶屋』の裏手にある石段を降りていき、浜辺へと出た。

 カンカンに日が照り付けている真夏の海岸は、シーズンも真っ盛りということもあって、人の波で溢れかえっている。

 楽しそうに声をかけあいながらスイカ割りを楽しむカップル。

 黄色い声を上げながらビーチバレーをしている女性の集団。

 砂山を作ってトンネルを掘っている子供と、それを見守る両親。

 ビーチチェアに寝そべって日焼けをする、小麦の肌の少女。

 綺麗な女性を見かけては手当たり次第に声をかけナンパに勤しむ、金髪の青年。

 皆、それぞれ思い思いの時を過ごしているようであった。

「流石に暑いな……さて、どこで着替えるか……おっ?」

 辺りを見回していた葵は、海の家に置かれているビーチパラソルを発見した。

「そうだな……着替え終わった後、ただ待ってるのもなんだし……あれくらい用意しておくか」

 葵はそう考え、海の家へと向かった。

 海の家の中も休憩を取る人がいっぱいで、焼きそばの焼ける香ばしい匂いが漂っている。

「いらっしゃいませー」

 海の家に入ると、軽装にエプロンをつけた女性が葵に声をかけてきた。

「更衣室を利用したいんですけど……」

「あ、はーい。それじゃあ300円になりますね」

「300円……はい」

 葵は利用料金を渡すと更衣室へと向かった。

 更衣室は誰の姿もなく、まるで別世界に来たのではないかと思わせるほど静かだった。

 葵は早速手荷物から水着をだし、手早く着替えを済ませた。

 そして手荷物を持って、ビーチパラソルのところへと戻った。

 先程と同じく、数個のビーチパラソルが砂浜の上に置かれている。

「うん、この大きさだったら、大丈夫だな」

 葵は大きさを確認し、一番大きな物を借りることにした。

「あの、お借りになられるんですか?」

 タイミングよく、店の人らしき女性の声が、葵の背後から聞こえてくる。

「ええ。このビーチパラソル借りたいんですけど……あっ!?」

 葵は背後を振り向くや、驚きの声を上げた。

「えっ!?」

 その女性も同様に驚きの声を上げる。

「さ、沙夜先輩!?」

「葵、さん!?」

 そして二人は同時にお互いの名を呼び合った。

 葵の目の前にいる少女は、なんと先輩の沙夜であった。

 しかも、普段の沙夜からはとても想像できないような大胆な姿になっている。

 いつものストレートの髪型とは違うポニーテール。

 タンクトップの下に隠れた、二つの大きな膨らみ。

 ショートパンツからはむっちりとした太股がむき出しになっている。

 肌はやや小麦色に焼けていた。

「あ、葵さん、どうしてここに!?」

 沙夜は慌てふためいた様子で葵に尋ねる。

「俺は、奈緒の家族旅行に同行させてもらって来たんだけど……沙夜先輩こそ、どうしてここに?」

「わ、私は……その……お手伝いに……」

 沙夜は小声で呟くように答える。

 葵の脳裏に至極当然な疑問が浮かんだ。

「手伝いって……沙夜先輩、3年なんだろ?随分と余裕なんだな」

「いえ、その……余裕ってわけではないんですけど、家の手伝いは毎年やってることですから……」

「家の手伝い?……ってことは、ここって沙夜先輩の店なのか?」

「正確には私の叔父のお店、ですけどね。この、海の家『山茶屋』は」

「や、山茶屋!?」

 葵は沙夜の口から発せられた言葉に驚きの声を上げた。

「葵さん、ご存知なんですか?」

 沙夜はキョトンとした様子で尋ねる。

「知ってるも何も、今俺達が宿泊してる民宿が『山茶屋』だよ」

「えええっ!?」

 今度は沙夜が驚きの声を上げる。

「そ、そうだったんですか!?」

「そうだったんだよ。まさか沙夜先輩の叔父さんの家だったとは……」

 葵は驚きを覚えながら沙夜をじっと見つめる。

 葵が最初に抱いた沙夜に対するイメージは木っ端微塵に吹き飛んでいた。

「あ、あの……葵さん……」

「なに?沙夜先輩」

「そ、その……あまり、見つめないでください……」

 沙夜は恥ずかしそうに葵を見る。

 その姿が、またとてもかわいらしく葵には見えた。

「え、えっと……」

 葵は返答に困り、視線をそらそうとするが、どうしても2つの丸い膨らみを持った胸元に視線がいってしまう。

 少しの間沈黙の時が流れる。

「こーらそこ。サボっちゃダメでしょ?」

 すると、沙夜の帰りが遅いのを心配してか、先程葵の応対をした女性が海の家から出てきた。

「あっ、ゆ、雪乃さん。ごめんなさい。今戻りますから」

 沙夜は慌てた様子で頭を下げると、海の家の中へと足早に駆け込もうとする。

「ストーップ!」

 しかしそんな沙夜の動作を、雪乃と呼ばれた女性が静止した。

 そしてまるで観察するかのように沙夜と葵を見ると、急にニヤリと笑みを浮かべた。

「なーるほど……そーゆーことね」

「え、えっと……」

 沙夜は恥ずかしそうにうつむいてしまう。

 雪乃と呼ばれた女性はクスッと笑った。

「沙夜ちゃん、今日のお仕事はもう終わりにしちゃっていいから。後はゆっくり遊んできていいよ」

「え、ええっ!?」

 突然の言葉に、沙夜は驚いた様子で顔を上げた。

 その表情には、明らかに困惑した様子が浮かんでいる。

「で、でも……混雑してるし……大変では……」

「だいじょーぶよ。たぁ君にはあたしから言っといてあげるから」

 女性は片目でウィンクすると、そのまま海の家の中へと戻っていく。

「雪乃さん……ありがとうございます!」

 沙夜は深々と頭を下げた。

「今の人は?」

 葵が不思議そうに沙夜に尋ねる。

「今の人は、山茶雪乃さん。私の従兄いとこ、拓人お従兄にいさんのお嫁さんなんです」

 沙夜が丁寧に答えてくれる。

「ふーん……そうなんだ……」

 葵は頷きながら、海の家の中を忙しそうに歩き回っている雪乃をみる。

「あれ!?宗像、先輩!?」

「な、何でこの女がここにいるわけ!?」

 突然、葵の背後から聞きなれた声が二つ上がった。

「遅いぞお前ら。あんまり遅いから日が暮れるかと思ったぜ」

 葵が振り向くと、そこには水着を隠すようにパーカーを着た奈緒と姫子の姿がある。

 二人とも驚いたように沙夜の姿を見ていた。

「俺達が泊まってる民宿あるだろ?あれが沙夜先輩の叔父さんの家なんだと。それで、手伝いに来てるんだって」

 葵は事情を一通り説明する。

「それで、これからこのビーチパラソルを借りようとしていたところに、お前達が来た、というわけだ」

「そうだったんだ?」

「葵にしては、珍しく気がきいた行動じゃないの。感心感心」

 姫子と奈緒は頷く。

「というわけで、これ借りたいんだけど、いくらかな?」

 葵は沙夜に尋ねた。

「え、えっと……無料で、いいです」

 沙夜はニコッと笑った。

「いいのか?そんなことしても」

「はい。いいですよ」

 沙夜はコクンと頷く。

「それじゃあ、遠慮なく借りることにするよ」

 葵はビーチパラソルを持ち上げた。

「あ、あの……葵、さん……」

 沙夜が遠慮がちに口を開く。

「どうしたの?沙夜先輩?」

「そ、その……私もご一緒させてもらって、よろしいでしょうか?」

「えっ?」

 沙夜の言葉に葵は一瞬戸惑いを覚えた。

「俺は別にかまわないけど……」

 そして葵は後ろの二人を見る。

「ボクはいいよ」

 奈緒は快く頷いた。

「……あたしも……別にかまわないわよ」

 姫子も少し遅れて頷く。

「ありがとうございます!」

 沙夜は深々と頭を下げて、海の家『山茶屋』の裏手へと消えていく。

 葵は沙夜と姫子の険悪な仲を心配していたが、どうやらそれは杞憂に終わったようであった。

 もっとも、まだギクシャクした雰囲気は残っているようであったが。

「それじゃあ、行こうか」

「うん!」

「ええ!」

 そして葵は、ビーチパラソルを持ち上げて、奈緒、姫子と共に、どこか適当な広さのある場所を捜し歩いた。

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