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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
8月 海と少女
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8月 海と少女 パート3

「えーっと……この辺のはずなんだが……おっ。ここだここだ」

 奈緒の父親は手作りの地図とその建物にかかってる看板とを見比べて、何度も頷いた。

 建物の前に立て掛けられた看板には『山茶屋』と書かれてある。

 年季の入った駅舎を出て少し歩いたところに、その建造物はあった。

 周りの民宿と比べても一際大きく、民宿というよりは旅館といった感じの立派な造りで、すぐ目に付くくらいかなり目立っている。

「『やまちゃや』?変な名前だよね、アオくん。海なのに峠にある茶店のような名前だなんて」

 奈緒は立て看板を指差しながら葵を見た。

「奈緒、『やまちゃや』じゃなくって『やまさや』よ」

 奈緒の母親が、優しく微笑みながら娘に間違いを指摘する。

「そ、そうなんだ?」

 奈緒は慌てて指を引っ込めると、恥ずかしそうに顔をうつむかせてしまった。

「そんなに気にしなくっても大丈夫ですよ、紅林先輩。人間誰にでも間違いのひとつやふたつ、あるんですから」

「そうだぞ。海の水がしょっぱくないなんて嘘に比べれば、まだまだ可愛いもんだ」

 姫子のフォローの直後に、葵が余計な一言を付け加える。

「う~っ!」

 奈緒は恨めしそうに葵を睨み、両手をグーにしてポカポカと葵を叩き始めた。

「奈緒。そんなことしてると葵君に嫌われるぞ?」

 奈緒の父親は笑いながら娘の様子を見て、そして民宿の中へ入っていった。

 その後に4人がついていく。

「おお、よく来たな。ドタキャンされたかと思って心配したぞ」

 がっしりとした体格の民宿の主人らしき人物が、すぐさま5人を出迎えてくれた。

「せっかくの誘い、無駄にしちゃ悪いからな。嵐が来ても来るつもりだったから」

 奈緒の父親も豪快に笑い声を上げる。

「お父さんの知り合いなの?」

 そんな二人の様子を不思議そうに見守っていた奈緒が、自分の父親に尋ねた。

「ああ。お父さんと山茶のおじちゃんは釣り仲間でな。誘われたから遊びに来ることにしたんだ」

「そうだったんだ……あっ、今日はお世話になります」

 奈緒は慌てて頭を下げる。

「なかなか礼儀正しい娘じゃないか。で、そっちの二人が?」

「ああ。電話で話した娘の友達とその従妹だ」

「え、あっと、きょ、今日はお世話になります」

「よろしく、お願いします」

 突然話を振られた葵と姫子も、慌てて頭を下げる。

「うんうん、なかなか礼儀正しい少年少女じゃないか。自分の家だと思って、気楽にくつろいでいってくれ」

 民宿の主人も豪快に笑う。

「それじゃあ、よろしく頼むよ。料理とかも期待してるから」

「言われなくったってわかってるよ。あっ、これ渡しとかなくちゃな」

 民宿の主人は奈緒の父親に部屋の鍵を二つ渡す。

「それじゃあ、部屋に案内するからついてきてくれ」

 民宿の主人は建物の奥へと歩いていく。

 5人がその後をついていった。

「ここだよ」

 2階への階段を上がり廊下の突き当りまで進んだところで、民宿の主人の足が止まる。

「おいおい……いいのか?本当にこんないい部屋用意して貰って?」

 奈緒の父親は少し困惑気味の声を上げる。

「気にしなくても大丈夫だって。料金をぼったくるとかそんなことはしないから。広いに越したことはないだろ?」

「そ、それはそうなんだが……本当にすまんな」

 奈緒の父親は改めてお礼を言った。

「いいって。それじゃあ、ごゆっくり」

 民宿の主人はそういい残して、一階へと降りていく

「それじゃあ、これが葵君達の部屋の鍵ね」

 奈緒の父親は受け取った鍵のひとつを、葵に渡す。

「あ、どうも。ありがとうございます。本当にすみません」

 葵は恐縮しきりといった様子でその鍵を受け取った。

「それじゃあ、ゆっくり楽しんでくれたまえ」

 奈緒の父親は部屋の鍵を開けると、部屋の中へと入っていく。

「ほら、葵。早くしてよ」

「わ、わかってるよ」

 姫子にせかされながら、葵は鍵を開け、戸を開いた。

「ホント、遅いんだから!」

 姫子が文句を言いながら部屋の中へと入っていく。

「いちいち文句が多い奴だな」

 葵も姫子の後に続き、部屋に入ってドアを閉めた。

 部屋の中は8畳ほどの広さで、二人が泊まるには広すぎるくらいの大きさであった。

 中央にテーブルが置かれ、その上にはお茶菓子と急須、湯のみ、ポットが置かれている。

「本当にいいのかなこんな部屋に泊まっても……」

 荷物を部屋の隅に置き、鍵をテーブルの上に置いた葵は、まるで自分のことのように心配になった。対照的に、姫子は荷物を置き、物珍しそうに部屋の中をあちこちと歩き回る。そして部屋の奥にある障子を開けた。

「うわぁ!!」

 姫子は思わず感嘆の声を上げた。

 その空間には小さなテーブルに向かい合うようにして椅子が二つ置かれていて、そこからは青々と輝く海が一望できるようになっていた。

「素敵……」

「ああ。本当にこんなにいい部屋に泊まれるなんて、夢にも思わなかったけどな」

「本当……これで……あんたがいなければ最高なんだけどね!」

 姫子は急に険悪な顔つきになり、葵を指差す。

「なんだよそりゃ!?」

 突然非難の矛先を見けられた葵は心外だと言わんばかりに声をあげた。

「何であたしがあんたと同じ部屋に泊まんなくちゃいけないわけ!?しんじらんなーい!!」

「信じらんない……って、贅沢言うなよ。同行させてもらっただけでもありがたいと思え」

「そ、それはそうだけど!でも、あんたと一緒の部屋っていうのがイヤなの!!」

「そんなにイヤなら留守番してればよかったじゃねえか」

「そんなのイヤに決まってるでしょ!!あんたがしてればよかったのよ!!」

「おいおい……誘われたのは俺だぞ?本末転倒だな」

「うっ……で、でも、あたしはイヤなの!!あんたみたいな野獣と一緒の部屋で寝なくちゃいけないなんて!!」

「や、野獣だと!?俺のどこが野獣なんだ!?」

「あんたの存在そのものが、よ!!いいっ?葵、あんたはここで寝なさい!!あんたは椅子に座って寝るのがお似合いよ!!ちゃんと障子は閉めといてあげるから!!」

「ば、馬鹿言うな!!お前こそ、その椅子に座って寝ればいいじゃねえか!!その景色、気に入ったんだろ!?変わり者のお前にはピッタリじゃねえか!!」

「な、なんですってぇぇぇぇぇっ!?」

「なんだよ!!」

 二人は不毛な言い争いを続け、激しく睨みあう。

 突然、コンコン、と聞こえてきたドアのノックオンが、その行動を中止させた。

「アオくん、ボクだけど……いいかな?」

「おお。いいぞ」

 葵は何事もなかったかのように奈緒を招き入れる。

「ねぇ、アオくん、姫子ちゃん。泳ぎに行こうよ!」

 部屋に入ってきた奈緒は開口一番、元気いっぱいに言った。

「それ、賛成です。すぐに行きましょう」

「そうだな……せっかく海に来たんだし、ボケーっとしてるのもつまらないからな」

 姫子と葵はともに賛成する。

「じゃあ、すぐ更衣室で着替えて、浜辺で待ってるから!」

 奈緒は葵達の言葉を聞くや、嬉しそうに部屋を飛び出していった。

「俺達も行くとするか……」

 葵は水着を詰めたバッグを持ち、部屋を出ようとする。

「待ちなさい!」

 そんな葵を姫子が呼び止めた。

「なんだよ姫子?」

「ふふふ……葵。覚悟しておくことね」

 姫子は不敵な笑みを浮かべながら偉そうに両腕を組んで葵を見る。

「覚悟……?」

「そうよ!あたしの悩殺水着であんたをあたしの虜にしてあげるわ!!葵、あんたはあたしの下僕になるのよ!!」

 姫子はビシッと葵を指差す。

「……はぁ……」

 葵は大きくため息をつくと、部屋を出て行った。

「ちょっと!!今の態度なに!?待ちなさいよ!!」

 葵の背後から姫子の怒鳴り声が聞こえてきたのは、その直後のことであった。

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