表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
8月 海と少女
46/70

8月 海と少女 パート2

 翌日、葵と姫子は奈緒の誘いを受け、紅林家の家族旅行に同行していた。

 姫子が一緒、ということでいささかの不安があった葵ではあったが、わくわく状態の姫子に早くたたき起こされたことや、即席のファッションショーに付き合わされたこと、予定の待ち合わせ時間の1時間も前に駅についてしまったことを除けば、さして問題は起きていなかった。

 そして奈緒の家族と合流し、葵と姫子は奈緒の両親に『よろしくお願いします』と挨拶したのである。

 初対面だった姫子の印象も、奈緒の両親にはなかなかの好印象だったようで、葵もホッと胸をなでおろした。

 それから5人は特急電車の自由席禁煙車両に乗り込み、一路目的地の小牧海岸を目指すことになった。

 幸いなことに車内は空いており、5人がそれぞれ席を確保するには十分くらいの空席があった。

 奈緒の両親は二人で座り、一方の葵、姫子、奈緒は、奈緒の両親の席と通路を挟んで反対側の席と、その前の席をグルリと回転させ4人がけのボックス席のような感じにして座ることにしたのである。

 窓側に座った葵の隣には荷物が置かれ、対面の席には窓側に姫子、通路側に奈緒が座った。

 電車は快適なスピードで、目的地を目指して進んでいく。

 小牧海岸は清峰駅から特急電車で2時間ほどで行ける場所にあり、海産物がおいしいことで有名な場所であった。

「うわー、見て見て。綺麗な草原が広がってるー!」

 車窓をじっと眺めていた姫子は、長く暗いトンネルを抜け出し、突然飛び込んできた光景を見て、指を差しながらはしゃいだ。

「んなもん見ればわかる。まったく、小学生の遠足じゃないんだから、もう少し静かにできないのかお前は?」

 葵はあきれながら姫子を見ると、軽くため息をついた。

「むっ!?何よ!!あんたにはこの感動がわからないわけ!?」

 姫子が少し目を吊り上げ、葵をにらむ。

「ああ、まったくわからん」

 しかし葵は、まったく興味なさそうに答える。

「アオくん、そんな言い方ないと思うよ?」

 姫子の隣で、奈緒が心配そうな表情をしながら葵を見る。

 それはまるで『喧嘩はやめて』とでも言いたげであった。

「そんな顔するなよ、奈緒」

 葵は大きくため息をつき、Tシャツにジーンズ姿の姫子を見た。

「大体姫子の考えてることなんて、わかってるから。どーせその格好が、草原にマッチしてるって言いたいんだろ?」

「うっ……」

 図星をつかれ、姫子は言葉に詰まる。

 続けて葵は、サンドレス姿の奈緒を見た。

「お前も、マッチしてるって言ってほしいのか?」

「えっ!?」

「そんなの別にいいだろ?二人とも、よく似合ってかわいく見えるんだから」

 葵はぶっきらぼうに言うと、座席へともたれる。

「葵……」

「アオくん……」

 姫子と奈緒は互いに顔を見合わせると、ほんのりと頬を赤く染めてうつむいてしまった。

 ガタンゴトンと、しばらく電車の音だけが鳴り響く。

 そして電車は再びトンネルの中へと入った。

「あっ……」

 姫子が小さく声を上げる。

「どうしたんだ姫子?」

「草原……見えなくなっちゃったね……」

「そうだね……」

 奈緒も寂しそうに呟く。

 再び沈黙が流れようとする。

「お弁当におつまみ~、ビールにお酒、ジュースはいかがですかぁ~?」

 と、その時、車内販売のワゴンが入ってきた。

「そう言えば……朝から何も食ってないんだよな……」

 葵は朝のバタバタしたやり取りを思い出した。

 朝食を食べてこなかったため、流石にそろそろ腹が空いてくる時間だ。

「姫子、奈緒、なんか食べるか?」

 葵は姫子と奈緒に尋ねた。

「えっ?アオくんおごってくれるの?」

 奈緒が葵に聞き返す。

「ああっ。あまり高いものは買えないけどな」

「それじゃあボク、アオくんに任せるよ」

「あたしは、林檎弁当ね」

「オッケー。あっ、すみません」

 二人の意思を確認した葵は、ワゴンを押している女性を呼び止めた。

「林檎弁当3つと、お茶3つください」

 そして品物を注文し、代金を受け渡してそれを受け取り、姫子と奈緒に渡す。

「ほら」

「アオくん、ありがとう」

「ありがとう、葵」

 二人はそれを受け取って微笑んだ。

 品物を売り終わった車内販売のワゴンが次の客を求め遠ざかっていく。

「へぇ~……これが噂の林檎弁当なんだ……」

 容器のふたを開けた姫子が、物珍しそうに観察しながら呟いた。

「噂のって?そんなにこの駅弁、噂になってるのか?」

 葵が不思議そうに姫子に尋ねる。

「違うわよ。ほら、紅林先輩の家にあったじゃない」

「あっ!!」

 姫子の言葉に、葵は一緒に奈緒の家に遊びに行った時のことを思い出した。

「あたしも紅林先輩みたいに、これ貯金箱にしてみよっかな?」

 姫子は悪戯っぽく笑う。

「やめとけやめとけ」

 葵は呆れたようにため息をついた。

「どうして?」

「どーせ、お前が貯金箱代わりに使ったって、お金なんか貯まりっこないんだから」

「むっ!!そんなことないわよ!!やってみなければわからないでしょ!?」

 姫子は頬を膨らませて反論する。

 葵は苦笑すると、奈緒を見た。

「見ろ。お前が悪しき前例を作るから、こんなことになるんだぞ?これに懲りて、もうその容器を貯金箱に使うような真似はだな……」

「イヤだもん」

 奈緒は葵の言葉が終わらないうちに即答する。

「思い出って言うのは、大切にしなくちゃいけないものなんだもん」

「……ってことは、ひょっとしてそれも貯金箱代わりに使うつもりか?」

「うん」

 奈緒はコクンと頷く。

「…………」

 葵は何も言葉が出なかった。

 貯金箱なら、これよりもいい物がいくらでも市販されている。

 なのにわざわざ駅弁の容器にこだわるところが、葵には少し理解できなかった。

「紅林先輩の言うとおりよ!」

 姫子が奈緒に加勢する。

「あんたに、人の思い出を土足で踏みにじるような権利なんてないんだからね!せっかくのプレゼントを有効活用してあげるって言ってるんだから、少しは感謝しなさいよ!!」

「これ……プレゼント、なのか?」

「細かいことは気にしちゃダメよ。ねっ?紅林先輩」

「そうだよ。アオくん、男の子なんだから」

 姫子と奈緒はお互い頷きあう。

「へいへい……」

 葵はそんな和気藹々とした二人の様子を見て、これ以上何も言うことはしなかった。

 まるで本当に姉妹のように仲がいい。

 葵は静かに駅弁を食べることにした。

 電車はトンネルを出ては入り、入っては出るということを繰り返しながら走行している。

 そのため外の景色を見ようにも、ほとんどがトンネルの中のため、コンクリートの壁しか見えない状態だ。

 姫子と奈緒は、葵のことで話題に花を咲かせている。

 突っ込みたいところは満載であったが、どうせ反論されるのがオチなのでそのまま黙って耳だけを傾け続けていた。

 やがて電車が長いトンネル区間を抜け、明るい景色が飛び込んできた。

「うわぁ!!」

 姫子がそれを見て、嬉しそうな声を上げる。

 流れる車窓からは、からりと晴れ上がった青空と、青々とした広大な海が見えた。

 幾重にも押し寄せる波が堆く積み上げられた防波ブロックへうちつけられ、その度に波しぶきが高く上がる。

「知ってるか姫子?海の水はしょっぱいんだぞ?」

 葵はニヤニヤしながら姫子に話した。

「それくらい知ってるわよ。あたしを馬鹿にしてるの?」

 姫子が呆れながら葵を見る。

「何だ知ってたのか?奈緒でさえ知らなかったことなのに」

 葵はさも残念そうにため息をついた。

「わわわっ!!そ、そんな昔のこと、ばらさなくてもいいじゃないか!!」

 奈緒は慌てた様子を見せ、恨めしそうに葵を見る。

 そして目的地の到着が近づく車内アナウンスが流れたのは、それから間もなくのことであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ