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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
7月 期末試験と招待状(下)
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7月 期末試験と招待状(下) パート10

「ふぅ……」

 客室に案内され、一人になった葵は、荷物を置くとベッドに身を投げ出した。

 車で延々5時間揺られ続けるのは流石に辛いものがある。

 まだ昼過ぎだというのに、葵はなんだか眠くなってきた。

「一眠りするかな……」

 葵は虚空を見つめながらうとうとし始めた。

 ふと、誰かが戸をノックする音が聞こえ、その行動を遮断した。

「開いてるよ」

 葵の言葉に呼応するかのようにガチャリと扉が開かれ、誰かが入ってくる。

 葵がチラッと視線をむけると、それがTシャツ姿に着替えた姫子であることが確認できた。

「なんだ……お前か……」

 葵はポツリと呟くとそのままボーっと天井を見つめた。

「…………」

 姫子はにこやかに微笑みながら無言で葵に近づいてくる。

 次の瞬間、姫子は勢いよく飛びあがると、自らの肘を葵の腹めがけて振り下ろしてきた。

「うぉ!?」

 一瞬にして目が覚めた葵は、慌ててベッドから転げ落ちる。

 ぽむっ、っと姫子の肘が布団の中にめり込んだ。

「いきなり、なんつーことするんだお前は!?」

 床の上から起きあがった葵は呆れながら姫子を見た。

「なんで避けるのよ!!」

 自分の技がかわされた姫子は、むくりと起きあがると、非難めいた眼差しで葵を睨む。

「当たり前だろ。誰だっていきなりジャンピング・エルボーなんかされたら逃げるだろうが」

「あんたは逃げちゃダメ!!おとなしく制裁を受けなさい!!」

「制裁だぁ?」

 葵はその言葉に思い当たる行動を頭の中で検索して見たものの、該当する件数が多すぎた上に、毎度毎度のことなので途中で検索を中断した。そして、わざとらしく深いため息をつく。

「まったく……素直じゃないやつは困るな」

「はぁ?何いってんのあんた?」

「違うのか?寝込みを襲ってきたから、てっきり発情してるものだとばかり……」

「な、な、なっ!!」

 姫子の顔が、みるみるうちに真っ赤に染まっていった。

「どうやら図星のようだな……ったく、これだから万年発情娘は困るよな」

「ななな、何いってんのよ!!だーれが万年発情娘よ!!」

「違うのか?」

「ちがーう!!」

「なんだ……俺はてっきりそうだとばかり……」

「バッカじゃないの!?なんであたしがあんたなんかと一緒にベッドを共にしなくちゃいけないわけ!?そんなのこっちからお断りよ!!」

 姫子は顔を真っ赤にしながら一気にまくし立てた。

「まあまあ。落ちつけって」

 葵はそんな姫子をなだめる。

「何をそんなに興奮してるんだ?」

「あんたのせいよあんたの!!」

「まったく、そんなんじゃカワイイ顔が台無しだぜ?」

「なっ……!!」

 姫子はそのまま固まってしまった。

 沈黙で流れる空間で、二人は無言のままジッと見つめあう。

「あ、あ、あの……」

 そこへ場違いな声が割りこんできた。

「えっ?」

 慌てて二人がそのほうをみると、顔を真っ赤にしながら奈緒が立っていた。

「ご、ゴメンね。覗き見するつもりはなかったんだけど、そのドアが開いてたから……ボク、邪魔しちゃったかな?」

「邪魔?バカ言うなよ。なんで俺がこんなヤツと」

「そ、そうよ!!紅林さん、変なこと言わないでちょうだい!!こいつとはなんにも関係ないんだから!!」

「そ、そうなんだ?」

 葵と姫子がそれぞれ否定すると、奈緒はホッと安堵のため息をついた。

「そんなところにつったってないで、入ってこいよ」

「うん♪」

 奈緒は嬉しそうに部屋の中へと入ってくると、姫子の隣に腰かける。

「このベッド、ふかふかだね。とっても気持ちよさそう♪」

「そっか?どの部屋も同じだと思うけど」

「そ、そうだよね。ボクってば何言ってるんだろ。あはははは」

 笑う奈緒を見て葵は変なヤツだなと思ったが、それ以上は気にしないことにした。

「それよりも、なんか用があったんだろ?」

「えっ?あ、うん」

 思い出した様に、奈緒がポンと手を打つ。

「あのね、綾杉さんが」

「楓が?どうかしたのか?」

「いなくなっちゃった」

「……はい?」

 一瞬、奈緒が言った言葉の意味が理解できず、葵は首をひねる。

「今、なんて?」

「だから、綾杉さんがいなくなっちゃったんだよ!」

 奈緒はムスッと膨れながら同じ言葉を、語気を強めて繰り返した。

「トイレにでも行ってるんじゃねえの?」

「30分もトイレに行ってる?それに、戻ってくるのがちょっと遅すぎるよ」

「じゃあ、迷子になってるんだきっと」

「いくら広くっても、そう簡単に迷子になったりしないとおもうけどなぁ……」

「ふっ……甘いな。奈緒」

 葵はチッチッチっと指を左右にふった。

「あいつに常識なんてものは通用せん。なんたって何も考えてないお気楽極楽娘だからな。人が驚くようなイタズラするなんて、日常茶飯事だ」

「じゃあ、これも綾杉さんのイタズラだって言うの?」

 奈緒は持っていた便箋を葵に手渡した。

「どれどれ……」

 葵は面倒くさそうにその便箋に書かれている文面を見る。

『さあゲームの始まりだ

 有能なチャレンジャーの諸君

 私を捕まえてみたまえ

 私は実験が好きで好きでしょうがない

 罠を仕掛けるのがとってもたまらない

 臆病者には死を!

 積年の大炎に灼熱の制裁を!!

 ミスタートラッパー 偉大なる科学者山極誠三』

「なんじゃこりゃ??」

 手紙を読み終えた葵の第一声は、まさに疑問符だらけのものだった。

 力強く、かつ読みやすく書かれたその文字は、執筆者が誰であるか一目瞭然に物語っていた。

「貸して貸して」

 葵から便箋を受けとった姫子も、興味深そうにその内容をじっくり読む。

「ねぇ……これって……」

「おそらく……山極先生の犯行声明文だろうな……」

 葵はそう言って、深いため息をついた。

「ねえ、アオくん……どうする?」

「どうするもねえだろ……楓の奴を見つけないと」

「そうよね……まずそれが、1番最初にやらなくちゃいけないことよね」

 葵の意見に姫子も頷く。

「とりあえず作戦会議よ。山極先生、どんなトラップ仕掛けてるかわからないから、こっちもそれなりの作戦を立てないと」

「珍しくマトモなこというじゃないか。で、具体的にはどうするんだ?」

「それを考えるのがあんたの役目じゃない」

「はぁ?」

「というわけで、後よろしくねー」

 姫子はそう言って、ゴロンと横になった。

 葵と奈緒は互いに顔を見合わせて、苦笑した。

「とりあえず奈緒はどうしたらいいと思う?」

 葵が奈緒に意見を求めると、彼女は人差し指を顎に当てながら考えこむ仕草を見せた。

「そうだなぁ……3人別々に探しまわるのがいいと思うけど、どんな危険が潜んでるかわからないから、やっぱりボクは3人で一緒に行動した方がいいと思うな」

「確かに、奈緒の言う通りだよな」

 葵は頷くと、楓を救出するための計画を頭の中で立て始めた。

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