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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
7月 期末試験と招待状(下)
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7月 期末試験と招待状(下) パート9

 夏休みにはいって丁度1週間後のこと、葵、姫子、奈緒、楓の4人は化学教師の山極に連れられて、彼の別荘へと向かっていた。

 もっとも、別荘といえば聞こえはいいが、それが『騒動師』の異名を持つ山極のものとなると話は別で、何か他意があるのではないかと勘繰りたくなってしまう。

 一体どういう風の吹き回しか、あの山極が自分の生徒を自らの別荘に招待するなんて、何か企みがあるとしか考えられない。

 事実、葵も当初はこの話に乗気ではなかったが、姫子に促されてようやく重い腰をあげたのであった。そして、同行者に奈緒と楓がいることを知ると、ますますもって山極が何か良からぬことを企んでいると確信せずにはいられなかった。

 現に、車は林に囲まれた山道をどんどん先へ先へと進んで行く。

 葵の不安は増大するばかりであった。

 やがて、車はひっそりぽつんと佇む一軒の洋館の前で止まった。

「ほら、着いたぞ」

 山極が声をかける。

 葵達は車から降りた。

 途端に蒸し暑い熱気がもうもうと、肌にまとわりついてくる。

 しかしそれは都会のモノとは違って、不快感を感じることなくどこか清涼感を覚えるものであった。

「あっつーい!!」

 額から吹き出してきた汗をぬぐいながら、姫子が文句を言う。

「そんな格好してるお前が悪い」

「なんでよ!?山登りって言ったら、やっぱりこれじゃない!!」

 葵の言葉に姫子はすかさず反論した。

 姫子の格好はというと、探検家が秘境を探検でもするかのような重武装で、見てるだけで暑苦しくなってくる。

 対称的に奈緒と楓は涼しげな軽装であった。

「まったく……少しはこの二人を見習えないのか?こんなクソ暑いのにそんな暑苦しい格好しやがって。暑苦しいのは顔だけで十分だ」

「な、なんですってぇぇぇっ!?」

 姫子は目を釣りあげ、烈火の如く怒りだした。

「ちょ、ちょっとアオくん。それは言いすぎだよぉ」

 奈緒が慌てて止めに入る。

「姫子ちゃんだって悪気があってやってるわけじゃないのに、女の子に向かってそんなこというなんて酷いよ」

「酷くなんかない。事実を言ったまでだ」

「余計に悪い!!」

「なんだ?ちゃんと自覚してるじゃないか。少しは安心したぞ」

「きぃぃ!!ムカツクぅ~!!」

「まあまあ。二人とも」

 今度は楓が間に割ってはいった。

「別にいいじゃん。アオちゃんも姫ちゃんも変わり者なんだから」

『おあんたが1番変わってるわ!!』

 二人は口をそろえて即答した。

「ふえぇ~~ん!!奈緒ちゃん奈緒ちゃん、二人がイジメるよぉ~!!」

 楓は泣き真似をしながら奈緒に助けを求める。

「はっはっは。お前達、相変らず仲がいいんだな」

 その様子を楽しそうに見守っていた山極が笑い声をあげた。

「まぁ、喧嘩するほど仲がいいっていうしな」

「先生!冗談にも言っていい事と悪い事があります!」

「そうですよ!!だーれがこんなヤツなんかと!!」

 姫子は葵にむかって嫌悪感むき出しにベーっと舌をだした。

「まあまあ。それよりも、中にはいるぞ」

 山極は入口のドアの鍵をあける。

 ギギギィ~という重厚な音を立てながら、ゆっくりゆっくり扉が開かれた。

「さあ、はいったはいった」

「わ~い!!おっじゃましま~す!!」

 真っ先に楓が喜び勇んで入った。

「先生、お邪魔します」

 続いて奈緒が一礼をして中へと入る。

「あっ、綾杉先輩に紅林先輩!まってください!!」

 その後を追うように姫子が入っていった。

「…………」

 しかし、対称的に葵はその場を動こうとしない。

「なんだ?神津、お前は入らないのか?遠慮することはないぞ」

「あの、先生。ちょっと聞いてもいいですか?」

「なんだ?」

「この洋館……本当に先生の所有物件ですよね?」

 葵はポツリと呟きながらその館を見上げた。

 人里離れた山奥にひっそりと存在している、古びた洋館。

 まるでその場所に存在するのが場違いな感じさえするが、逆に昔からそこに存在することが当たり前のように威風堂々とした存在感を主張している。

 山極にとっては分不相応な別荘と、誰もが感じるであろう。

 その至極当然な疑問を、葵は口にしたのであった。

「……やっぱり、気になるか?」

「ええ」

「……ひょっとしたら、無人の館をいつのまにか俺のものにしちゃったのかもしれないぞ?」

「……えっ?」

「なーんてな。冗談だよ。正真正銘、こいつは俺がオヤジから受け継いだ遺産だから心配するなって」

 ハッハッハと笑いながら山極は館の中へと入っていった。

 葵にはそれが一瞬冗談ではなかったように聞こえた。

 何故なら山極だったらそれくらいのことをしても当然だと思われても不思議がなかったからである。

 葵は用心しながら館の中へとはいった。

「おおっ……」

 そして思わず息を飲んだ。

 その大広間には中世の雰囲気を再現したと思われる煌びやかな装飾が施されていた。

 天井には大きなシャンデリアが備え付けられ、正面の壁には婦人画が飾られている。

「ここ……本当に先生の別荘なんですか?」

「当たり前だ。オヤジがアンティーク収集家だったからな」

「まったく、あんたはイチイチ文句が多すぎるの。人の好意は素直に受け取っておくものよ?」

 姫子が葵を肘で小突く。

「とってもひろ~い!」

「ボク、1度でいいからこういうところに住んでみたかったんだ」

 楓も奈緒も目を輝かせている。

「喜んでもらえたようで、俺としても嬉しいぞ。それじゃあ、客室はこっちだから」

 山極は満足そうに頷くと、不敵な笑みを浮かべながら、4人を1階の奥にある客室へと案内した。

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