7月 期末試験と招待状(上) パート5
「いやぁ、それにしても意外だったなぁ。沙夜先輩も結構可愛いところあるじゃないか」
葵は先程のやり取りを思い出しながら、奈緒に話しかけた。
「ボクは宗像先輩の気持ち、わかるなぁ」
奈緒はそう言って、神社の方角を振り返る。
葵はニヤッと笑った。
「なんだ?お前もずーっと想い続けてる好きなやつでもいるのか?」
「え、えっと……それは……」
奈緒は顔を赤くし、言葉がしどろもどろになる。
「ははは。奈緒の気持ちがそいつに届くといいな」
葵は笑いながら奈緒の頭をなでた。
「アオくんのバカ……」
奈緒は小声でぼそっと呟く。
「ん?何か言ったか?」
「何も言ってないもん!」
「おかしなやつだなぁ……」
奈緒は頬を膨らませ、ムスッとした表情を作る。
そんな奈緒を見て、葵はふと何かを思い出しかけた。
「そう言えば……」
葵は青空を見上げながら呟いた。
「俺……沙夜先輩にどこかで会ったことがあるような気がするんだよなぁ……」
「宗像先輩に?さっき会ったよ」
「そーゆーことじゃなくって……もっと昔に……うーん……奈緒、知らないか?」
「ボクが知るわけないじゃないか」
「そうだよなぁ……」
葵は青空を眺めながら先ほど沙夜が見せた表情を思い出した。
その表情を昔どこかで見たような記憶があったのだが、それがいつどこでのものかははっきりと思い出せない。
ひょっとしたら自分の思い過ごしかもしれないな、と葵は思い、これ以上考えることはやめにした。
そして、T字路に差しかかった。
「それじゃ奈緒、俺はこっちだから」
「うん。それじゃあ、また後でね」
手を振りながら、奈緒はT字路を曲がって歩いていく。
葵は奈緒と別れると、そのまま直進して自分の家へと向かった。
途中で、自動販売機で冷たい缶ジュースを買い、一気に飲み干す。
「あっちぃなぁ……」
そして額の汗をぬぐって、空を見上げた。
遠くに大きな入道雲が見えるが、こちらに流れてくる気配はまったくない。
「暑すぎるのも考え物だな、ホント……」
葵はぼやきながら、再び歩き出した。
ほどなくして自宅へと到着する。
「やっとついた……」
葵は玄関の戸を開けると、力ない足取りで家の中へと入った。
「ただいまー」
葵の言葉に、無言の返事が返ってくる。
「姫子の奴いないのかな?鍵もかけないでどこかへ行くなんて、無用心な奴だな……」
葵はまずは渇いた喉を潤そうと、台所へ行って冷蔵庫を開けた。
すると、入っていたはずのジュースのペットボトルがなくなっている。
「姫子の奴……また居間に出しっぱなしにしてやがるな……あれほど冷蔵庫に入れておけって言ったのに……」
冷蔵庫を閉めた葵はジュースの代わりに水道水で喉を潤すと、居間へと向かった。
そして、居間の前に来ると、閉められている戸を開いた。
途端に、冷たくひんやりした空気が葵の肌を刺激する。
冷房をがんがんきかせているせいか、居間はまるで冷蔵庫の中にいるかのように涼しい。
そこには、外の暑さなどまるで無縁の別世界が広がっていた。
「あっ、おかえりー」
葵の存在に気がついた姫子が声をかける。
「随分と早いお帰りね?いつものように遅いと思ってたのに……ひょっとして、紅林先輩とケンカでもした?」
「んなわけないだろ。試験が近いから勉強するためにさっさと帰ってきたんだ」
葵はそう答え、居間の中に入り戸を閉める。
姫子はソファーに寝そべりながら、せんべいを口にくわえて漫画を読んでいた。
「お前……随分と余裕だな……」
そんな姫子を見て、葵は思わず苦笑した。
「だって、あたしには人間界の試験なんて関係ないもん。あたしの試験はあんたの魂を連れてくことだし」
姫子はせんべいをかじり、漫画をめくりながら答える。
葵は苦笑したまま言葉を続けた。
「まぁ、お前がそう言うんだったら……でもいいのか?」
「何が?」
「だってうちの学校、試験で赤点取ったら夏休み返上で補習だぜ?」
「ええっ!?」
途端に姫子の顔色が変わった。銜えていたせんべいをポロリと落とし、顔を上げて葵を見る。
「ちょっと何それ!?そんなこと聞いてないわよ!?」
「いーや、ちゃんと聞いてるはずだ。どーせお前が聞いてなかっただけじゃねえの?」
「うっ……」
思い当たる節があるらしく、姫子は言葉を詰まらせる。そしてソファから起き上がった。
「こんなことしてる場合じゃないじゃないの!!試験勉強しないと!!」
「おお、頑張れよ」
「葵、邪魔しないでよね!あたしここで勉強するから!」
姫子はいそいそとテーブルの上を片づけはじめる。
「邪魔できるわけないだろ?俺もこれから奈緒と一緒に試験勉強しなくちゃいけないから」
葵は軽くため息をついた。
「えっ?」
その言葉に、姫子の動作が止まる。そして葵を見た。
「紅林先輩と?」
「ああ。これから奈緒のやつが来るから、俺の部屋で一緒に勉強。だからお前の邪魔なんてしてる暇はないんだ」
「ふぅん……」
「そーゆーわけだから。お互い頑張ろうな」
葵は姫子にそう言って、居間を出て行った。
途端にモワッとした不快な空気が葵を包み込んでいく。
「あぢー……俺も早く自分の部屋涼しくしとかないとな」
葵は二階へと上がり自分の部屋へ行くと、すぐさまエアコンのスイッチを入れた。
そして鞄を机の上に置き、着ているものを脱いで着替える。
「ふぅ……」
そして葵は脱いだものを持って部屋を出て一階へ降りると、風呂場に向かい、洗濯物を洗濯機の中へと放り込んだ。
それから台所へいき、少し遅めの昼食を取るのであった。




