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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
7月 期末試験と招待状(上)
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7月 期末試験と招待状(上) パート3

「脇本のやつ、もうちょっと愛想よくてもいいのになぁ……奈緒、お前もそう思うだろ?」

 廊下を歩いていた葵は、先程のやり取りを思い出し、隣を歩いている奈緒に話しかけた。

「きっと、恥ずかしがり屋さんなんだよ」

「恥ずかしがり屋って……お前や萌じゃあるまいし」

 奈緒のお気楽な答えに、葵は苦笑する。

「あーあ、もうちょっと愛想よければ、あいつもかわいいんだけどなぁ……」

「でも脇本さん、ちょっと変わってるけど悪い人じゃないよ?」

「まぁ、確かに悪い奴ではないんだけどな……」

 葵もその意見には同意し、頷く。

 優菜が何故あそこまで人を拒むような態度を取り続けるのか、それは誰にもわからなかった。

 単に人付き合いが苦手なだけかもしれないが、それにしては度が過ぎているところがある。

 ひょっとしたら過去に何かあったのかもしれないと、そう思ってみても直接本人に聞いたわけではないので、結局は推測の域をでない。

 最も、本人に聞いたところで、到底教えてくれるとは思えなかったが。

「ふぅ」

 葵は軽くため息をつくと、窓の外を眺めた。

 グラウンドには、いつも練習しているはずの運動部員の姿がなく、ひっそりと静まり返っている。

 いつもはやかましい掛け声を出している運動部員達でも、いないならいないでどこか寂しいものがある。

 これは学校の決まりで、大会が間近に迫ってるなどの特例を除き、試験が近くなれば強制的に部活は休みになる、という事情があった。

 そのような理由で皆、テストのために家に帰って勉強しているのだろうと葵は思った。

 廊下には雑談に花を咲かせたり、家路に急ぐ生徒の姿が見受けられる。

「アーオーちゃーん!」

 突然そんな平和的な光景を打ち破るかのごとく、背後から葵を呼ぶ声がした。

 続けざまに、葵は背中に物凄く強い衝撃を覚える。

「ぐへっ!!」

 その衝撃で葵は前のめりに倒れた。受身を取るのに失敗して、廊下と激突する。

「うがぁ!!」

「あ、アオくん!!大丈夫!?」

 頭上で奈緒の心配そうな声が聞こえた。

「だ、大丈夫じゃない……」

 鼻をおさえながら、葵はよろよろとした動作で立ち上がって後ろを振り向いた。

 するとそこには、楓がニコニコと笑顔を浮かべながら立っていた。

「アオちゃん、大丈夫?」

「全然大丈夫じゃない!!」

 まったく反省する様子も見せずに、笑いながら尋ねる楓を、葵は睨みつける。そして語気を荒げた。

「一体どーゆーつもりだ!?」

「どーゆーって……ちょっと勢いつきすぎちゃって止まらなかったの。ゴメンね」

 楓は悪びれた様子もなく、ぺこりと頭を下げる。

 葵は大きくため息をついた。

「ゴメンって……だったら体当たりなんかしてくるなよ」

「え~?だって宣言したことは実行しないと……」

「しなくていい!」

 葵は再度、ハァ~っと、深いため息をついた。

 楓にしてみれば軽いスキンシップみたいなものであろうが、葵にとっては迷惑以外何物でもない。

 葵はふと、周りの視線が全部自分達に集中していることに気がついた。

「は、ははは……行くぞ」

 葵は一刻も早くその場を離れようと、歩きだした。

「あ、待ってよアオくん」

「アオちゃん、そんなに急いでどこ行くの?」

 その後を奈緒と楓が早足でついてくる。

 奇異の視線を送っていた野次馬達は興味がなくなると、何事もなかったかのように再び雑談に花を咲かせ始めた。

「まったく……勘弁してくれよ」

「えっ?何を勘弁するの?」

「いや……なんでもない……」

 まったくわかってない楓をみて、葵はため息をつく。

「アオくん、今日はため息ばっかだね」

 その様子を真横で見ていた奈緒が、苦笑しながら葵に話しかけた。

「わかるか奈緒……俺の気苦労が……」

 葵はいかにも疲れきったといった感じで、言葉を返した。

「テストで頭を悩ませ、楓にどつかれ、奈緒のお守りまでしなくちゃいけないなんて……ああ、俺の心は休まる時がないのだろうか……」

「アオくん!!」

 途端に奈緒が両手をグーにしてポカポカたたいてくる。

「冗談に決まってるだろ?冗談が通じないやつだなぁ」

 葵は奈緒の頭を軽くなでた。そして楓を見る。

「そいえば楓、お前はちゃんとテスト勉強してるのか?」

「もっちろん!!」

「へぇ、意外だなぁ。俺はてっきり……」

「してないよ」

「…………」

 続けざまに発せられた楓の言葉を聞いて、葵は無言になる。少しでも楓に対し尊敬の念を抱いた自分が馬鹿らしく思えた。

「どうしたのアオちゃん?」

「いや……随分余裕だなぁ……って思って……」

「だってあたし、勉強嫌いだもーん」

「……そ、そうか……でも、赤点取ったら夏休み返上で補習だぞ?」

「そこなんだよね。問題は」

 楓は表情を変えると、大きくため息をつく。

「お前……去年補習漬けだったのか……」

 葵は同情し、哀れみの眼差しを浮かべながらウンウンと頷いた。

「あたし、補習受けたこと一度もないけど?」

 しかし、またまた想像とは違う答えが楓から返ってくる。

 たまらず葵は楓に尋ねてみた。

「なぁ……楓……」

「なぁにアオちゃん?」

「ちょっと聞きたいんだが……お前って、頭いいのか?」

「うーん……普通じゃないかなぁ?」

 楓は考え込む仕草を見せてから、葵に答えを返す。

「普通……なのか……」

 葵はそれを聞いて、苦笑する。

 とても試験を舐めてるようなその態度は、ある意味賞賛に値した。

 最も、葵も人のことは言えないのだが。

「あーあ。図書室に期末試験の全問題と解答をまとめた本があればいいのになぁ」

 楓は何かを思い出したかのようにそういうと、ガクッと肩を落とした。

 たまらず奈緒が吹き出す。

「えっ?えっ?どうしたの奈緒ちゃん?あたし、何か変なこと言ったかなぁ?」

 楓がキョトンとした様子で奈緒を見る。

「なぁ……楓。お前、女なんだから、もうちょっとおしとやかにした方がいいと思うぞ」

 葵はげんなりした様子で楓に言った。

「そっかなぁ??」

 楓は小首を傾げた。

「……………………」

 葵は閉口する。

 そして、奈緒の笑いは、しばらく止まることはなかった。

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