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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
6月 恋の梅雨前線北上中
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6月 恋の梅雨前線北上中 パート9

 翌朝、葵が目覚めると、時計の時刻は午前6時30分を示していた。

「ヤバ……30分ほど寝過ごしちまったな……」

 どうやら昨夜、目覚ましをセットし忘れたらしい。

 葵は時計を戻すと、ベッドから抜け出しカーテンを開けた。

 真っ青に晴れ上がった青空が視界に飛び込んでくる。

 まるで昨日の天気がウソであるかのような、すっきりとした青空であった。

「いい天気だな……」

 窓を開けて新鮮な空気をとりこんだ葵は、窓を開放したまま着替えもせず部屋を出ると、一階へと降りていった。

 もちろん、自分と姫子の朝食を作るためである。

「姫子のご飯は……また、お粥でいいかな?」

 葵はそんなことを考えながら台所へ入ろうとした。

 ふと、トントントンと、規則正しい包丁の音が聞こえてくる。

「姫子……?」

 葵は不思議に思いながら台所へと入った。

「あっ!?」

 そして意外な人物を目の当たりにし、驚きの声を上げる。

 それは、エプロンを着た奈緒であった。

「あっ、アオくん。おはよう」

 奈緒は手を止め、葵に向かってニッコリ微笑む。

「おはよう……って、何してるんだ?」

「もちろん、朝食作ってるの」

 奈緒は刻んでいた豆腐を味噌汁の中に入れると、おたまで味見をする。

「……うん、バッチリ」

「バッチリ……って、お前なぁ……」

 葵は苦笑すると、椅子に座った。

「勝手に人の家に上がりこむクセ、どうにかならないのか?」

「だって、ボクだって姫子ちゃんのことが心配だったんだもん」

 奈緒が悲しそうに呟く。

「ホント、お前は人がよすぎるよ」

 葵はため息をついた。しかしその表情は笑っていた。

「あ~ら、お二人さん。朝から夫婦喧嘩かしら?」

 そこへ、葵と同じくパジャマ姿の姫子が現れた。

「姫子ちゃん、起きてきて大丈夫?」

 奈緒が心配そうに声をかける。

「はい。一晩眠ったらすっかり元気になりました。紅林先輩、あたしなんかの心配してくださってありがとうございます」

 姫子はぺこりと頭を下げる。

 そして葵の向かい側に腰掛けた。

「ホント、しょうがないやつだな」

 そんな元気になった姫子を見て、葵は笑う。

「ちょっと、何ニヤニヤしてるのよ?気味悪いわね」

 姫子は戸惑いの声を上げた。

「言いたいことがあるなら、はっきりと言いなさいよね?」

「いやぁ、姫たんが元気になってよかったなぁ、って」

「はぁ!?」

「昨日『あたし……死んじゃうかも……』って弱気な発言を連発してたなんて、とても思えんな。うんうん。よくなってよかったよかった」

「ちょ、ちょっと!!あたし、そんなこと一言も言ってないわよ!?それに、その『姫たん』って呼ぶのやめてよね!!」

「そっかぁ?可愛い呼び方だと思うけど……なぁ?奈緒」

「う、うん……」

 突然話題を振られた奈緒は、葵の言葉にコクンと頷く。

 葵はニヤリと笑った。

「みろ。奈緒もああ言ってるじゃないか。おとなしく事実を受け入れろ」

「冗談じゃないわ!!ぜーったい反対!!」

「往生際が悪いやつだなぁ……そうだ。楓に『これからは姫子のこと姫たんって呼べ』って吹き込もうかな?あいつだったら喜んでやりそうだし」

「ちょ、ちょっと!やめてよ!!いくら自分が『アオちゃん』って呼ばれてるからって!!」

 姫子はきつい眼差しで葵のことを睨む。

「……どうやら完全に元気になったようだな」

 葵はそんな姫子の姿を見て、フッと笑った。

「おーい、奈緒。飯まだかぁ?」

 そして奈緒に朝食の用意の催促をする。

「はいはい」

 奈緒はテキパキと手際よく朝食の準備を進めていった。

 あっという間にご飯とおかず、それに味噌汁がテーブルの上に置かれる。

 用意されたのは3人前であった。

「なんだ?奈緒、お前飯食ってこなかったのか?」

「うん。急いでアオくんの家に来たから」

 エプロンを脱いだ奈緒は、そのまま姫子の隣へと座る。

「本当にしょうがないやつだな……」

 葵は苦笑した。

「でもよかったよ。姫子ちゃんが元気になって」

 奈緒はクスッと笑う。

「いやぁ、そんなことないぞ?あのまま病床にしていたほうが、口うるさくなくってよかったかもしれん」

「でもそれだと、アオくんも病気になっちゃうもんね」

「はぁ?なんで俺が?」

「だってアオくん、姫子ちゃんが風邪ひいたおかげでとっても元気なかったもんね」

「バ、バカ!!それは単にお前の気のせいであって……」

「それに、姫子ちゃんから聞いたよ?アオくん、とっても献身的に姫子ちゃんのこと看病してあげたんだって?」

「わわわっ!!く、紅林先輩!!」

 奈緒の言葉に、姫子が慌てふためく。

「お前……そんな余計なことを奈緒に話したのか?」

 葵は姫子を見て、ため息をつく。

「べ、別にいいじゃない!!嘘言ったわけじゃないし!!」

 姫子は顔を真っ赤にしてそっぽを向くと、ご飯をガツガツと食べ始める。

「まったく……しょうがないやつだな」

 葵もご飯を食べ始める。

「いやぁ、やっぱ朝はホカホカの炊き立てご飯に限るよな」

 そして満足そうに頷いた。

「奈緒が作りに来てくれて、ホント助かったよ」

「いえいえ、どういたしまして」

 奈緒も嬉しそうに笑う。

「ホント、奈緒の手料理はいつ食ってもうまいよなぁ」

「そんな、お世辞を言っても何もでないよ?」

「いやいや、姫子の料理とは月とスッポンだ。どうしてこんなに違うのか、正直不思議でしょうがない」

「多分、それは心がけが違うからじゃない?」

 姫子が面白くなさそうに呟く。

「心がけ?」

「だってそうでしょ?好きな人に食べてもらいたいって心をこめて作った料理は、大抵おいしいものよ」

「わわわわわっ!!」

 奈緒は顔を真っ赤にして、うつむいてしまう。

「まったく……奈緒を困らせるようなことを言うんじゃない」

 葵は苦笑しながら姫子を叱った。

「そうそう。奈緒、お前アマリリス亭のケーキ好きだって言ってたよな?」

 そして昨日貰ってきたケーキを思い出し、奈緒に話しかけた。

「うん。好きだけど……」

 奈緒はチラッと視線を上げて葵を見る。

「実はそのアマリリス亭の新作ケーキがあるんだが……お前も食べるか?」

「ええっ!?」

 奈緒は驚きの声を上げた。

 しかし、すぐさま申し訳なさそうにチラッと横目で姫子を見る。

「でも……いいの?姫子ちゃんのなのに……」

「気にしなくってもいいですよ、紅林先輩。どーせあたし独りじゃ食べきれませんから」

 姫子はニコッと笑った。

「ありがと、姫子ちゃん」

 奈緒もニコッと笑う。そして葵を見た。

「やっぱりアオくん、優しいんだね」

「バーカ。そんなんじゃねえよ」

 葵はぶっきらぼうに答えると、味噌汁を勢いよく飲んだ。

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