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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
6月 恋の梅雨前線北上中
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6月 恋の梅雨前線北上中 パート5

 奈緒と別れた葵は、そのまま家に帰るのかと思いきや、一路方向転換して商店街へとやってきていた。

 いつもはそれなりの賑わいを見せている商店街も、今日は雨が降っているためか、あまり活気がなく湿った感じが漂う。

「えーっと……」

 葵はキョロキョロと辺りを見回し、目的の店を探し歩いた。

 『アマリリス亭』。

 それは葵の聞いたことのない店だった。

 奈緒の話によると、最近できた店で、商店街の中にあるらしい。

 商店街の中にあるのだから、歩き回っていればそのうち見つかるだろう、と葵は考えていた。

 雨の降りしきる中、水溜りを避けながら歩いていく。

 人気のあまりない中を、長靴を履いた小さな子供が水溜りで遊んでいる光景が目に留まった。

 楽しそうに水溜りへとジャンプし、着地と同時に水しぶきが高々と飛び上がる。

 葵はなんだか昔の自分を見ているような気がした。

 幼いころから来ている商店街は、今になってもその面影がほとんど変わることなく残っている。

 葵は奈緒と二人で、よくこの商店街に遊びにきていた。

 今日のような雨の日は、水溜りを発見しては足を踏み入れ、泥だらけになって帰宅し、親に叱られ、それでも懲りずに同じことを繰り返す、ということをしていた。

 懐かしいな……

 葵は懐かしさを感じるとともに、寂しさを感じずにはいられなかった。

 過ぎ去ってしまった時間を戻すことは、誰にもできない。

 そして、その思い出ももうすぐ消えてなくなってしまう。

 そう、自分の『死』という不本意な出来事によって……

「あの……どうかしましたか?」

 突然声をかけられた葵は、一瞬肩をビクッと震わせ、現実世界へと引き戻された。

 そして声のする方角を振り向く。

 そこには、葵の見知らぬ少女が立っていた。

 ポニーテールの髪が雨に濡れないように華やかなピンク色の傘を差し、少し困ったような表情を浮かべている。

 葵と同じように高校の制服を着ていたが、それは葵達の清峰学園のものではなく、隣の市にある県立桜ヶ丘高校のものであった。

「ご、ごめんなさい!!驚かすつもりはなかったんですけど……」

 その少女は慌てて申し訳なさそうに頭を下げた。

「あ、いいよ気にしなくっても。ちょっと考え事してただけだから」

 葵は少女の思わぬ態度に苦笑する。

「考え事、ですか?」

 少女は顔を上げると聞き返してきた。

「うん。アマリリス亭ってどこにあるのかなぁって思って……」

「えっ?」

「ああ、いや、その……なんていうか、妹が風邪ひいちゃって。お見舞いに買っていこうかなぁ、って……」

 葵は慌てて補足説明を入れた。

「ああ。なるほど。そういうことですか」

 少女は納得したようにニコッと笑う。

 その少女の微笑みに、葵は胸の高鳴りを覚えずにはいられなかった。

「お優しいんですね」

「い、いや、そんなことないけど……ははは……」

「謙遜なさることないですよ」

 少女はクスクスと笑いながら細く伸びた路地を指差した。

「アマリリス亭でしたら、そこの路地を抜けて裏通りに入っtて、左に曲がったところの右手にありますよ」

「そう?ありがと!」

 葵は少女にお礼を言うと、その場を逃げ出すように退散し路地へとはいっていった。

 そしてホッとため息をつく。

 何故こんな行動をとってしまったのか、自分でもよくわからなかった。

 少女の笑顔が脳裏にしっかりと焼きついて、なかなか消えようとはしない。

 結構かわいい娘だったかも……

 葵はそう思うと、もっと話をしておけばよかったと、少しだけ後悔せずにはいられなかった。

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