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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
6月 恋の梅雨前線北上中
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6月 恋の梅雨前線北上中 パート3

 4時限目の授業が早めに終わり昼食の時間になると、葵は奈緒と一緒に学食へとやってきた。

 スタートダッシュがよかったことも手伝って、学食の中は生徒の姿もまばらである。

「奈緒、お前は何食べるんだ?」

「ボク……Aランチがいいな」

「Aランチだな?それじゃあ、席の確保頼むぞ」

「うん」

 奈緒は頷くと、二人掛けできそうな場所を確保しにいく。

 まだガラガラの学食ではあるが、これが後5分も経たないうちに戦場と化すことを葵はよく知っていた。

 そのため、先に奈緒に席の確保をするように指示を出したのである。

 葵は食券を買うと、カウンターへ行って食券を渡し、目的のものを受け取る。そして、トレイに乗せて奈緒の待つ席へと急いだ。

 奈緒は窓際の2人がけの席を確保し、行儀よく座っている。

「お待たせ」

 葵は持ってきたものをテーブルの上へと置いた。

「早かったねアオくん……あれ?アオくんもAランチ頼んだの?」

 奈緒は意外そうにそのテーブルに置かれたものを見た。

「まあな。たまにはAランチもいいかなって」

 葵はそう答えながら、向かい側の席へと座る。

「エヘヘ……なんだか嬉しいな」

 奈緒は恥ずかしそうに微笑んだ。

 Aランチとはこの清峰学園学生食堂の人気メニューのひとつで、オムライス、キャベツのせん切り、コンソメスープ、それにデザート一品がついている。

 安い値段でおいしく、量は少なめであるが、逆にそれが女子生徒達の評判を集めている。

「あっ」

 突然、奈緒が声を上げた。

「どうしたんだ?」

「デザート、やきいもプリンじゃなくなっちゃったんだ?」

「ああ。そうみたいだな」

「ボク、やきいもプリンの方が好きだったのになぁ……」

 奈緒がそのデザートを見ながら悲しそうに呟く。

「なんだ?にんじんゼリー食いたくないのか?じゃあ俺が貰ってやろう」

 それを聞いた葵が、奈緒のトレイに手を伸ばす。

「わわわっ!!だ、ダメダメ!!」

 奈緒は慌ててにんじんゼリーを両手で覆い隠した。

「どうした?食べたくないんだろ?」

「ボク、そんなこと一言も言ってないもん!!」

「でもお前、ニンジン嫌いだろ?昔よく、俺に『食べて』ってせがんでたもんな」

「それは昔の話だよぉ!!今はちゃんと食べられるもん!!」

「そうなのか?でもまぁ、よく言うじゃないか。『俺の物はお前の物。お前の物も俺の物』って」

「それを言うなら『俺の物はお前の物、お前の物は俺の物』だよっ!」

「なんだ。ちゃんとわかってるじゃないか。というわけで、俺のキャベツをやるから、お前のにんじんゼリーよこせ」

「ぜーったいイヤッ!!」

 奈緒はさらにガードを堅くし頑なに拒絶する。

「まったくケチだな。たかがにんじんゼリー1個くらいで。卑しい奴め」

「卑しいのはアオくんのほうだもん!!」

 奈緒は語気を強め、葵を睨む。

 しかし葵は、そんな奈緒の様子に気をとめることもなく、彼女の面白い表情変化を楽しんでいた。

「そんな顔したって、俺のオムライスはやらないぞ?」

「ほしくないもん!!」

「まぁ、あげたくっても腹ペコの状態だからやることはできないけど。というわけで。いっただきまーす」

 葵はスプーンを手に取ると、オムライスに手をつけた。

「そんなに急いで食べることないのに……ボクも、いただきます」

 奈緒もスプーンを手に取ると、オムライスを食べ始める。

「どうだ?久しぶりの学食の味は?」

「うん、おいしいよ。こんなにおいしい料理だから、いつも混むんだよね」

 奈緒はそう言って周囲を見回した。

 いつのまにか学食の中は生徒の波であふれ、席の取り合いやパンの奪い合いなど、戦場と化している。

 先ほどの静寂がまるでうそのように、にぎやかで喧騒の雰囲気に包まれている。

「いつみてもすごい光景だよね」

「ちょっと遅ければ、俺達がああなってたかもしれないんだけどな」

「そうだよね。早く授業終わらせてくれた先生には感謝しなくっちゃ」

「しかしまぁ……今日の混雑はそれだけが理由じゃないと思うけど……」

 葵は窓の外へと視線を移した。

 薄暗い空間の中を、雨が降り続ける。

「姫子ちゃん……寂しくないかなぁ……」

 奈緒がポツリと呟いた。

「お前……まだ姫子のこと気にしてたのか?」

「だって……やっぱりボク、心配だよ。アオくんは心配じゃないの?」

「心配ない。まったく、奈緒の心配性は病気だな」

「そんなことないもん。でも……」

 奈緒は口をつぐむと、黙って雨の降りしきる様子をじっと眺める。

「まったくしょうがないやつだな……」

 葵はため息をつくと、奈緒と同じく外の様子をじっと眺めた。

 雨が降り止む様子はまったくなかった。

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