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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
6月 恋の梅雨前線北上中
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6月 恋の梅雨前線北上中 パート2

 全速力で走った葵は、何とか遅刻せずに教室に滑り込むことに成功した。

「ぜーぜーぜー……」

 喧騒の渦巻く中、息を切らせながら席に座ると、早速奈緒が葵の席へとやってくる。

「アオくん……大丈夫?とっても苦しそうだけど」

「ぜ、全然大丈夫じゃない……」

 葵は机に突っ伏したまま答えた。

「朝から災難続きだ……まったく、奈緒、お前のせいだ」

「えっ?ボ、ボクの?」

「そうだぞ。お前が起こしに来てくれないから、おかげで寝坊して遅刻しそうになったんだぞ。わかってるのか?」

「ご、ゴメン……ボクも今日は寝坊しちゃって……」

 奈緒は申し訳なさそうに言う。

 葵はそんな自分の責任のように感じている少女の言葉を聞くと、深くため息をついて机から顔を上げた。そして椅子の背もたれに寄りかかって、奈緒を見る。

「まったく……何謝ってるんだよ。お前は?」

「えっ?だ、だって……」

「遅刻しそうになったのは俺の責任であって、お前の責任なんかじゃねーよ。何でもかんでも謝るな、バカ」

「ご、ゴメン……」

「ほら、また謝ったぞ」

「あっ……ホントだ。エヘヘ」

 奈緒の顔から笑みがこぼれる。

 葵はやれやれといった表情を作ると、天井を見上げた。

「しっかし、本当に今日は災難な朝だったな。目覚ましはセットし忘れるし、雨は降ってるし、姫子は風邪で倒れるし、遅刻しそうになるし……」

「ええっ!?」

 奈緒が驚きの声を上げる。そして心配そうな表情を作った。

「姫子ちゃん倒れたの!?大丈夫!?」

「大丈夫だって。奈緒は大袈裟だな。あいつはゴキブリ並みの生命力を持ってるから心配いらないって」

「で、でも……独りじゃ寂しくないかな?お見舞いに行ってあげたほうが……」

「奈緒は心配しすぎ。姫子は奈緒みたいな寂しがりやじゃないよ」

「アオくんは心配じゃないの?」

「全然心配じゃない。今頃テレビゲームでもやってるんじゃねえの?学校サボれてラッキーだって思いながら」

「そうかなぁ……ボクはそんなことないと思うけど……」

「そんなに姫子の心配だったら、俺の心配をしてくれ」

「えっ?」

 奈緒は思いがけない言葉にキョトンとする。

「実はだな、朝食べてこなかったおかげで空腹で今にも倒れそうなんだ」

「うん」

「というわけで、早弁するからお前の弁当よこせ」

「イヤ」

 わざとらしく辛そうな表情を作って喋る葵に、奈緒の冷たい一言が突き刺さる。

「そんなの自業自得じゃないか。そんなに元気だったら大丈夫だよ」

「なんだと?お前には、俺のこの危機的な状況がわからないのか?」

「わからないもん。それに、ボク今日お弁当持ってきてないし」

「えっ?」

「だから、アオくんにお弁当あげることできないんだ。ゴメンね」

「奈緒が弁当忘れた?それでこんなに大雨が降ったり、姫子が風邪ひいたりしたのか……」

「アオくん!」

 奈緒は葵をにらむが、すぐに穏和な表情に戻る。

「でも、今日のお昼は一緒に学食だね」

「はあ?」

「ボク楽しみだなぁ。あっ、先生来ちゃった。それじゃあね、アオくん」

「ちょ、ちょっ……奈緒……」

 奈緒は嬉しそうにそう言い残すと、自分の席へと戻っていく。

「なんだそりゃ……」

 葵は苦笑しながら奈緒を眺めた。

 葵が奈緒と学食に行くことは滅多にない。

 奈緒は大抵弁当を持参しているので、二人で一緒にお昼を食べるときは、葵が購買でパンを買ってきたり、奈緒が作ってきたりするからだ。

 ひょっとしたら意図的に弁当を忘れてきたのかも……

 奈緒の嬉しそうな表情を見ると、葵はそう思わずにはいられなかった。

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