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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
4月 回り始めた運命の歯車
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4月 回り始めた運命の歯車 パート1

 喧騒な雰囲気に包まれた中で、神津葵こうずあおいは目を覚ました。

 全身が倦怠感に襲われ、脂汗が吹き出し、呼吸音も荒い。

 葵は大きく深呼吸をした。

 徐々に心臓の鼓動が落ち着きを取り戻していく。

 葵は椅子の背にもたれると、天井を見上げた。

 これで何度目だろう。

 葵は最近になって、この不思議な夢をよく見るようになっていた。

 何故こんな夢を見なければならないのか、心当たりがまったくない。

 その夢は、決まって大きなリボンを結んだ長髪の少女が出てきて、葵に死期を告げるという、なんとも不吉なものであった。

 最初は気にもとめなかった葵ではあったが、流石にこう何度も続くと精神的に辛く、おかげでこの夢を見た後は、ただ疲れが残るという日々が続いていた。

 私立清峰学園高等学校の2年生である葵は、両親が仕事で海外に行っているため、現在一人暮らしを送っている。その精神的負担が今ごろになって一気にきたのかもしれないということで、一応自分自身を納得させるようにしていた。

「ふぅ……」

 葵はもう一度大きく深呼吸をして、周囲を見まわした。

 周りの生徒達は楽しそうに談笑したり、いそいそと帰り支度を始めたり、部活へ行く準備をしていたりする。

 その中に、葵は自分のことを心配そうに見つめる少女がいるのを発見した。

 しかも運が悪いことに、視線が重なり合ってしまう。

 葵は慌てて視線をそらそうとしたが、少女は友人に一言二言言って席を立ちあがると、彼の元へとやってきた。

「アオくん……大丈夫?」

 そして心配そうに声をかけてくる。

「大丈夫だよ」

 葵はぶっきらぼうに答えながら、その少女をみた。

 ショートカットの髪に、少し童顔気味なかわいらしい顔立ち。

 少し控えめの胸元には2年生の学年を現すオレンジ色のリボンを結んでいる。

 それは昔から見慣れた、よく知っている少女だった。

「よかった……なんだかうなされてたみたいだから、ちょっと心配しちゃった」

 少女はその答えを聞くとホッと胸をなでおろし、にこやかに微笑んだ。

「お前は心配しすぎなんだ。奈緒」

 まるで自分のことのように心配する少女を見て、葵は思わず苦笑する。

 紅林奈緒くればやしなおは葵と同じ清峰学園2年A組の生徒であると同時に、葵の幼馴染でもあった。何かと世話を焼きたがるところがあり、一人暮らしの葵の家へ料理を作りにきたり、遅刻しないようにと朝早くに起こしに来てくれたりする。

 おかげで周りからはカップルと間違えられ、冷やかされることがしばしばあった。

 その度に葵は否定してきたのだが、それがかえって逆効果の結果を生み出すことになってしまっていたので、今では無視するか軽く受け流す程度の対応を取るようにしている。

「さて……と」

 葵は席から立ちあがると、鞄をとった。

「そろそろ帰るかな」

「あっ、じゃあボクも」

 葵の行動に、奈緒も自分の席へと戻って鞄を持ってくる。

 二人はクラスメートに軽く挨拶すると、そのまま教室を出ていった。

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