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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
6月 恋の梅雨前線北上中
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6月 恋の梅雨前線北上中 パート1

 無限に広がる漆黒の闇の中を、葵は走っていた。

 何も見えない。

 何も聞こえない。

 何故自分がここにいるのか、ここがどこなのかもわからない。

 それでも葵は暗闇の中を、ただひたすら走り続けた。

 まるで一筋の光を求めるかのように。

 まるでそれが生きるための術であるかのように。

 足を止めてしまえば、そこで全てが終わってしまう。

 何故かはわからないが、そんな気がした。

 果たして出口が見つかるのだろうか?

 俺はここから抜け出せるのだろうか?

 葵の心の中に恐怖や不安が芽生え、どんどん増幅していく。

 そして、その闇が自分の身体にのしかかるかのように、身体が重くなっていく。

 だが、葵が足を休めることはなかった。

 出口を目指して。

 希望の光を求めて。

 しかし――

 突如、葵の足元が音もなく崩れ落ちた。

「うわぁぁぁぁぁっ!!」

 葵の声は闇の中へと吸い込まれていき、なす術もなく下へ下へと落下していく。

 『絶望』という名の、底なしの闇へと……

「!!」

 気がつくと、葵は起き上がっていた。

 まるで激しい運動をした直後であるかのように、心臓がドキドキし、呼吸も激しい。身体全身から汗が吹き出ている。

「……夢……?」

 葵は周りを見回した。

 そこにはいつもの見慣れた風景が広がっている。

 葵はここが自分の部屋であることを確認すると、大きく息を吐き出した。

 それは久しぶりに見た悪夢であった。

 姫子が来てからというもの、しばらくおさまってはいたのだが、やはり見て気分のいいものではない。

 死が一歩一歩確実に迫っていることを、嫌でも実感させられる。

「……最悪な一日の始まりだな」

 葵はため息をつくと、時計を手に取った。時計の針は、午前8時を過ぎていた。

「げっ!!」

 葵はそれを見るや、慌てて飛び起きた。

 いつも起きる時刻よりも1時間以上も遅い。

 寝る前にセットし忘れたのか、いつの間にかアラームが解除されていた。

「やべっ!!遅刻だ!!」

 葵は慌てて飛び起きると、窓のカーテンを勢いよく開けた。

 外の世界はまだ薄暗く、空はどんよりと厚い灰色の雲で覆われており、大きな雨粒が落ちている。

「本当に最悪だな……」

 葵は急いで着替えると、カバンを持って部屋を飛び出した。大慌てで階段を駆け下りる。

 もはや朝食を食べている時間など残されていない。

「姫子の奴……起こしてくれてもいいのに……」

 今日の食事当番は姫子の番であった。

 そのため一人で朝食を済ませ、さっさと学校へいってしまったと、葵は考えた。

 いくら一緒に暮らしているとはいえ、葵と姫子の間には、どこかぎこちないものがある。

 死神と人間という関係を考えればそれはむしろ正常なことなのかもしれないが、それでも葵は姫子に少し腹を立てずにはいられなかった。

「あれ……?」

 玄関で靴を履こうとした葵は、ふと姫子の靴がまだあることに気がついた。

「姫子の奴……ひょっとしてまだ寝てるのか?」

 葵は靴を履くのをやめて、後ろを振り返った。

 二階からは誰も降りてくる様子がない。

 静まり返った家の中からは物音ひとつせず、外から雨の音が静かに聞こえてくる。

「……しょうがねーやつだな……」

 葵は頭をかくと、階段を上がって二階へと戻っていき、姫子の部屋へと向かった。

「おーい、姫子。起きてるか?」

 葵はノックをせずにドアを開けた。

 女の子らしい淡い装飾が施された部屋の中、机に向かってかばんに教科書やノートを入れてる姫子の姿がある。

「ちょ、ちょっと!!何勝手に人の部屋に入って来てるのよ!!ノックもしないで!!」

 姫子は葵の存在に気がつくと、彼をキッと睨んだ。

 しかし、その姿にいつもの威圧するような迫力が感じられない。

 葵が姫子の異変に気がつくまでに、そう時間はかからなかった。

「お前……随分と顔が赤いぞ?大丈夫か?」

「だ、大丈夫に決まって……ゴホッゴホッ!!」

 反論しかけた姫子は激しく咳きこんだ。

 それを見た葵は、心配するかと思いきや、逆に意地悪く笑う。

「風邪でもひいたのか?死神のくせに」

「な、何よ!!死神が風邪ひいちゃ悪いの!?」

「ああ。悪い」

 葵は腕組みをして、姫子を見下すような態度を取った。

「いいか?お前が半人前だから風邪なんかひくんだ。普段の生活がたるんでる証拠だ!」

「な、なんですってぇ!!?大体、あんたなんかに、ゲホゲホッ!!」

「苦しいか?まぁ、俺の苦しみに比べたらお前の苦しみなんて、所詮砂漠に舞う一粒の砂塵のようなものだけどな」

「くっ……!!」

 姫子は目をつり上げて葵を睨む。

「今日はおとなしく寝てるんだな。看病はしてやらないけど」

「だーれがあんたなんかに!!」

「それじゃあ、俺は学校に行くから」

 葵は勝ち誇りながら姫子の部屋を後にした。

 いいようのない満足感とわずかばかりの罪悪感が心の中に芽生えて体中を駆け巡る。

「そうさ……もっともっと苦しめばいいんだ……」

 葵はチラッと姫子の部屋を見遣ると、そのまま無言で学校へと向かった。

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