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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
5月 木漏れ日の公園
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5月 木漏れ日の公園 パート9

 千亜希と別れ、散策を続けていた葵達は、小高い丘の上へとやってきていた。

 いつしか空は茜色に染まり、西に傾きかけた夕陽が赤々と輝いている。

「ふぅ……今日は疲れたなぁ……」

 葵は草むらの上にドカッと腰を下ろした。

「ボクは結構楽しかったけどね。ね、姫子ちゃん?」

「うん。あたしもお姉ちゃんと一緒で楽しかったよ」

 奈緒と姫子も、草むらに腰を下ろし、微笑みあう。

 そのまましばらく、三人は無言のまま、眼下に広がる街の景色を眺めていた。

 夕陽をいっぱいに浴びた街が、オレンジ色に染まって儚い雰囲気を漂わせている。

「ねぇ、アオくん。覚えてる?」

 奈緒がおもむろに口を開いた。

「覚えてるって、何を?」

「ボク達が、初めてここに来たときのこと」

「ああ、覚えてるよ」

「あの時も、こんな風に夕陽に染まった街の景色を眺めていたよね」

「ああ、そうだな」

 奈緒の言葉に、葵は懐かしさいっぱいの気持ちで昔のことを思い出していた。

 初めて来た公園。

 初めて見た街の景色。

 初めて覚えた感動。

 嬉しそうにはしゃぎまわる幼馴染の姿。

 楽しそうに笑う幼き日の自分……

 何もかもが懐かしかった。

 いつしか時は流れ、あんなに小さかった奈緒がこんなに大きく成長している。

 それは奈緒と一緒に過ごした時間が、如何に長いかを物語っていた。

 俺と奈緒の付き合いも、随分と長いものになるんだな……でも……

 葵はそう思うと、だんだんと寂しい気持ちがこみ上げていった。

「ホント、懐かしいよね」

「そうだな……」

「どうしたのアオくん?元気ないようだけど……?」

「あっ、いや、なんでもない……」

 葵は奈緒に心配をかけまいと、無理に笑顔を作る。

 その様子を姫子が無言のまま見つめていた。

「変なアオくん」

 奈緒はそう言うと、再び視線を夕陽の染まった街の景色へと戻す。

「昔はこーやってよくやったよね。あそこがアオくんの家で、あそこがボクの家だとか」

「そうだな。駅の時計台を教会だって言い張った奈緒には、流石に面白くて言葉が返せなかったけど」

「だって、あの時は本当に、教会だと思ったんだもん!!」

 奈緒が恥ずかしそうに頬を膨らませ、反論する。

「ああ、そうだな」

 葵はハハハと笑った。

「ボク、何かおかしなこと言った?」

 奈緒が不思議そうに葵に尋ねる。

「いやぁ、昔とちっとも変わってないんだなぁ、って思って」

「そうかな?」

「そうだよ。意地っ張りなところとか」

「ボク、意地っ張りなんかじゃないもん!!それ言ったらアオくんだってちっとも変わってないよ!!」

「俺がぁ?」

「そうだよ。その意地悪なところ、ちっとも変わってないもん!」

「それは奈緒の気のせいじゃないか?俺はとっても優しくなったような気がするぞ?」

「気のせいなんかじゃないもん!!」

 奈緒はムスッと、ますます頬を膨らませた。

「お兄ちゃんもお姉ちゃんも、昔からとっても仲がいいのね」

 姫子がにやけながら口を挟む。

「バカ言え。そんなことあるわけないだろうが」

 葵は即座に否定した。

「奈緒は昔からどーでもいいことだけは覚えてる変な癖があるからなぁ……」

「そんなことないもん」

「いいや。その変な癖は早く直した方がいい。そんな昔のことなんか、さっさと忘れちまえよ」

「無理だよ」

 奈緒はクスッと笑うと、空を見上げた。

「だってボクの思い出は、この茜色の宝石箱の中にしっかりとしまってあるから、捨てるとこなんてできないよ」

「奈緒……」

 葵はそれ以上何も言おうとはせず、無言のまま空を見上げる。

 そして小さく呟いた。

「ありがとな、奈緒」

「えっ?」

 奈緒は葵を見たが、葵は無言のまま空を見上げている。

「変なアオくん」

 奈緒も聞き返そうとはせずに、再び空を見上げた。

 陽が沈みかけた夕焼け空は、悲しいほどに儚い茜色に染まっていた。

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