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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
5月 木漏れ日の公園
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5月 木漏れ日の公園 パート6

 奈緒の家を後にした二人は、商店街へとやってきていた。

 日曜のお昼時ということもあって、商店街はかなり活気に満ち溢れている。

「ほら、ここが商店街だ。ここで夕食の材料を買ったりだな……」

「そんなの見ればわかるわよ。あたしだって何回もここに来てるんだから」

 葵の説明に対し、姫子はそっけない答えを返す。

「あのなぁ……」

 葵は姫子の態度に、ただただ苦笑するしかなかった。

 町の中を案内してくれと言い出したのは姫子のほうだ。

 しかし葵が案内しようとしても、姫子はそっけない態度を取り続ける。

 もっとも、別の、真に隠された意図を葵は既に見抜いていたのだが。

「コホン……」

 葵は軽く咳払いをすると、姫子の隣にいる少女を見た。

「……で、なんでお前が一緒にいるんだ?」

「えっ?だって暇だったから……ボクがついて来ちゃ、迷惑だったかな?」

 その人物、奈緒が少し悲しげな表情を見せる。

「そんなことないよお姉ちゃん。お兄ちゃんはあんな意地悪なこと言ってるけど、あたしもお姉ちゃんと来たかったから」

「ホント?ありがとう姫子ちゃん。えへへ……」

 しかしすぐさま入る姫子のフォローに、奈緒の表情は再び緩んだ。

「……ったく、何ニヤけてるんだよ。俺まで恥ずかしいだろうが」

 葵ははぁっと深くため息をついた。すると、奈緒がムッと葵を睨む。

「アオくんにはわからないんだよ!!ボクのこの嬉しさが!!」

「嬉しさだぁ?」

「そうだよ。だって昨日アオくんボクが誘っても素っ気ない態度だったのに、今日姫子ちゃん連れて遊びに来てくれんだもん。しかも姫子ちゃんはボクのことお姉ちゃんって呼んでくれるし」

 そう言うと、奈緒の表情がどんどん緩んでいく。

「だからボク、とっても嬉しいんだよ」

「それはよかったな……」

 奈緒の幸せそうな表情を見て、葵は何も言う気にはなれなかった。

 姫子の真の目的、それは自分と奈緒をデートさせることだ、と葵は考えていた。

 事実、姫子はその目的を達成するための手段を遂行している。

 しかし誤算だったのは、奈緒がここまで姫子のことを慕っていたことであろう。

 故に姫子の計画は変更を余儀なくされているようであった。

 当初の計画ではおそらく二人を商店街へと連れていき、そして姫子はそのまま姿を消すということであったのだろうが、幸せいっぱいの奈緒を見て、それができない様子であった。

 現に姫子は、奈緒を見て複雑な表情を浮かべている。

「ホントにしょうがないやつだなぁ……」

 葵は独り言を呟き、辺りを見回した。

 ふと、見慣れた人物が視界に入ってくる。

 その少女は艶やかな長い黒髪をなびかせ、どこか優しく大人びた、しかしながら儚げな雰囲気を漂わせている。

 少女の方も葵達の存在に気がついて、近寄ってきた。

「こんにちわ、葵さん」

 そして葵の前までやってくると、優しく微笑む。

「こんにちわ、沙夜先輩。珍しいねこんなところで会うなんて」

 葵も、沙夜に挨拶を返した。

「ここにはよく来るの?」

「はい。この商店街には何でもそろってますし、それに私、にぎやかなところって好きですので」

「へぇ~。そうなんだ。それは意外だな」

「どうしてですか?」

「だって沙夜先輩って、とってもおとなしそうに見えるから、もっと物静かなところが好きかと思った」

「クスッ。葵さん、人を外見で判断するのはよくありませんよ」

 沙夜は笑いながら葵の横にいる少女達を見る。

 ふと、沙夜の視線がとまり、顔つきが急に険しいものになった。

「葵さん……その方は?」

「えっ?」

 葵は戸惑いを覚えながらも、沙夜の視線の先に姫子がいることを確認すると、彼女のことを紹介した。

「こいつは虹沢姫子。まぁ、俺の妹みたいなもんだけど……それがどうかしたの?」

「いえ……別に……」

 恐い表情のまま沙夜は姫子を睨みつける。

 姫子も先程までの笑顔は消え、同じく険しい顔つきになっていた。

 しばらく沈黙の時が流れる。

「あの……先輩?」

「……それでは、私はこの辺で失礼させていただきます」

「えっ?」

 沙夜はそれだけ言い残すと、姫子と目をあわせようともせずに、その場を立ち去っていった。

「なんだったんだ一体……?」

 沙夜の不可解な行動に、葵と奈緒は互いに顔を見合わせ首を傾げあった。

 ただ独り、姫子だけが険しい顔つきのまま何かを考えてるのか微動だにしない。

「……どうしたの姫子ちゃん?」

「……………………」

「姫子ちゃん?」

「えっ!?」

 奈緒の呼びかけに、まるで魔法が解けたかのように、姫子は急に我に返った。

「どうしたの?そんな恐い顔して」

「あ、ううん、なんでもないよ、お姉ちゃん。あはは」

 姫子は先程まで見せていた笑顔を浮かべる。

 それは明らかに作り物の笑顔であるということが、葵にも奈緒にもはっきりとわかった。

 先程の沙夜と姫子のただならぬ様子を見てしまえば無理もない。

 それでも葵には、その原因が自分にあるということは、うすうす感じていた。

 無理もない。死神と巫女。仲良くしろという方が無理である。

 少しだけ気まずい空気が流れる。

「そう言えばもうお昼なんだよな。どこで食べる?」

 葵は雰囲気を変えようと、二人に尋ねた。

「ポッテリアでいいんじゃないかな?」

「あたしもポッテでいい」

 奈緒と姫子は、そろってファーストフード店を指名する。

「そっか。それじゃあ……」

「ポッテリアで決まりですね」

「ああ、そうだな……えっ?」

 突然割り込んできた声に、葵は後ろを振り返る。

「えへへ……こーんにちわ、センパイ」

「あっ!?」

 葵はその見慣れた少女を見て、思わず声を上げた。

 いつのまにか、ニコニコ笑顔を浮かべた鈴歌と、恥ずかしそうにしている萌が、3人の後ろに立っていたのだ。

「いつの間に……」

「まーまー。いいじゃないですか」

 鈴歌は気にするなと言わんばかりに話す。

「それよりも先輩達、これからお昼にするんでしょ?あたし達もご一緒していいですか?」

「えっ?」

 鈴歌の申し出に、葵は奈緒と姫子を見た。

「ボクはいいよ。にぎやかな方が楽しいもん」

「あたしもかまわないわよ」

 二人ともあっさりと承諾する。

「……だそうだ。俺も別にかまわないから」

「本当ですか!?やったー!!よかったね、萌!!」

 鈴歌は葵の言葉を聞いて喜ぶと、萌に同意を求める。

「う、うん……」

 萌は恥ずかしそうに頷いた。

 そして5人は、ファーストフード店へと向かうのであった。

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