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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
5月 木漏れ日の公園
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5月 木漏れ日の公園 パート5

 葵と姫子は奈緒に連れられ、2階にある彼女の部屋へと案内された。

 奈緒の部屋は綺麗に整頓されてあり、犬のヌイグルミがたんすの上に行儀よく座っている。

「ここがお姉ちゃんの部屋なんだぁ……」

「えへへ……ちょっと散らかってるけどね」

「そんなことないよ。お兄ちゃんの部屋よりすっごく綺麗」

「仕方ないよ。アオくん、散らかすこと大好きだから」

 奈緒と姫子は和気藹々とした会話を続ける。

 葵はそんな二人の様子を呆れながら眺めていた。

「まったく……姫子、その辺にしておいた方がいいぞ。そんないい子ぶっても所詮付け焼刃に過ぎん。化けの皮が剥がれるのも時間の問題だ」

「えーん!お姉ちゃん、お兄ちゃんがイジメるよ~」

「アオくん!!姫子ちゃんいじめちゃダメ!!」

 葵の言葉に、姫子はすぐに奈緒に助けを求め、後ろに身を隠すように回り込む。そして奈緒は葵を叱った。当然、姫子はしたり顔で葵を見ている。

「あー、はいはい。俺が悪かった悪かった」

 葵はまったく気持ちがこもってない謝罪をした。そして床に腰掛けた。

 奈緒の部屋に来るのは随分久しぶりのことになるが、これといって特に変わった様子はなかった。

 窓から入り込む暖かい陽の日差しが、女の子らしい奈緒の部屋を、さらに柔らかい雰囲気に包み込む。

「しばらくぶりにきたけど、変わってないなぁこの部屋も」

「ボク、このレイアウトが気に入ってるから」

 小さなテーブルを囲んで葵の対面に座った奈緒が、苦笑しながら答える。

 一方、葵の斜め横に座った姫子は何かを考え込む仕草を見せると、独りウンウン頷く。

「どうしたんだ姫子?さっきからニヤニヤしやがって」

 どうせまたよからぬことをたくらんでいるのだろうと思いつつも、葵は姫子に言葉をかけた。

「だって、お兄ちゃんこの部屋に遊びにきたら、やっぱりお姉ちゃんのベッドでゴロゴロするのかなぁ、って思って」

「はぁ!?」

「ええっ!?」

 案の定とんでもない言葉を口走る姫子に、二人はそろって声を上げる。

「そんなことするかっ!!」

「そそそそ、そうだよぉ!!姫子ちゃん変なこと言わないでよっ!!」

「えっ?しないの?なぁんだ」

 姫子はつまらなそうに呟く。しかしその表情からは、あからさまに葵と奈緒をくっつけようという意思が、ありありと窺えた。

 そういう事となれば葵も黙ってるわけにはいかない。すぐに姫子に反撃した。

「まったく、俺の部屋に入ってくるなりベッドでゴロゴロするお前と一緒にするな」

「なっ!!」

 今度は姫子の表情が変わる。

「誰がそんなことするのよ!!誰が!?」

「恥ずかしがることなんかないぞ?いつもやってるじゃないか。『お兄ちゃんの布団ってあったかーい』って」

「そんな気持ちの悪いこと、頼まれたってぜーったい、やらないわよっ!!」

 姫子は今にも襲い掛からんばかりの殺気を放ちながら葵を睨む。

「ふ、二人ともケンカはダメだよぉ!!」

 奈緒が慌てて止めにはいった。

「見ただろ奈緒?これがこいつの本性だ」

 しかし、葵はしたり顔で姫子を指差す。

「これでわかっただろ?奈緒、騙されるんじゃない。こいつは可愛げなんかまったくない、冷徹な奴なんだ」

「なっ……!!」

「わかってないのはアオくんのほうだよ」

 姫子の言葉をさえぎるかのように、奈緒が静かに言った。

「お前……今の姫子見てなったのか?」

 葵は信じられないといった表情で奈緒を見る。

「ちゃんと見てたよ。でも、アオくんはちっとも姫子ちゃんのことわかってないよ」

「はぁ?」

「だって姫子ちゃん、とっても素直で優しい女の子なのに、そんなこと言ったらかわいそうだよ」

「こいつが素直で優しい?冗談だろ?」

「本気だよ。ボクにはわかるもん」

 そして奈緒は微笑むと、姫子を見た。

「ねっ?」

「お姉ちゃん……」

 姫子は言葉につまり、表情が少し曇る。

 おそらく奈緒に対しての罪悪感からだろうと葵は思った。

「でも羨ましいなぁ。アオくんと姫子ちゃんは仲がよくって」

 奈緒は心底羨ましそうにため息をついた。

「俺と姫子が仲がいい?冗談きついぜ」

「そ、そうよお姉ちゃん。だーれがこんな奴なんかと……」

「でも、ボクから見ればとっても仲がいいように見えるよ」

 奈緒はそう言って笑う。

「だから、ボクのこと、今日だけじゃなくってずっとお姉ちゃんって呼んでいいからね」

 そして、ニコニコしながら姫子に言った。

「え、えっと……あはは……」

 奈緒のめちゃくちゃな理論に姫子は苦笑しながらごまかす。

「あーあ、ケンカするほど仲がいいって言うけど、ホントうらやましいなぁ」

 奈緒は再度ため息をついた。

「でも、仲がいいからって、『悪魔』とか『死神』とか言うのはちょっとどうかなって思うけど」

「な、なにぃ!?」

「えっ!?」

 奈緒の言葉に、葵と姫子の表情は蒼ざめた。先ほどの口喧嘩が、しっかりと奈緒の耳にも入っていたのだ。

「あっ、いやぁ、悪かったよ。今度からはそんな言葉は使わないようにするよ」

「そ、そうだねお兄ちゃん。あたしも気をつけるようにするから」

 二人はすぐさま真意を悟られないようにと誤魔化す。

「あ、あれ、何?お姉ちゃん」

 そして姫子が機転を利かせ、とっさにタンスの上にあるものを指差した。

「あ、あれね」

 奈緒は恥ずかしそうに笑うと、立ち上がった。

 姫子は適当に指を差しただけであったのだが、どうやら奈緒は姫子がそれに興味を示したと勘違いしたらしい。

 タンスの上から姫子の指差したものを大事そうに取ると、それをテーブルの上へ置いて座る。

「あっ!?」

 その見覚えのある物体に、葵は思わず声を上げた。

 奈緒がテーブルに置いた物、それは大きな林檎の形をした真っ赤な容器であった。

 蓋と箱の接着部分と思われるところに透明なテープが張られており、中が開かないようにしっかり封印されている。

 そして、へたの近くに何かを入れるための穴が真一文字に開けられている。

「あの……お姉ちゃん、これは何?」

「これはね、アオくんから初めて貰ったプレゼントなんだよ」

 奈緒は嬉しそうにいった。

「えっ?お兄ちゃんが?」

 姫子は興味津々といった様子で葵を見る。

「違う違う。それはプレゼントなんかじゃなくって、ただの駅弁の容器だ」

 しかし葵は首を横に振った。

「どういうこと?」

 姫子が葵に尋ねる。

「アレはそう……もう10年くらい前になるのかな?」

 葵は昔を懐かしむかのような視線でポツリポツリと語り始めた。

「当時、俺の家族と奈緒の家族が一緒に旅行に行くことになってよ。それで電車に乗ったわけだ」

「うん」

「そしたら奈緒の奴が、最初はおとなしかったものの急にぐずりはじめてな、それで俺がその林檎弁当を奈緒に与えてやったわけだ」

「それで?」

「そしたら、奈緒のやつ喜んでな。おなかいっぱいお弁当食べて、よだれたらしながら眠ってしまったと」

「『よだれたらしながら』は余計だよっ!!」

 すかさず奈緒が抗議の声を上げる。

「まぁ、この弁当の利点は、食べ終わった後の容器が貯金箱になる、ってことなんだけどな」

「へぇ~……そうだったんだ……」

 話を聞いた姫子は、その駅弁の容器を面白そうに眺めた。

「まったく……こんなもんいつまでもとっておきやがって……」

 葵は苦笑しながら奈緒を見る。

「もっといい貯金箱はいくらでもあるだろ?さっさと捨てちまえよこんなもん」

「イヤだもんっ!!」

 奈緒は即座に反対する。

「だってこの中にはボクの思い出がいっぱい詰まってるんだもん。だから捨てることなんてできないよ」

「思い出、ねえ……」

 奈緒にそう言われて葵も容器を見る。

 貯金箱と化した林檎弁当の容器は、まるで沈み行く夕陽のように赤々と輝いていた。

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