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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
5月 木漏れ日の公園
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5月 木漏れ日の公園 パート3

「はい、できたよアオくん」

 制服の上からエプロンを着た奈緒が、焼きたてのケーキを運んできた。

「なんだ……ご馳走してくれるって言うから楽しみにしてたっていうのに……ケーキかよ」

 ソファーに寝そべっている葵はガッカリしたように答える。

「ケーキだって立派な料理の1つだよ」

「そりゃそうだけどさ……」

「大丈夫。これ食べればアオくんだってきっと、ケーキを好きになるよ」

「そうかぁ?」

「そうだよ。だから、ボクが食べさせてあげる」

「はぁ?」

 奈緒はニコニコしたままケーキを持ち上げると、勢いよく葵の顔に押し付けた。

「むごっ!!」

 突然の出来事に葵は成すすべがなかった。

「ほら、これでもまだそうしてるつもり?」

 いつの間にか声が奈緒から姫子のものへと変わっていた。

「むががっ!!」

 呼吸ができず、葵はじたばたもがき苦しむ。

「もぅ、さっさと起きなさい!!葵!!」

「!!」

 葵は上体を起こした。途端に呼吸が楽になる。

「ぜーぜーぜー……一体今のは……」

「やっと起きたわね葵」

 すぐそばでオーバーオールを着た姫子が呆れた様子で葵を見ていた。

「姫子……?」

「『姫子』じゃないでしょ?一体いつまで寝てるつもりよ」

「寝てた……?」

 混乱状態にあった葵の思考回路が、徐々に正常さを取り戻していく。

 そして、すぐ近くに枕が落ちていることから、眠っていた葵の顔に姫子が枕を押し付けて無理やり起こしたということは、容易に想像できた。

「お前なぁ……もう少しマシな起こし方できないのか?」

「あら?あたしとしてはマシな起こし方してあげたつもりよ」

「アレでマシかよ……それでも、もっと起こし方ってもんがあるだろうが」

「例えばどんな?」

「例えば……目覚めのキスとか……」

「なっ!!」

 途端に姫子の顔が、耳元まで真っ赤になった。

「ななな、何であたしがあんたにそんなことしなくちゃいけないわけ!?冗談じゃないわ!!」

「それくらいサービスしてくれても罰は当たらないぞ?エンジョイ生活送ってもらいたいんだろ?」

「イヤ!!ぜーったい、イヤ!!」

 姫子は凄まじいまでの拒否反応を示す。そして時計を指差した。

「バカなこと言ってないで、さっさと着替えなさいよ!!一体何時だと思ってるの!?もう10時よ!!」

「おおっ。もうそんな時間だったのか」

 葵は時計を見て、独り頷く。

「それじゃあ着替えるとするか」

 葵はおもむろにパジャマを脱いだ。

「キャーーーーーーー!!」

 姫子は悲鳴を上げ、落ちていた枕を拾い上げ葵に投げつける。

「ぐはっ!?何するんだ姫子!?」

 直撃を食らった葵は、非難めいた眼差しで姫子を睨んだ。

「あんたがいけないのよ!!乙女がいるところでいきなり着替えだすから!!サイテー!!」

「バカ!!ここは俺の部屋だぞ!?お前がいることの方が不自然じゃないか!!早くでてけ!!」

「言われなくったって出てくわよ!!バカ!!」

 姫子はそう怒鳴ると、足早に葵の部屋を出ていく。

「……ったく……なんなんだよ一体……」

 不可解な行動をとる姫子に対して憤りを覚えながら、葵はベッドから抜け出した。

 そして素早く着替えを済ませる。

「せっかくの休みだっていうのに……なんであんなやつに町の案内なんかしなくちゃいけないんだ……」

 葵は釈然としない気分ではあったが、同時に平気で出刃包丁を持ち出す姫子の姿を思いだす。

「ふぅ……」

 葵は部屋を出ると、1階へと下りていった。

「もぅ!!遅いじゃないのよ!!」

 玄関では既に姫子が葵の姿を今や遅しとばかりに待ち構えていた。

「すまんすまん。ちょっと人生の無情さについて考えてたもんでな」

「どうでもいいけど、待たせる人って、女の子に嫌われるわよ?」

「ああ、それについては大丈夫だ。奈緒や萌は待つことが大好きだしな。それに、もっと待つことが大好きなやつ、俺は知ってるから」

「へぇ。そんな奇特な人がいるのね」

「ああ、目の前にな」

「……はい?」

「お前だよお前」

 葵は姫子を挑発的に指差す。

 案の定姫子は怒り出した。

「なーんであたしが待たされるのが好きじゃなくちゃいけないわけ!?逆よ逆!!」

 姫子は葵をキッと睨むと、靴を履いた。

「バカなこと言ってないで、さっさと行くわよ!!」

 そして戸を開けて外へと出る。

「まったく、可愛げのないヤツだな……」

 葵は苦笑しながら靴を履き、姫子の後を追った。

 外はすっきりした青空が広がっており、雲が風に乗ってゆっくり流れていく。

「いやぁ、なかなかいい天気だな」

「そうね。それで、最初はどこへ案内してくれるの?」

「それじゃあ、最初はここなんかはどうだ?」

 葵はそういって、自分が出てきた家を指差した。

「?」

 姫子は意味がわからず、首をかしげる。

「ここが俺の家だ」

 葵はエッヘンと胸をはって姫子に教えた。

「そんなの見ればわかるわよ」

 姫子は呆れながらため息をつく。

「それで、次はどこに案内してくれるの?」

「もう終わりだ」

「はっ?」

「それじゃあ、案内は終わったから」

 葵はすました顔でそのまま家の中に戻ろうとする。

「待ちなさい!!」

 しかし、姫子が葵を呼び止た。

「あんた、そんなに死にたいわけ?」

 そして葵を睨みつける。

「……ったく、冗談が通じないやつだなぁ」

 葵はめんどくさそうに頭をかく。そして逆に姫子に質問した。

「まったく、案内って一体どこに案内すればいいんだ?」

「うーん……」

 姫子は少し考え込む仕草を見せると、ポンと手をたたいた。

「紅林先輩の家なんてどう?」

「はぁ?奈緒の家だぁ?」

 思いがけない回答に、葵は顔をしかめた。

「うん。あたし紅林先輩の家に行ってみたい!!」

「おいおい……なんで奈緒の家に行く必要なんかあるんだ?」

「決まってるじゃない。あんたの彼女がどーゆーところに住んでるのかくらい、調査しとかなくっちゃ」

「だから、奈緒は俺の彼女じゃない!!」

「細かいことはいいじゃない。さ、案内してよね」

 姫子はノリノリな様子で葵にせがむ。

「……ったく……」

 断りきれないと悟った葵は、何事もトラブルが起こらないようにと願いつつ、奈緒の家へと向かった。

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