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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
5月 木漏れ日の公園
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5月 木漏れ日の公園 パート2

 本屋に寄ったり、ファーストフード店に寄ったり、ゲーセンに寄ったりと、奈緒といろいろ寄り道をした結果、葵が家に帰ってきたのは既に時刻も6時を回っていた。

 空はうっすらと茜色に染まり、カラスがゆっくりと遊泳していく。

「ただいま」

「あっ、お帰り~」

 葵が玄関を開けて家の中に入ると、台所から姫子がひょっこり顔を出した。リボンをはずして髪をアップにし、エプロン姿になっているところから料理を作ってる最中だということが窺い知れる。

「ナイスタイミングね。もうすぐ夕食の用意できるから」

「へいへい」

 葵は靴を脱いで家に上がると、二階にある自分の部屋へと向かった。

 そして自分の部屋の前へとたどり着くと、ドアを開け、夕陽によって紅く彩られた染まった部屋の中へと入る。

 窓辺から上空を見上げると、今日も色鮮やかな夕焼け空が広がっていた。

 感動とむなしさが、同時にこみ上げてきて複雑な心境になる。

 葵はかばんを机の上に置き、制服から普段着に着替えると、1階へと降りていった。

 台所から食欲をそそるような芳香が漂ってくる。

 家事は葵と姫子が分担することになっており、今日は姫子が食事を作る日であった。

 神津家に押しかけてきた当初は食べられないようなシロモノばかりを作っていた姫子であったが、持ち前の負けん気の強さも手伝って、最近はそれなりに腕が上達しつつある。それでも奈緒の料理には程遠いなと葵は思っていたが、自分も料理があまり得意ではないので、そのことを強く言うことはしなかった。

 葵は匂いにつられるように台所へと入った。

 姫子がガスコンロに向かいながら炒め物をしている。

「もうちょっとでできるから、そこに座って待ってなさいよ」

 姫子は葵が入ってきたことを気配で察すると、振り向くことなく言葉だけをかけた。

「へいへい」

 葵は言われたとおり、椅子に腰掛けて待つことにした。

 テーブルの上には、既に食器が並べられている。

「はい、おまたせー」

 姫子がピーマンの肉詰めを完成させて、テーブルの上へと置いた。

「それじゃ、食べましょ」

 姫子は椅子へと座り、ご飯を茶碗によそう。

「ほい。ちょっと多めに頼む」

 葵は注文をつけて姫子に茶碗を渡した。

「はいはい」

 姫子は茶碗を受け取り、ちょっとどころかてんこ盛りにご飯をよそって葵に渡す。

「俺……ちょっと多め、と言ったんだが……」

「文句言わないでよ。それくらい食べられるでしょ?男なんだから」

 姫子は文句があるのであれば自分でやれといわんばかりに葵は反論する。葵は苦笑するしかなかった。

「それじゃあいっただっきまーす」

「いただきます」

 姫子と葵は、それぞれ食事前の挨拶をすませると、箸を手に取った。

「うーん、今回の料理、我ながら自信の出来栄えだわ。ね?あんたもそう思うでしょ?」

 ピーマンの肉詰めを口に運び、幸せそうな笑顔を浮かべる姫子が、葵に同意を求める。

「ああ。そうだな」

 葵はそっけなく答えた。

「でしょでしょでしょ!?あたしもやればできるのね!!」

 姫子は、葵の言葉を聞いてますます有頂天になり、自画自賛する。

「あっ、そうだ」

 しかし何かを思い出したかのように急に真顔になると、箸を口の中につっこんだまま葵に尋ねてきた。

「あんたさ、明日暇?」

「はぁ?」

 唐突な質問に葵は怪訝な表情を浮かべる。

「暇か暇じゃないかって聞いてるの」

「まぁ……一応暇だけど」

「そっ?ならよかった」

 それを聞いて姫子はにっこり微笑んだ。

「それじゃ葵、町の案内よろしくね」

「はぁ?」

 姫子の突然の言葉に、わけがわからず葵は目を丸くする。

「何で俺がお前を案内せにゃならんのだ?」

「当然じゃない。同居人なんだから。ちゃんと自分の住んでる町くらいよく知っておかないとね」

 姫子はもっともらしい理由を言って、独りウンウン頷く。

「だったらお前独りで行ってこいよ。俺は嫌だね」

 葵はその申し出をきっぱり断ると、肉をご飯の上に乗せてパクパク食べる。

「別にいいじゃない。減るもんでもないし。何で嫌なのよ?」

「面倒だから」

「面倒だからって……あんた、残り少ない人生、十分エンジョイする気はないの?」

「お前を案内することがエンジョイすることになるとは、到底思えん。それだったらごろ寝してた方が、まだマシだ」

「なんかムカツクはね……」

 姫子は拳を震わせる。葵は茶碗を置くとため息をついた。

「事実を言ったまでだ。まったく奈緒といいお前といい、どーして出歩くことが好きなのかね?」

「えっ?紅林先輩?」

 突然奈緒の名前を出されて、姫子はキョトンとなった。

「ちょっと?それ、どーゆーこと?」

「どうしたもこうしたも、奈緒の奴がどこかに行きたいって言ってたからよ」

「紅林先輩が?ふーん……」

 姫子は納得したように頷く。しかし、その表情がすぐに険しいものへと変貌した。

「まさか、あんた紅林先輩の誘いを断ったんじゃないでしょうね!?」

「ああ。もちろん断った」

 葵は即答する。すると、姫子は非難めいたまなざしを葵に向けた。

「なにそれ!?しんじらんなーい!!女の子の誘いを断るなんてサイテー!!」

「『サイテー』ってなぁ……なんで俺が奈緒と一緒にどこかへ行かなきゃいけないんだ?」

「そんなの決まってるじゃない!!恋人同士のデートは週末、って相場が決まってるもんなのよ!!」

「バ、バカ言え!何で俺と奈緒が恋人同士なんだ!?あいつはただの幼馴染!!」

「あら?あんたはそうかもしれないけど、向こうはそうは思ってないかもしれないわよ?」

「な、なに?」

「ほんっとうに鈍感な男は困るわ。あーヤダヤダ」

「おい!!それはどーゆー意味だ!?」

「言葉どおりの意味よ。ま、いいわ」

 姫子は茶碗を置くと、静かに立ち上がった。

 そして調理台に近づき、まな板の上から刃先のとがった出刃包丁を手に取り、しっかりと握り締める。

「お、おい……姫子。何の真似だ……?」

「葵、今あんたには二つの選択肢があるわ」

「はぁ?選択肢だ?」

「ひとつは明日、あたしにこの町を案内すること」

「……もし断ったら?」

「その時は……あたしがあんたを三途の川に案内してあげる!!」

 姫子はそう言うなり、出刃包丁の刃先を葵に向けた。

「げっ!?」

 それを見た葵は思わず椅子から転げ落ちそうになる。

「な、何考えてんだお前は!?あぶねーだろうが!!」

「あら?あたしは本気よ。あんたが助かる道はただひとつ、あたしに町の案内をするしかないの」

 姫子は冷たく微笑みながら葵に出刃包丁を構える。刃先が怪しく光った。

「さっ。どうするの?」

「どうするって……なんで俺がお前のようなかわいげのない死神なんかを……」

「あー、もうムカツク!!」

 姫子は素早い動作で葵の後ろに回りこむと、彼の喉元に出刃包丁を突きつけた。

「するの!?しないの!?どっち!!」

「うっ……案内すればいいんだろ……すれば……」

「なんか素直じゃないわね……イヤなら別にいいのよ?」

「い、いえそんなことは……喜んで、案内させていただきます……」

「よろしい」

 その言葉を聞いて姫子は満足そうに頷くと、出刃包丁を葵から離した。

 そしてまな板の上に出刃包丁をおくと、椅子に座って何事もなかったかのようにご飯を食べ始める。

 葵は改めて姫子の恐ろしさを実感せずにはいられなかった。

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