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茜色の宝石箱  作者: 杠葉 湖
5月 木漏れ日の公園
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5月 木漏れ日の公園 パート1

 3時限目のチャイムが鳴り終わると、葵はボーっと窓の外を眺めた。

 桜の季節もすっかり過ぎ去り、若葉薫る木漏れ日が眩しい季節が到来している。

 青空には飛行機雲が一本、たなびいている。

 光陰矢のごとし。時間というのはあっという間に過ぎ去っていく。

 姫子が来てから早くも1ヵ月が経とうとしていた。

 自分に残された時間は残り11ヶ月。

 こんなだらだらした生活を送っててもいいのか、と葵は自問自答してみるが、現実感が沸いてこない。

 しかし、自分の死期は確実に迫っている。

「ふぅ……」

 葵はため息をついた。

「どうしたのアオくん?ため息なんかついちゃって」

 そこへ、鞄を持った奈緒がやってくる。

 平日と違って、土曜日は午前中しか授業がない。

 なので、奈緒は土曜日は大抵、授業が終わると鞄を持って葵の席へとやって来るのだ。もちろん一緒に帰宅するためである。

「いやぁ、人生ってなんて儚いのかなぁ、って思って」

「えっ?」

「最近思うんだ。あの流れ行く雲のように自由気ままに生きてみたい……なんて」

 葵は柄にもなく、感傷的なことを口走る。

「アオくん……」

 心配そうな表情で、奈緒は葵を見る。

 内心しまったと思い、葵はとっさに違うことを口走った。

「まぁ、奈緒がもっとしっかりしてくれれば、俺もこんな悩みを抱かないですむんだが」

「え~っ!?ボクしっかりしてるもん!!しっかりするのはアオくんのほうだよっ!!」

 途端に奈緒はムスッと膨れた表情になる。

 葵は意地悪く笑った。

「そうかぁ?今時『お菓子の家を食べてみたい』なんて言ってるやつが、しっかりしてるなんてとてもじゃないが思えん」

「わわわっ!!そ、そんなことここで暴露しなくてもいいじゃないか!!」

 奈緒は顔を真っ赤にして、慌てて葵の発言をさえぎろうとする。

 葵はいつもの調子に戻った奈緒を見て、ホッと胸をなでおろした。

 心配性の奈緒に余計な心配をさせたくない。

 それは葵なりの心遣いでもあったのだが、時としてその心遣いが彼女を余計苦しめてしまうことになる。

 しかし今はこれでいいと、葵は思った。

 定められた運命から逃げ出すこと、それは監視者がいることによって絶望的な状況であった。

 おとなしくうけいれるしかない。

 ならば残された時間、精一杯生きてみよう。

 そうは思うものの、まだどこか現実離れした現実を受け入れられない自分がそこにいた。

「さーて、帰るか」

 葵は鞄を持つと席を立ちあがった。

 帰宅部である葵は、やることもないので後は家に帰るだけであった。

 いつもは同じく帰宅部である奈緒とともに下校し、ファーストフード店に立ち寄って食事をすませたり、奈緒が葵の家にきて昼食を作りにきたりしてくれるが、一人で昼食をすませることもある。

「それじゃあな」

 友人の男子生徒と二言三言挨拶を交わして葵は教室を出た。その後を奈緒がついてくる。

「奈緒、今日はどうする?」

「いつものようにポッテリアでいいんじゃないかな?」

「そういえば、確か新メニューができたんだよな?牛フィレステーキバーガーとかいう。いかにも奈緒が好きそうなメニューだな」

「それはボクじゃなくってアオくんでしょ?」

 奈緒は呆れてため息をつく。

 そして唐突に話題を変えてきた。

「ところでアオくん、ちょっとお願いがあるんだけど……いいかな?」

「おごれって言うならお断りだぞ」

「そうじゃなくって、明日、暇?」

「うーん……暇といえば、暇かな?」

 葵は少し考え込みながら、答える。

 すると奈緒の表情がパッと輝いた。

「ねね。アオくん。それじゃあ、明日どこかへ行かない?」

「ヤダ」

 葵は即答する。途端に奈緒が不満そうに頬を膨らませた。

「え~っ!!なんでぇ~!?」

「行きたくないから」

「どうして!?暇なんでしょ!?」

「だから行きたくないから」

 葵はぶっきらぼうに答える。

「まったく、暇人は気楽でいいよな。俺にはその神経が理解できん」

「アオくんだって暇人じゃない」

「いやぁ実は、忙しいといえば忙しいんだ」

「えっ?」

 奈緒は葵の意外な言葉に目を丸くする。

「日曜日、何か予定があるの?」

「ああ、デートの約束が……」

「ええっ!?」

 奈緒は驚きの声を上げ、表情を曇らせた。

「そっか……デートなんだ……じゃあ、仕方ないよね……」

 そして悲しそうに呟く。

 葵はそんな奈緒の頭をポンポンとたたいた。

「……なんて言ったらどうする?」

「……えっ?」

 奈緒は最初、葵の言った言葉の意味がわからなかったが、からかわれているということに気がつくまでに、そう時間はかからなかった。

「アオくん!!」

「ははは。冗談に決まってるだろ?でも、明日忙しいことには違いないな」

「どうして?」

「いやぁ、明日は寝て曜日って決めてるから」

「それって全然忙しくないじゃないか」

 奈緒はあきれてため息をつく。

「たまの休みくらい、外で元気に動かないと病気になっちゃうよ?」

「そう簡単に病気になってたまるかよ」

「でも……どうしてもダメ?」

「ダメだ」

「ちぇ。つまんないなぁ……」

 奈緒は不満そうに愚痴をこぼす。

 そして二人は、そのまま他愛のない会話を交わしながら帰路についた。

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