玄室開けたら二分で蒸発 ~骸骨はダンジョンの外へ出たいようです~
深淵なるダンジョン。深く潜れば潜るほど強力なモンスターが待ち構える。
その最深部には玄室がある。玄室の中央には石で出来た棺が安置してある――魔術的な意匠を凝らしたこの棺、一体中には何者が封印されているんだろうか。
僕? 僕は玄室を照らす明かりことウィスプっす。お仕事はずっと玄室を照らすこと!
今日も頑張って玄室を照らすっすよー。シャイニングウィーザード!
あれ? 棺の蓋が動いてるっす。
ギギギギと石が擦れる重たい音がして、棺の蓋が半ばほどまで動くと中から人間の骸骨が姿を現した……
「あのオリジンバンパイアめ! 決して、決して許さぬ。吾輩を!」
出て来るなり骸骨が、ワナワナと肩を震わせ何か言ってるっす! しかし正直ビビったですよ。まさか、棺に入っていたのはこんな骸骨さんだったなんて。
「オリジンバンパイア? 何言ってんすか?」
「む。お前は......アルか?」
骸骨さんが勝手に僕へ名前をつけたっす!
「僕はただのウィスプっす。アルじゃあないです」
「おお。お前も吾輩と同じ奴にやられたのだな。記憶まで」
「い、いや、だから僕はただの明かり! ウィスプですって」
「よいよい。もうよいのだ。アル。ここから外へ出るぞ」
話を聞かねえっす! 骸骨の癖にえらそうな。だいたい、オリジンバンパイアってアンデットの中でも最高位じゃないっすか。骸骨さんあなた、ただのノーマルスケルトン。
アンデットの中でも最下位中の最下位っすよ。部屋の明かりの僕と変わらんっすよ。
「骸骨さん。出るってここはダンジョン最深部っすよ? 外には深部のモンスターがひしめいてるすよ」
「何を言うか。アル。我らの力を持ってすれば容易いことだ。あと私のことは師匠と呼ぶがいい」
ふんぞり返って骸骨さんが何か言ってますけど。師匠っすね。了解したっす。
「骸骨師匠。自分の力分かってます?」
「ん?」
骸骨さんは自身の身体をベタベタ触り、何か魔法を唱えたです。すると、頭を抱え震え出した。「な、なんてことだ……」とか言ってますけど。こっちがそう言いたいっすよ。
「力を失ったか。しかし我らは不死の存在。焼かれても進めばよい」
「強引っすね!」
「……まあいい。アル。ダンジョンを進むにはマッピングが必要だ。二十メートルを一マスとし、地図を作る」
骸骨師匠はそう言うや、手のひらが光りメモ帳が忽然と現れる。これにマッピングをするってことっすね。
玄室は二十メートルのマスで表現すると正方形に四つのマスで書くことが出来る。
「分かりました。師匠! 一応考えはあるんですね!」
「当たり前だ。ここのマッピングは終わったな。ならば、二つある扉、どちらかを開こうじゃないか」
玄室には北と南に扉があり、ここから外へ行くことができるっす。北と南って方角は今決めたのですよ。師匠が。
骸骨師匠は無言で北に向きなおったから、僕が北の扉を開くことになった。あ、ウィスプでも扉は開けるんですよ。不思議パワーで。
北の扉を開くと、
――密林が広がっていた。
「……」
「……マップかけないっすね」
――扉を閉じる。
「アル。ダンジョンにはマッピングが必要だ」
壊れた時計のように師匠が言葉を繰り返したから、僕は再度扉を開く。
――やっぱり密林だった。マッピング無理っす。
「……まあ、いい」
メモ帳を投げ捨てた師匠は南の扉に向かう。南の扉を開けると草木一つ無い岩肌が遠くが霞むほどの距離まで広がっていたっす。
師匠は無言で扉を閉めると、何やらブツブツ言っているんですけど、怖い……
「行くぞアル!」
師匠は何かを振り切ったように、南の扉を開く。僕もその後に続き荒野へ一歩踏み出した。
「あ、師匠。草木一つない理由分かりました」
「……うむ」
岩肌だけで、草木一本無い焼野原。その原因は僕らの目の前にいるお方。
――古代龍のブレスのせいだったー!
そして、古代龍はこちらを睨んでいる。
「し、師匠。こっち見てるっす」
「……うむ」
「うむ以外ないんすか?」
「……アルよ。先ほど吾輩が言った通り、我々はアンデットだ」
「そうっすね」
「だから、ブレスで焼かれようが前に進めばいいのだ」
「痛みも感じないですしね」
「……うむ」
ゾンビアタックで気にせず前に進む僕たちへ、当然ながら古代龍のブレスが直撃する! いやあ、壮観ですね。ほんと。五十メートルじゃきかない範囲ですよ。このブレス。
さすが、龍の中でも最上位種「古代龍」ですね。
あれ、意識が遠く……
◇◇◇◇◇
気が付くと僕は玄室を照らしていた。あれ? どうしてここに?
ハッとなって棺を見てみると、棺の蓋は閉じている。さっきまでのことは何だったんだろう? 夢? 変な夢だったっすねー。
と、棺の蓋がギギギギと鈍い音を立てながら動いている……まさか、師匠?
「アル。我々はどうやらここへ引き戻されたらしい」
出て来たのは骸骨師匠だった。さっきまでの事は夢じゃなかったらしいです。
「どういうことっすか?」
「倒されると、ここへ戻されるのかもしれない。実験してみよう」
師匠の手のひらが光ると、ロウソクが現れ、僕に火をつけるようにと、ロウソクを床に置く。
いや、僕人魂じゃないっすから、火はつけれないと師匠に伝えると師匠が魔法で火をつけたみたいです。
「そのロウソクを見ていてくれ」
師匠はそう言い残し、再び南の扉を開けて古代龍のブレスで蒸発する。
すると、玄室に居た僕の意識まで遠くなってくる。
気がついたらまた玄室を僕は照らしていた。これは?
棺から出て来た師匠が、僕の様子を確かめる。
「アル。ロウソクが無いようだな」
「あ、そういえばそうですね」
「ひょっとしたら……」
師匠はまたロウソクを取り出し、古代龍に蒸発させられと十回ほど繰り返したけど、そのたびに僕の意識も遠くなって最初の位置へ引き戻された。
「アル。我々がやられるとだな。最初に戻る」
「え? それは分かってたことじゃないですか?」
「違うのだ。アル。言葉の通りだ。吾輩が棺の扉を開ける前まで戻るんだ」
「それって、時間ごと巻き戻るってことっすか?」
「うむ。つまり、この先進んだとしても、やられると全て元に戻る」
「うひゃー。それはめんどくさいですねー」
「何らかのスイッチを押してから蒸発して、元に戻り次のスイッチを押しに行くといったことはできないのだ!」
「良くわからないっすけど。脱出が難しくなったっすか?」
「うむ。しかし吾輩に不可能は無い!」
玄室から外へ一歩も出てないのに何故か師匠は自信満々ですよ! 果たして僕たちは外へ出れるんだろうか。
ま、僕はどっちでもいいんですけどね。楽しければ。
連載できるかのお試し版です。
もし連載するとすれば、ウィスプ視点は若干書きづらかったので骸骨視点になるか三人称にするかもしれません。