*030 Rion 「あなたの隣」
頒布版1巻を予定している「刹那の章」はここでおしまいです。
堕ち人と対峙してから、数日が経過した。私もあの戦闘からの後遺症は見られず、外傷も少ないため一晩で病院を出た。
「ごめんね、こんなことに巻き込んじゃって」
隣を歩くライアが言う。
「謝らないの。それに、あなたが怪我をしたら、治すのは誰かしら?」
やや挑発的にそう言うと、ライアは頼りにしてます、と微笑みながら言った。
今日は国王の元へ挨拶に行く日。世界を救うための旅路の第一歩だ。私達は軽い雑談を交わしながら城下町へと向かう。
「よく来たな」
国王が王座で私達を待っていた。
「一時はどうなることかと思ったが、返事はしかと確認させてもらった」
ライアを見据えて彼は言う。
「今日、発つんだな」
その少々重く言う問いかけに、ライアははい、とだけ答えた。
「白魔術師、リオンよ」
唐突に私の名を呼ぶ王。私ははいと返事をして続きを待つ。
「先日送った名誉帝国魔術師の勲章、自由に使うといい」
国が管理する魔術施設への出入りが容易になるだろう。必要になったら、利用してくれ。そう言い終わると、しばし黙り込んだ。
帝国魔術師はハイッセム帝国が管理する魔術施設に安価で出入りできる。基本的に一般的な魔術師の出入りは色々な手続きが必要になり、手数料も安くはない。しかし、これを持っているだけでその手続は省略される。旅をする上では重要なアイテムとなるだろう。
「こうして会うことも、暫く無くなるな」
少し俯いて、彼は言った。
「君の父との別れも、このようなものだった」
久しぶりに此処に顔を出したかと思えば、少し長旅をすると言ったきりだ。彼は呟くように言った。
「もう、あれから四年経ったんですね」
ライアは過去の想い出を追憶するように瞳を閉じた。
私も、ライアのお父さんにはよくお世話になった。彼が旅に出ると言った時も、私は少々寂しい気持ちがあったものだ。
「では、行ってきます」
別れを惜しまず、ライアはそう告げた。世界を救って、またここに来よう。きっとライアはそう思っているのだと、彼女の固く決意した表情から受け取れた。
「ああ、達者でな」
その国王の言葉とともにライアは踵を返して歩き出した。一歩遅れて、私は国王に一礼してからライアを追った。
玉座の間を出ると、ライアはもう一つ寄りたいところがあると言う。どこに行くの? と尋ねる必要もなかった。足を向けたのは、ハイッセム城下墓地。
――――ー。
「久しぶり、というのは、少し違うかな、エノーラ」
ライアはエノーラの墓の前にしゃがんでそう呟く。
あの葬式以来、ライアは一度もここには立ち寄っていなかった。
「少し寂しいけれど、これ以上犠牲を出さないために、私は行くね」
また、帰ってきたときに顔を出すね。それまでは暫く。待っててね。ライアはそう言うと暫く目を閉じて黙祷し、やがて立ち上がった。
「……もう、いいの?」
私がライアに尋ねると、うん、大丈夫だよと答えて振り返る。
その表情は、酷く明るかったと思う。そう感じた。ただ、酷く脆いものだとも思った。
「それじゃあ、行こっか」
ライアは私の前を通り過ぎ、城下墓地の出口へと向かう。今度は少し早足で彼女に追いついて、隣を歩いた。いつまでも背中を見ているだけじゃいられない。共に行くのだ。封印の地へ。
私達の旅はここから始まる。
この悲惨な事件も、謂わば序章に過ぎない。
刹那に過ぎたこの数日間は、私達にとって絶対に忘れられないものとなった。
城下墓地を出てその場で振り返る。
そこには、蒼く煌めく一匹の蝶が、私達の出発を見送るように舞っていた。
『あなたの決意は間違いなんじゃない。私はそう信じている。たとえ悠久の別れが来るとしても、私はあなたの為に、生き続けると、その時誓った。』
頒布版2巻を予定している「訣別の章」は現時点では公開の予定はありません。
頒布版1巻がどれだけ捌けるかに対して、継続するか決定します。
頒布は「この声届け、月までも 参」にて。
2017年5月4日(木・祝)
大田区産業プラザPiO 大展示ホールにて開催
http://yukari.blueskywings.net/
サークル名「ファンタジック・フラワーガーデン」




