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025 Lia 「一抹の不安」

時系列の関係で今回は少し短めです。

 突然駆け出したリオンは、あっという間に雑踏の中へ消えていった。私は彼女を追おうと一歩前に出たが、彼女の行き先の心当たりに自信が無かった。

 結局その場で立ち尽くす。一体何をやっているんだろうと自分を責め、踵を返して一度家に帰ろうと歩みを進めた。

 暫く考え事をしながら歩いていると、突然後ろから肩を叩かれた。

 振り向くと、そこには見覚えのある整った顎髭の大男が居た。


「エドワードさん?」


 私は彼の名前を口にする。


「おお、やはりライアだったか」


 呼び掛けても返事が無かったから人違いかと思ったと、彼は続けた。

 物思いに耽っていたからであろうか。彼の声が右から左に、いや、後ろから前に通り抜けて気が付かなかったのだ。結果的に無視をしたという形になってしまったことに対しまず謝罪をし、私はどうかされたんですか、と続ける。


「いや、特に用事は無かったのだがな、城周辺の見回りをしていたところお主を見つけたから声をかけただけの話だ」


 彼は僅かに微笑みを見せた。その表情はとても柔らかいものだったが、先の事件の事もあってか僅かに哀愁が漂っているように感じた。


「葬儀を終えてから国王の話を聞いてきたのだろう。私も簡易的な内容は耳にしている」


 世界を救うために、北の霊峰へと旅立つ。そんな逸話めいた話に、私はまだ実感を持てないでいた。


「はい。返事に少しだけ時間を頂きました。まだ、現実味が薄くて」


 冗談で言われている訳ではないことは重々承知していたが、私はそう答える。


「無理もない。神話の時代にまで遡る馬鹿げた話だ」


 だが、他に頼れる情報が無い。藁にも縋る思いなのだと、彼は城を見上げて言う。

 エドワードは革命以前から帝国召喚士として国に仕えていた。その為アルフレッド王との付き合いも相当長いものなのだろう。彼の表情は子の成長を見守る親のように、少々懐かしみを帯びたものであると感じた。

 暫く私達は何も喋らず立っていたが、その沈黙は彼の言葉によって破られる。


「今日はミーナスと……確か、リオンといったかな? 二人も一緒だと耳にしていたが、どうやら一人のようだな」


 周囲を見渡しながらエドワードが言う。


「ミーナスさんは他に用事があると言って露店が集まっている方へ向かいました。リオンは……」


 そう口にしかけて、どう説明しようか迷った。


「リオンは、城を出て少し話をした後、急に走り出してどこかに……」


 リオンが走り去った方向を見詰めながら、私は言う。

 私はきっと不安そうな表情をしていたのだろう。彼が私を見て心配か? と訊ねてきた。


「そうですね。少し、心配です」


 いつもは心配される側なんですけどね、と私は苦笑しながら言う。

 彼は考え事をするように手で顎に触れ、僅かに俯く。


「お主も今は気持ちの整理をしたいところだろう。余計な心配は少しでも減らすべきだな」


 しかし困ったものだと彼は続ける。


「リオンの行き先がわからなければ不安が増すだけだろう。帰りが遅くなれば心の整理もつかん」


 彼は腰に手を当て、提案がある、と続けた。


「私が彼女を探しておこう。必要であれば彼女の手助けもする」


 それでどうだ、と私を見詰める。

 探すとは言うものの、彼とリオンは面識がない。彼女のもとにたどり着くのは私より大きく時間がかかるのではないだろうか。私はそう考え、それをそのまま問いかけた。

 しかし、彼は少し自慢気にこう答える。


「私を誰だと思っている。帝国召喚士のエドワードだ」


 方法はある、と彼は言う。


「リオンが普段使っている道具などは持っているか? こう言うのは忍びないが、髪の毛のような身体の一部でもいい」


 それを元に、私の追跡魔術で彼女の居場所を探ろう。彼はそう言い、私の返事を待った。

 リオンの私物……私は小烏丸を包む袋に巻きつけた小物入れの中を探る。さすがに髪の毛は入っていなかったが、一枚の魔術が刻まれた羊皮紙を取り出した。

 リオンが作った治癒のインスタント。これを見るとエノーラの事を思い出して心が痛むが、リオンの厚意を無駄に出来ず残ったものを肌身離さず持ち歩いていた。


「これ、リオンの作ったインスタントなんですけど……」


 そう言ってインスタントを渡し、小物入れの紐を縛り直した。

 おお、これは好都合だと彼は口にする。


「魔術師の魔力というものは同じものが一つと存在しないのだ」


 どの様な傾向の魔術を得意とするかに違いは出るが、これ以上に追跡に向いた手掛かりは無いだろう。彼はそう言ってインスタントを懐に仕舞った。

「では、ここは私に任せて帰りなさい。お主には答えを出さねばならないものが残っている」

 彼は急かすように言った。確かに、力のある召喚士がついてくれるのであればリオンへの心配も多少は削がれる。自分で状況を確認できないという事実には変わりなく少々不安ではあったが、彼はこの国の為に私の心配事を減らしているのだ。そう考えると、彼の言葉に大人しく従う他無かった。


「……わかりました」


 でも、他に仕事は無いんですか、と最後に問う。

 彼は苦笑いをしながら答える。


「先日の件で大きく魔力を消費したという話をしたところ、国王に今日は休むよう命ぜられてしまってな。他の帝国魔術師らは魔物の研究で大忙しなのに、忍びない話だ」


 気分転換に町を見回っていたところ、お主を見つけたという訳だ。


「暇な老人だ。だからこそ少しでも国の……お主の力になりたいと思ってな」


 索敵の魔術を使う度、額から汗が吹き出ていた彼の姿を思い返す。やはりあれは少々無理をした魔術の使い方だったのだろう。


「それなら、お願いします」


 私はエドワードに感謝の言葉を告げてその場を去った。暫く歩いてから振り返ると、彼はまだ私を見守っていた。それに気づいた彼が手を振ったため、会釈を返して早足にその場を去った。


 不安が消えたわけではない。ただ、帰ってちゃんと考えるという選択肢を選ぶことが出来たのはきっと大きい。今でも頭の中は色々な出来事や考えでかき混ぜられているのだ。

 私は終始考え事をしながら歩き、何度か人にぶつかりそうになりながら帰路についた。

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