表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/30

021 Lia 「昇り、沈む日」

 眠れないと思った。

 落ち着かない程黒く染まった空。そんな暗幕を見つめながら、そのまま朝を迎えるのだとばかり思っていた。


 しかし、それでも私は泥のように眠った。いや、だからこそかもしれない。疲弊しきった心身は、どれだけ落ち着かなくても休息を強く訴えていたのだ。

 上半身を起こすと、身体の節々に痛みがあったり、凝り固まったりしていてうまく動かなかった。窓から外を見ると、既に日の光が南から西へ向かおうとしていた。


 もう一日のうちの半分以上が過ぎているということだ。


 こんな時間まで眠っていたのは久しぶりだ。普段は毎朝リオンが起こしに来てくれていて、それが当然になっていたからだろうか。やはり彼女が来ないといつまででも眠ってしまいそうな感覚になる。

 昨日の今日だ。なんとなく顔が合わせづらいという気持くらい彼女にもあるだろう。私自身も、今日ばかりは家を出ることなく一日を過ごしたいと思った。


 私は、昨日起こった出来事と「伝説」に関しての資料を照らし合わせることにした。

 まずは現れた化け物に関して。「グリモワールの伝説」では「魔物」と総称されている。魔物に関しての情報を深掘りしていくと、複数の生き物を無理やり混ぜたような不気味な姿をしているとの記述を見つけることが出来た。これは、最初に出会った二体の化け物が該当する。思い出すと今でもあの吐き気が蘇りそうな感覚に陥るが、目を瞑って振り落とす。


 ……しかし、疑問点が残る。人型をしたあの屍の様な化け物は、一体何だったのだろうかと。最近の事例……と言っても千年前のものしか残ってはいないが、大量にある千年前の出来事に関しての資料を掻き集めた。


 埃を被った書類をめくる。古い紙の匂いと共に埃が舞い上がり、鼻や喉を刺して咳を誘った。

 そうやって調べ物に没頭しているうちに、気付くと外はもう夕焼けの色に染まっていた。そして腹の音と共に、今日一日まだ何も口にしていない事を思い出して、デスクに置いた資料を軽く纏めて席を立った。


 その時、玄関口からノックの音がした。


 誰だろう、こんな時間に。リオンであればノックをせずに直接部屋に入ってくる。その他の村に住む人達も、玄関を開けて私の名を呼ぶ。外部の人間だろうか。私は念のため警戒して、小烏丸を手に取り玄関の脇に立てかけてから、来訪者の対応をすることにした。


「どちら様ですか」


 玄関を開けるとほぼ同時のタイミングで、私は尋ねる。

 鎧を着た若い帝国兵が一人、そこにいた。


「失礼します。私、ハイッセム帝国・帝国直属部隊第二分隊のアベルと申します。王からライア様宛の手紙をお持ちしました」


 そう言って、高価な封筒で丁寧に包まれた手紙を手渡される。


「先日の騒動の鎮圧協力に対する感謝状だと仰せつかっております」


 そう言うと、彼は失礼しますと言ってその場を後にした。

 昨日の騒動に関して王が私の行動を知っている……となると、きっとエドワードが彼にそう報告したのだろうと予想できた。


 私は玄関の扉を閉めて小烏丸を手に取り、部屋に戻った。そして元あった場所に小烏丸を戻し、間もなく日が落ちて暗闇になりかけるであろう部屋を助けるため、天井にぶら下がる照明用のインスタントを発動させる。


 ぼんやりと暖かみのある光がだんだんと強くなり、明るく照らされた部屋の散らかりようが明らかになる。私はそれを見なかったことにし、手紙を持ってデスクに戻った。

 手紙を開封すると、二枚の羊皮紙とカードの様なものが一枚入っていた。カードの四隅が丁寧に金箔で装飾された作り。

 このカードは、ハイッセム場内への入場券で間違いないだろう。


 一枚目の内容の入りはこうなっていた。


   *


明日の夕刻、城下町墓地において先日の騒動の被災者を弔う式を執り行う。

登録傭兵ライアは、これに出席されたし。"


   *


 読み進めると、昨日の騒動は三十人を超える死亡者の他、二十人にものぼる行方不明者が出たということが分かった。この一枚目に関しては、葬式出席の命と状況の報告のみが簡潔に記述されていた。王からの手紙、と言うには少々業務的に感じさせられる文章であった。


 私はその一枚目をデスクに置き、二枚目を読む。


   *


 剣士ライアへ


  この度の騒動での協力、誠に感謝する。

  貴方(きほう)の働きはエドワードから耳にした。


  褒賞を与えるため、ハイッセム城まで来られたし。

  貴方の友人リオンと、エリオミーグ村の村長ミーナスも同行せよ。


  また、貴方は帝国指定の登録傭兵と記憶している。

  依頼したい案件があるため、それなりの準備を願いたい。


   ハイッセム帝国

    国王 アルフレッド=ハイッセム


   *


 国王から直々の呼び出し。それほどまでに、私の功績は大きかったのだろうか。

 私は手紙をデスクの上に置く。


 褒賞と依頼。この騒動によってエノーラが亡くなった。その出来事のせいか、この件について深く考える気になれなかった。未だに現実味の無い感覚が纏わり付いているのだから、それも当然だろうか。


 椅子に深く腰掛け、記憶を辿る。

 最後に国王に会ったのはいつだっただろうか。記憶が曖昧だ。

 私は過去の想い出を掻き集めるようにして探った。あれは、父と一緒の時だったかな。

 ――――。


   *


「――――本当に、良いのか?」


 落ち着いた若々しい男の声がする。革命を終え、国の混乱がある程度収まった頃だ。王もまだ皺ひとつない青年じみた顔だった事だろう。


 この頃の私は、片手で年齢を数えても指が余る年頃だったと思う。当時は彼らが何を話しているのかよくわからなかったが、その言葉だけは思い返すとよく憶えているものだった。


「ええ。この子の為に、せめて一人で生きられるようになるまでは傍に居てやりたい」


 私の頭を撫でる父の大きな手。とても暖かくて安心する手だったと思う。


「……ここを去った後は、どうするんだ」


 淡々と問う国王。私はそんな王と父を交互に見詰めていた。


「……妻の故郷の村で世話になり、この子を育てます」


 先日その村の村長に掛け合いました。妻はその村長の姪なんです。私が父の手へと伸ばした手を握り返してくれながら、そう言っていた。


 暫くの沈黙があった。その間、私は不安になって父をじっと見詰めていたのをよく憶えている。


「――――そうか。わかった」


 王は逡巡した後まっすぐと父を見てそう答えた。


「ありがとうございます」


 父は深々と礼をした。私もそれに習って王に頭を下げる。

 王は苦笑いをする。


「そんな他人行儀な事はやめてくれ。共にこの国を変えた仲間じゃないか」


 私と父は、ほぼ同時に顔を上げた。


「私にとってお前は、人生で最大の友だ」


 握手を求めるように王が手を伸ばす。


 父は、何も言わずにそれを握り返した。そして、混ざろうと手を伸ばす私を気遣って二人はしゃがんでくれたのだ。


 それは、最初で最後の「三人の握手」だった。


 ――――――――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ